23話 ロボット達との再会
エリオがどこか申し訳なさそうにしょぼくれている。
何かあった時のために両手を開けているが、その手は所在なさげにいじいじしていた。
「ごめんよ、シャオ。まさかそんなことになるだなんて思ってもいなかったんだ」
エリオのその態度の理由は巣にかかったシャオを引っ張り上げた際に、靴が脱げただけでなく足までくじいてしまったからだった。
三人が合流した後にシャオが立ち上がった時、よろめいたのを見てゲペレペンゲが気がついたのだ。
「気にしないで、エリーは助けてくれたんだから。それにあの時、エリーが私を引っ張らなかったら今頃どうなってたのかも分からないしね」
無理に歩いて悪化して、あとに響くといけない。そう言って、ステルスシートを纏ったゲペレペンゲがシャオを抱えて歩いていた。
「それよりもゲペちゃんこそいっぱい怪我してるのに。……ごめんね」
二人そろってしょぼくれている姿を見て、ゲペレペンゲはおかしそうに笑いだした。
「二人ともそっくりだね。見ていて楽しいよ。でもね、こういう時はごめん以外の言葉が良いよ」
突然笑ったゲペレペンゲを不思議そうに眺める二人に聞き漏らしの無いよう、ゲペレペンゲはゆっくりと話す。
「シャオちゃん、エリオ君。君たち二人のおかげで僕は今ここにいるんだ。だから、ありがとう」
“ありがとう”
その言葉を聞いて二人は目を見開くと、嬉しそうにお礼を言い合った。
「どういたしまして! あ、私も! エリー、ゲペちゃん、助けてくれてありがとう!」
「僕もさ! 二人がいたから助かったんだ。ありがとう!」
ひとしきりお礼を言い合って落ち着いたころに、このまま集落に帰ろうとゲペレペンゲが言ったが、ふと、エリオがあることを思い出す。
「そういえば。シャオ、昨日ポピーとはどこではぐれたんだい?」
「さっきいた工場だよ。入る前にはぐれたの探さないと」
「あの子元気だったかい? 結構寂しがりやなんだ」
「そうだったの?」
シャオの脳裏によぎるのは、集落でのポピーの姿だ。
言葉はなくとも一緒に歌うポピー。
集落内を爆走するポピー。
積んであった建築材に体当たりして雪崩を起こしたポピー。
それを見たヴィハーンによって水たまりに沈められるポピー。
「……そうかな」
「そうなんだよ」
あ~ポピ~寂しがり屋の~君は~
よくわからない歌を……。歌? を歌いながらくるくる回り始める。
「僕はまだ会っていないなあ。エリオ君のお友達のポピー……君? ちゃん? は」
「どうぞお好きに。性別は登録されていませんし、名前を呼べばすごく喜ぶので」
「そっか、ロボットペットだっけ。じゃあ僕もポピーって呼ぶよ」
シャオ、エリオ、ゲペレペンゲ。
危機を脱した三人は無事揃ったことで緊張感も消え、和やかに歩いている。彼らはこのまま集落を目指してもいい。
だが、余裕が出来た彼らはポピーを捜索することに決めたのだった。
◆
目の前の惨状に、シャオは息をのんだ。残る二人も絶句する。
工場の前には先ほどまで無かったはずのバイクがあるが、それどころじゃない。
「なん、で……」
ついさっきまではメタルしかいなかったはずの場所で、二体のロボットが酷い状態で倒れ伏している。
その見覚えのある存在に皆が驚いた。
「あの時の不良じゃないか!」
「エリーも知ってるの!?」
「え、シャオちゃんも彼らの事知ってたの?」
思わずと言った風に全員で顔を見合わせる。
そこにいたのは、体が捻じれるように折りたたまれ荷台に詰められた赤シャツの男もといアマイズと、機体が踏み抜かれ頭部が遠くに転がっているフードの男だった。
思う事はあれど、シャオは恐る恐ると言ったように荷台に近づく。
「あー!」
アマイズの状況は見ているだけで痛そうだったが、それよりも首元と彼の手を見て驚く。そこにはシャオの指輪と手袋があった。
急いでそれらを回収して手にはめる。特に不具合なく以前と機能は変わらないが、一つだけ。
「なんで……!」
登録欄からヴィハーンの名前が消えていた。
距離が開くたびに触れて接続しなおす必要は前からあったが、そんな事ではない。
登録そのものが消えていた。今までは接続が切れると言っても、名前部分がグレーになって認識が出来なくなる程度だった。
まさか、大きく距離が開くと名前そのものが消えるとは。
シャオはあまりの事に呆然としていた。
様子のおかしいシャオを二人は何があったのかと、心配そうに見ている。
と、その時。
か弱そうな鳴き声が工場の中から聞こえてくる。そこには小さな影があった。
ポピーだ。
工場の入り口には、ポピーが怯えているかのように隠れながらもこちらを覗いていた。
「ぽ、ぽぴぃ……」
「その声は、わが友ポピーではないか!」
どこかで聞いたことがあるような言い回しでエリオが叫ぶ。
「ぷぅううぴぃいい!」
「ポピー!」
勢いよく飛び出てきたポピーを持ち上げて抱き締めるとエリオは友達の名前を繰り返し口ずさみながらクルクル踊っていた。
そんな彼らをよそに、シャオは一旦登録については置いておき、アマイズが生きているのか確認するようにカンカン叩く。それに連動するように指輪が微かにチカチカ瞬く。
「っがあ!」
「いぎゃあ!」
すると、アマイズが突然息を吹き返し機体が跳ね上がる。
突然の事に驚き、シャオも跳ね上がった。
「キ、キミ、なんで……。そっか、生きてたんだ。 違う、それよりも!」
「この人の事?」
ゲペレペンゲが転がっていたフードの男の頭部を抱えていた。その頭部には意志を感じない。
以前気絶していた時とは違い、その頭部はシャオが探索中によく見る、動かなくなったアンドロイドそのものだった。
「そいつを離せよ、このバケモン!」
「こら! チクチク言葉だよ!」
シャオがアマイズの頭をぺちんと叩く。鉄の体のアマイズは肉体程度の力では何も感じないはずだろうに、まるで体が逆転したかのようにうめき声を上げる。
「言いたいことはいっぱいあるけど、とりあえず。少しは修理してあげる」
フードの男の頭部はどうしようもないとはいえ、簡易的な修理はユゥインから教えてもらっている。
シャオは損傷の酷いアマイズを延命すべく、修理に取り掛かった。
幸いなことに指輪を取り戻したシャオにとって工場内から部品や素材を調達するのは簡単だ。
修理時間も含め、さほど時間がかかることは無い。
修理中、アマイズが気まずそうに目線をウロウロさせていた。そして意を決したかのようにシャオに問いかけた。
「あのさ、あんな酷い事したのになんで助けたわけ?」
シャオはその問いかけに手を止め、少し考えたのちに答えた。
「許したわけじゃないよ。でもバッテリーの恩ぐらいは助けてあげる」
ゲペレペンゲが纏っているステルスシートが効果を発揮するには外付けの電源が必要だ。
もしバッテリーが無ければどうしようもなかっただろう。
「べつに、……そんなつもりじゃなかったし」
「勝手に思うからいいもん」
そんなシャオ達とは別に、少し離れた場所でゲペレペンゲとエリオは何があったのかをポピーから聞き出していた。
「そんな……。ヴィハーン君が」
「凄い、そんなに強い人がいるんだ。映画みたいだね! ……痛、痛いよポピー。体当たりしないで」
ポピーから(ヴィハーンの暴虐さマシマシ、話もりもりバージョン)の話を聞いて、ゲペレペンゲは少し考えこむ。
ヴィハーンが一緒に来たはずの彼らを背後から襲い、破壊。そのまま去っていったと。
その反面、エリオはよくわかっていなかった。自分を襲った人を倒した強い人がいるんだなと思った程度だ。
だが感心した事で、怒ったポピーに体当たりされていた。
エリオはポピーから意識を逸らすように、考え込むゲペレペンゲの手元にあるフードの男の頭部をみて尋ねる。
「あのー。なぜその頭を抱えているんですか?」
「身を守れないだろうから、メタルに食べられないよう持ってるの。……今見捨てるのは気まずいしね」
それを聞いてたエリオは興味深そうに頭部を眺めた。
本人も機体ではあるがそういった知識には疎く、いまいちよくわかっていないのだ。
「ゲペちゃん、エリー、こっちは終わったよ!」
シャオの呼び声にエリオは返事をして手を振るが、ゲペレペンゲはうつむき沈痛な顔をする。
彼は喧嘩中のシャオとヴィハーンのこれからを思い、少しだけ。いや、かなり心配をしていた。




