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リンホンコード ―暁少女と鉄の男の終末歩き―  作者: 卵掛 小保下
旅する無垢人形〈ウェイストドール〉
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14話 見えぬ悪意と見せぬ本性

 午前三時。


 シャオは赤シャツのアンドロイドの隣ですっかり眠りについており、健やかな寝息を立てていた。

 赤シャツのアンドロイドは目を閉じスリープモードに入ったフリをしていたが、シャオが眠りについたのを察知すると再び目を開け、充電中の仲間をずっと見ていた。


 眺めているうちに、充電中を示すランプが赤色の点滅から緑の光にかわる。

 

 ピー、ピー、ピー。


 小さく充電完了のアラームが鳴り、仲間の目の明かりが点滅し、そのまま光が灯る。


「……ぁ、ここは?」


仲間の目が覚めた事に気がついた赤シャツは跳ねるように起き上がり、フードのロボットの元へ慌てて駆け寄る。

 

「起きた! よかった。動ける?」

「むしろすげえ調子いい。え、しかもこの腕正規品じゃん」

「すごいよね。正規品ってジャンクでも調子いいもん。俺も片足交換したけど、マジヤバすぎ。何十年ぶり?ってぐらいスルスル動く」


 嬉しそうに会話を重ねるロボット達。

 そこでふと、フードの男が赤シャツの隣に目を向ける。


「……んで、なんか息してるし、ナンバーも読み取れないんだけど。未換装の生体ペットでも拾ったんか? 犬? 猫? なんかでかくね?」

「あ、い、いやあ~。それが」

「勿体ぶるなて」

 

 言い淀む赤シャツにしびれを切らしたフードの男は、呼吸に合わせて上下するシートを払いのける。

 そこにはシャオが身を丸くして眠っていた。

 その姿を見てフードの男は言葉が止まった。

 

「え、まじか。旧人じゃん」

「そーなんだよー。もうびっくりしちゃって」

「あと数年早かったら、これで人権申請が通ったのにな。まあ取っておけば今後何かには使えるか」

「……んー。使い道は無いから置いていこうよ。それよりこの子もっと良いもん持ってるんだよね」

「まじか。恵まれてんな」

 

 穏やかに笑う彼らは今、不穏な会話をしながらも、確かにお互いの生存を喜んでいた。



 ◆



 肌寒さとモーター音が聞こえて目を覚ます。光源が動いているようで、影が大きく揺れている。

 まだ夜だが、周りを見れば使ったまま散らした修理部品や薬液、被っていたはずのステルスシートが落ちていた。

 それに赤シャツとフードのロボットがいない。嫌な予感がしてバイクの方へ走っていった。

 

 

「まじかよまじかよ! 滅茶苦茶性能良いじゃん!」

「しかもエネルギーのチャージ方法もいっぱいあってさ。こんなヤバいの、下手にメンテ出す方が調子悪くなるよね」

「あー、クソッ。あいつ等にも見せたかったな」


 そこでは二人のロボットが勝手にバイクに乗り込み、色々と弄り回している姿があった。

 赤シャツの男はどこで拾ったのだろう、鮮やかな黄色いスカジャンを腰に巻いている。

 機械を触る手つきはどこか手慣れたものがあり、扱いも悪いものでは無い。だが、その様子にシャオは嫌な予感が最高潮になっていた。


「まって! 勝手に動かさないで。壊したらインとヴィーに怒られちゃう」


 駆け寄ってくるシャオを鬱陶しそうにロボット達は眺めている。

 フードのロボットは冷たい目で見下ろすばかりで、赤シャツの男に至っては目も合わせない。


「なんだよコイツ。マジ冷めんだけど」

「別に解体するわけじゃないのにね。動かし方の確認してるだけだよ。邪魔だからキミはあっち行ってな」

 

 近づいてくるシャオを、それ以上近づいて来ないように赤シャツの男は足をシャオに向かって伸ばす。

 この時に気がついたが、何かを運ぶのに使ったであろう荷台は手荒な扱いをしたのか壁際で倒れて放置してあった。


「私、ちゃんと謝って返さないと、だから返して!」

「はいはい、俺らが返しておきます」


 それでもしつこいシャオに、フードのロボットはしびれを切らして少女の服の背をつかみ取り、ごみを放るように投げとばした。

 投げた先は紙箱などが積んである棚があり、シャオが衝突したことで大きく音を立てて崩れ落ちる。


 「あっ……」

 

 それを見た赤シャツのアンドロイドは手を伸ばしかけるが、諦めたように手を戻し、胸元のネックレスを握りしめる。

 

「ッチ、ウザ。うっし、じゃあ行くか!」


 バイクが方向転換し、発進する。

 バイクが工場から出る直前、赤シャツの男は所持していたバッテリーを後ろに投げる。


「ん、なんか捨てた?」

「あー、……キミを充電するのに使ったバッテリー。重いくせに、あと数パーセントだったからね」

「おー。確かに要らんわ」


 バイクは暗闇の中、本来の主を置き去りにして去っていった。


 ◆


 シャオが目を覚ますともう日が出ており、入口からの光が工場全体を照らしていた。

 地面に落ちているメタルの機体が日光を反射し、それらがさらに辺りを照らす。

 キラキラ輝く外の世界とは真逆で、工場の中にはどんよりと、ただ暗い世界が詰まっていた。


 「……あ」


 何となく顔に触れると、ザラザラした感触がある。触った手を見ると、乾いた血液が手についていた。

 だが、それよりも。

 ぽろぽろ、溢れ出る涙が固まった血液を溶かすが洗い流すことはできず、ただ汚れの範囲が広がる。


「あ、ああ、て、手袋。指輪も。ない、なんで!」


 その手には大事な手袋も、ましてや大事な指輪さえも無く。

 

 ただ、血で汚れた素手だけがそこにはあった。





 

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