18話 それぞれの役割
「……さてと。シャオちゃん、僕らそろそろ動かなくちゃいけないんだ。それに別行動したほうが安全だよ」
よいしょ、と立ち上がるゲペレペンゲが、集落に戻れず、更にはここまでみすぼらしくなった理由を、シャオは聴いていなかった。
「たくさんのメタル達が落ちてたでしょう? あれ、僕のせいなんだ」
「それは違います! それについては僕に責任があります。だって僕を助けた名誉の勲章なんですから!」
少し気まずそうに話すゲペレペンゲの前に、エリオが庇うように前に出る。
そう。エリオの言う通り、ゲペレペンゲの哀れな姿の原因はエリオを襲っていた者たちから庇ったことが原因だった。
結果としてゲペレペンゲのシステムに異常が出てしまい、修正しようにも接続する回路が切れていてどうにもできず。常に周囲のメタルを刺激してしまうようになり、それからはずっと逃げ続けていたという。
「修理しようにも僕じゃどうしようもできない部位だから、早くユゥインの所に行かないといけないんだけど」
手詰まりだ、と言わんばかりにゲペレペンゲは落ち込んでいる。今でこそ襲われてはいるものの、敵は街に住み着く小型が中心だが、町の外に行くと大型メタルに襲われる危険性があるという。エリオも悔しそうな表情をしている。
「察知される以上、抵抗どころか逃げる事も困難ですからね。メタルベアやメタルタイガーの様な機食型なんかが来たら、それこそ終わりです」
肉食動物の機械版だろうか。おっかない言葉である。
それはそうと、シャオはエリオの言葉を聞いてあることを思いついた。
「察知されなかったらいいの? それだったら何とかなるかも。昨日泊った工場に荷物置いたままにしてて、中にはステルスシートがあるよ」
シャオの発言に、エリオとゲペレペンゲが驚いたようにシャオを見つめた。
◆
先頭をエリオ、真ん中をシャオ、後方をゲペレペンゲ。
三人は目的の工場を探すために、多種多様なメタル達を引き連れながら街中をひたすら走っていた。
彼らが走っているのは、シャオの提案が今の状況を解決する確かな手段であったからだ。
「ノンストップだよ、シャオ! 頑張れ!」
「うん!」
彼らにとって、覆ったものを機体の目から隠すことが出来るステルスシートは、喉から手が出るほど欲しい。
幸い、今襲い掛かってきているメタル達は良くいる種類ばかりで、シャオも一緒に行動しても問題ないだろうと判断したのだ。
とはいえ、それは少しばかり甘かった。
ステルスシートを確保することが一番の目的になったが、迷子になったシャオは場所が分からず、二人は複数ある工場のうち、どの工場なのかを知らない。
結局観光エリアである事だけを頼りに、一棟ずつしらみつぶしに探していた。
唯一の幸いは、周辺の地理をゲペレペンゲが把握していた事だった。
エリオは武器を操り向かうメタル達を弾き飛ばし、ゲペレペンゲもエリオほどではないが向かってくる数匹のメタルを鈍い金属音をたてながらはたいていた。
「痛っ……」
シャオの頬に一筋の赤い線が生まれる。その他にも、目を庇うためにかざした手の甲にはいくつもの傷が出来ていた。
エリオやゲペレペンゲが弾いたメタルや、打ち漏らしたメタルが時折シャオに当たりそうになったり、掠ったりしているのだ。
エリオとゲペレペンゲもシャオを気にしているせいか、心なしか、動きがぎこちない。
(ヴィーって、本当にすごかったんだ)
ヴィハーンはシャオのすぐそばで戦っていたにもかかわらず、決してそれらがシャオに流れるようなことは無かった。
一緒に居た時は気が付かなかったが、細心の注意を払っていたのだ。
ヴィハーンが軽々と倒していたメタル達が、彼がいないだけでとてつもない脅威に感じる。
パァン!
エリオが弾いたメタルがシャオの近くの壁に衝突して、爆ぜるように細かな部品が飛び散った。
怪我をするほどではないとはいえ、不意を突くように砂交じりの部品がシャオの顔に吹き付けるようにかかる。
「うわっ!」
突然の事にシャオは怯み、足をもつれさせて倒れそうになってしまう。
「シャオちゃん!」
慌ててゲペレペンゲが抱えた事で転倒を防ぐことは出来たが、それにより彼自身が身を守ることが出来なくなってしまった。
ゲペレペンゲの機体にはメタルが次々と噛みつき、奥を目指し食い込んでいた。
「ゲペちゃん!」
「大丈夫。僕、痛覚機能無いからいくらでも動けるんだよ」
安心させるようにシャオに微笑むゲペレペンゲだが、シャオの顔は泣きそうな表情のまま変わらない。
「こっちに!」
先に行ったエリオは一時的に身をひそめるために住宅の扉を開けており、ゲペレペンゲは滑り込むように建物内に入るとすぐに扉を閉めた。
バチチチチチチ!
追いかけてきたメタル達が勢いを殺せぬまま扉に衝突する音が響くが、それにかまう暇はない。
ゲペレペンゲに食い込んだままの個体や一緒になって室内に入り込んでしまった個体を必死になって叩き壊す。
室内の騒乱が落ち着いたころには外のメタル達も落ち着いており、静かな空間がそこにはあった。
「は、はぁあ……」
シャオはようやく休憩できる場所にたどり着いたことで緊張が途切れ大きく息を吐きながら崩れ落ちる。
それを皮切りに他の二人も力が抜けたように座り込む。
「何とか落ち着ける場所には来れたけど、このままじゃ、でも……」
エリオが顔を上げた先には、窓に大量のメタル達がくっついている。
だが、それだけじゃない。その向こう側に見覚えのある道、工場へ続くレンガ道が見えていた。
しばらくの間無言の空気が流れるが、それを絶つようにシャオが立ち上がる。その目は窓の先を睨むように見つめていた。
「私、行ってくるよ。工場まであとちょっと。此処まで来て諦められないもん!」
「シャオ……」
「大丈夫。だって私、肉体だから!」
にっ、と二人を勇気づけるように明るく笑うシャオは、小さな体に似合わずとても頼もしい。
ステルスシートが工場内のどこにあるのかを知っているのはシャオだけ。要するに、シャオさえ無事に工場にたどり着くことが出来ればいいのだ。
エリオがシャオの意見に頷き、それを前提として次の動きを提案する。
「それもそうだね。じゃあ、僕とゲペペさんが走って外に出てメタル達を引き付けるから、そのあとにシャオが……」
と、そこでゲペレペンゲがエリオの言葉を遮った。
「だめ。エリオ君は絶対に、シャオちゃんと一緒にいて」
訝し気なエリオに教えるために、ゲペレペンゲがちらりと窓の外を見る。正確には向こうの建物の屋根に乗る、鳥タイプのメタルシリーズを。
「虫タイプは知能が低いから僕だけを追いかけるけど、動物タイプはそう簡単にいかない。ああやって縄張りを荒らした存在を追いかけ続けるんだ」
その言葉にエリオは反論するように「でもシャオは肉体だし……」と呟く。確かにメタルには一切の肉食が存在しない。
それでもゲペレペンゲは首を振った。
「あのタイプには肉体・機体関係ない。木組みの玩具だって攻撃するんだ。ターゲットには僕らだけじゃなくてシャオちゃんも含まれているよ」
「なんで? そうじゃないかもしれないじゃん、それにゲペちゃんの機体はもう限界でしょ! だから私がいくの!」
シャオが思わずと言ったように立ち上がるが、ゲペレペンゲは意見を変えない。エリオは二人を見て、おろおろとするばかりだった。
「私が転んじゃったから、ゲペちゃんが齧られちゃって、もっと怪我が酷くなっちゃったんじゃん。だから私じゃなくてゲペちゃんが守られないとダメなの!」
ついにはシャオは泣き始めてしまった。少女はゲペレペンゲが転びかけた自分を助けた事で、より酷い損傷を負ったことに罪悪感を感じていた。
それがずっと抱えていたヴィハーンへの罪悪感と重なり、ついに、もうどうすればいいのか分からなくなってしまった。
「うん、それなら尚更、エリオ君はシャオちゃんと一緒じゃないとね」
その様子を見て、ゲペレペンゲは穏やかな姿勢を崩さぬまま、シャオに語り掛ける。
シャオの想いは否定しないまま、シャオを守るために必要な事を。
「僕は一人でも逃げ続けれるよ。でも限界がある。だから絶対にステルスシートがほしい。そのために二人で一緒に居てほしいんだ。……お願い」
ゲペレペンゲの言葉に反論することが出来なくなった二人は、しばし俯くと無言でうなずき、顔を上げる。
そこに先ほどまでの迷うような気配はどこにもない。やるべきことをしっかりと決めた二人はまっすぐにゲペレペンゲを見つめている。
その様子を見て、ゲペレペンゲは安心したように微笑んでいた。




