15話 麗しき旅人、その名も!
外の世界に出ると、そこには変わらずメタル達が落ちている。
だが、その数は昨日見た時よりも減っている気がした。
メタル達にも生態系があるとは聞いたことがあるので、夜型のメタルに食べられたのだろう。
そのまま歩くが、どうすればいいのか分からず、うずくまる。
シャオは、自分がどこにいるのかさえ、わからなくなっていた。
ガア、ガア、ガア
メタルカラスの声が聞こえる。威嚇の声だ。ヴィハーンが傍にいればお宝の気配に感じていたそれも、今となっては恐怖の対象でしかない。
慌ててその場を離れようと立ち上がったところで崩れ落ちてしまった。
足が震えて力が入らないのだ。
必死になって太ももを叩き動かそうとするが、何も変わらない。
「や、やだよ。動いてよ……」
キラキラと銀色の光が視界の端に入りだす。
威嚇したにもかかわらず、その場を離れないシャオを排除しに来たのだ。
諦めて腕の力だけで動こうと地面のレンガに指を食い込ませるが、もう遅い。
メタルカラスは目前まで迫っていた。
「——」
声を出す間もなく、銀色の光が飛び散った。
「……あれ?」
覚悟して強張った体は、予想とは違い何の衝撃も受けていない。
呆然とする少女の前に、一人の青年が立っていた。
足元にはメタルカラスが落ちている。それはコアだけが正確に破壊されていた。
青年は緑の外套を翻しながらこちらに振り向き、シャオの前で屈むと手を差し伸べる。
ユゥインのように、人間そのものの様な見た目をしていて、特徴的で不思議な髪型をしていた。
前髪を生え際からあご先まで斜めに切っている。その斜めのラインは途切れることなく続き、螺旋階段に壁があったらこんな感じなんだろうなと思わせるものであった。
優しく笑いかける青年は口を開くとシャオにこう語りかけた。
「Non ti sei fatta male, piccola?」
「なんて言ってるか、わかんなぃいい!」
「A-aiuto! Che faccio?! Si è messa a piangere! Mi aiuti, signor Gepepe!」
感情に限界がきて泣き始めるシャオに青年は慌てふためくと、助けを求めるように後方に呼びかける。仲間だろうか。
手酷い裏切りを受けたばかりのシャオは助けてくれた目の前の青年も、もしかしたら酷い人なのかもしれないとの疑いがぬぐえず、パニックに陥ってしまった。
怯えるシャオと、どうすればいいか分からず助けを求める青年の元へ、また別の人物が現れる。
「Anche se andassi io,avrebbe solo……、シャオちゃん!?」
そこにいたのは、黒いビロビロは殆どが消えており、中途半端に羽を抜いた鶏みたいな姿のゲペレペンゲがいた。最後に見た時とは違って、酷くみすぼらしい。
「……ゲペちゃん?」
「凄くボロボロで見苦しいよね。恥ずかしいな」
いつもの彼と違って、とても流暢に話している。何かあったのだろうか。
だがシャオはそのような事などまったく気にしていなかった。それどころでは無かったのだ。
「~! ゲペちゃん! ぅわぁああん!」
漸く安心できる人に出会えて感情が爆発し、いてもたってもいられず、ゲペレペンゲの機体に思い切り抱き着いて大泣きし始めてしまった。
「シャオちゃん? え、どうしたの? そういえばヴィハーンはどこに行ったの? もしかして逸れちゃったとか?」
「ごめんなさいぃいい!」
「何しちゃったの!?」
ゲペレペンゲはようやく落ち着いたシャオから事情を聴いた。
なぜヴィハーンを置いて来たのか。そしてどうなったのか。
目を閉じて考え込むゲペレペンゲの姿に、シャオは体を縮こませて沙汰を待つ。
ゲペレペンゲは深くため息をつくと、シャオに語り掛けた。
「あのね、シャオちゃんが凄くいけないことをしたのは分かるよね。バイクを作ってくれたユゥインと、いつも傍にいるヴィハーンの信頼を裏切ったんだ」
「……うん」
「何よりも、……ヴィハーンは、相棒なんでしょ?」
「……ぅ、ぅうう!」
いつもなら素直に頷くシャオが顔を真っ赤にして口をギュッと結び、堪えるように目を見開く様子に、ゲペレペンゲも困り果ててしまった。
(これは、僕には無理だ。一方的なのか双方共にかは分からないけど、こじれちゃってる)
……実は、ゲペレペンゲも思うところが無かったわけではない。シャオが知りたがりなのは集落の全員が知っているし、だから楽園を飛び出してきてしまった事も本人の口からきいている。
だからゲペレペンゲはその意思を尊重して聴かれたことは積極的に答えるようにしていた。
口下手なのが災いして、ほとんど答える事はできなかったのだが。
逆にヴィハーンは雑学の様な事は答えても、特定の事柄に関する情報を隠す傾向にある。集落のみんなも彼を尊重して、知りたがるシャオに誤魔化すことがあった。
もちろん全てを開けっ広げに教えるのは良くない。
楽園は知らないが、世界には辛いこと、知らなくてもいい事がたくさんある。子ども相手ならなおさらだ。
だが、あの様子だと、シャオが大人になっても言わないだろう。
(もしかして、隠したいのは、シャオちゃんの為じゃなくて……)
ヴィハーンの真意を考察するゲペレペンゲをよそに、シャオと青年は体操座りで隣り合ってくっつき、お喋りに興じていた。
青年はシャオとゲペレペンゲとのやり取りをしばし観察したのち、シャオでもわかる言葉で話すようになっていた。
「そして見渡す限り砂原の砂漠と言うものがあるんだ。昼夜問わず美しい代わりに、昼は灼熱、夜は極寒と言う稼働するには大変厳しい環境らしいよ」
「すごーい! 君は砂漠の旅もしたの?」
青年はどのような旅路を辿りここまで来たのかを事細かく説明していた。
目の前の人物が本当に見たことだと、その話のどれもがおとぎ話ではないと知るたびに、シャオの中の知識が次々と更新されている感覚がした。
「ううん。流石に対応できないと思って行ってないんだ。だから触りだけ見物してあとは北の旅を進んだよ。でも砂は本当だった」
「そうだったんだ。いつか見たいなあ」
「砂漠は世界各地にあるらしいからね。きっと行けるさ」
二人は初めて会ったばかりだというのに、まるで長年の親友かのように話が弾み、笑い合っていた。
「シャオはさっきのゲペペさんとの話を聞くに、ボール君とやらと一緒に来たんだよね」
「うん。ボール君ね、はぐれた友達を探してるんだって。名前はエリオって言うんだよ。君は誰か知ってる?」
その言葉を聞いたエリオは目を丸くすると、嬉しそうに立ち上がった。
「僕だよ!」
「へ?」
「僕! エリオは僕! 麗しき旅人、その名もエリオ! ポピーの友達の僕にはわかる。きっと、その銀色まん丸素敵なボールはポピーだ!」
青年、もといエリオは「ポピー! 僕は此処だよ! ポピー!」と天に向かって歌うように呼び始めた。
キザな青年だと思ったが、思ったより若いアンドロイドなのかもしれない。なんなら、ミウナインよりも幼い印象を受ける。
「ポピーとはどこで会ったの?」
「ポピーはお隣さんだよ。僕たち同じ高層マンションに住んでてね。雲海が綺麗なところだよ」
「雲の上!? エリーは空から来たアンドロイドなの?」
自己紹介とは違う名前で呼ばれ、驚いたように目を瞬かせる。そして嬉しそうに笑うと、こう答えた。
「素敵なあだ名をありがとう! 僕たちは西から北を辿って来たんだ。でも、いくら美しくても天使じゃないよ。それにアンドロイドでもない。ウェイストドールというんだ。」
僕も最近知ったんだけどね。と自身を指しながら嬉しそうに称していた。




