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リンホンコード ―暁少女と鉄の男の終末歩き―  作者: 卵掛 小保下
旅する無垢人形〈ウェイストドール〉
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12話 見知らぬロボット②


 再びバイクを覆うべく、シートを下から投げたり上から投げたりするが、どうにも上手く行かない。

 周囲に動く影は無く、音を立てるのは少女のみであった。


「あのさー。いい事思いついたんだけど、協力しなーい?」

 

 シートで悪戦苦闘しているシャオに背後から声がかかる。

 そんなに難しい事じゃ無いからさ、と男は軽い態度で呼びかけた。


「いいよ、なにするの?」

「アリガトー。楽でいいね、キミ。そのバイクを使うだけだよ」


 すぐに了承するシャオに、簡単に礼をすませ、ニコニコと案を伝える。

 ただ、あまりに単純な伝え方をしたせいで妙な解釈をされてしまった。


「わかった! バイクで体当たりするんだ!」


 男の目元が引きつり、笑みの感情表現が一瞬にして消えた。

 

「協力って意味知ってる? 頭を経由してから返事してね」


 ◆

 

 ザリ…… ザリザリ……


「お、重いよう……」

「ほらほら、あと六ミリだよ。そしたらオレも手が届いて引っ張り上げられるから。ガンバレ~」

 

 今、シャオはバイクの荷台に気絶しているアンドロイドを乗せていた。もちろん先に乗せた赤シャツのアンドロイドの補助あってだが。

 彼の案は、簡単に言えばバイクで家具を引っ張るというもの。その縄の役割を彼が買って出たのだ。


 あまりに重かったものだから、シャオは気絶しているアンドロイドはあとで乗せることを提案したが、それは男のほうが嫌がった。


『入れるようになったらサヨウナラって置き去りにするかもしれないじゃん? キミの大事なバイクにオレ達二人を乗せてからだよ』

『最初はそんな事言ってなかったのに。ちゃんと持ってくるよ?』

『んー。あんなバイクを見た今、正直信用できないよね』

 

 とのこと。

 彼は気絶してる男を荷台に引き上げると、シャオに合図を出してバイクの位置を調整させる。乗せ終えた後に自身の体勢を変え、荷台の金属板のくぼみと家具の取っ手に指をひっかける。


「こっちはOK。ゆっくり進めてね。そうじゃないと最悪、オレがちぎれちゃうから」

「任せてよ。昨日初めて速く走ったけど大丈夫だったし」

「いや、ゆっくりって言ってるんだけど」


 注文通り最大限の配慮をしてバイクをゆっくりと加速させると、縄代わりの彼の両腕がギシリと鳴く。うめき声は無かったが、目が少しだけ細まっていた。

 引っ張っている最中も会話が続く。

 

「……ホントーにキミって旧人なんだね」

「そうだよ。でも見間違えるぐらいそっくりなの?」

「見た目だけね。ドールにしては力がないし。ヒューマノイドだったら、オレはさっきの悪口で廃棄処分」


 見た目。ユゥインの父であるLUBAN前店主は自らヒューマノイドだと公言していたのに、ほぼ誰もが信じなかった。とは聞いたが、そういった理由だったとは。

 それと、新たな言葉“ドール”。

 

(知りたいから聞いたのに、知らないことがもっと増えちゃった)


 外のルールは楽園よりも複雑で、人によって守ることも守らなくてもいい事も違う。

 ルールを使いこなす外の人々は、きっと頭が良いのだ。それはそうとして。

 

「悪口って、やっぱりさっきのチクチク言葉狙って言ったじゃん!」

「ワァーオ、ばれちゃった~。……あ、もういいよ」


 ——ズ、ズズズ、ズズ。


 家具を退かすとそこは以前シャオが見た時のまま、レースのようにクモ糸がかかっていた。

 軽く薄いクモ糸は、肌では感じ取れないほどの微かな風の流れを受け、そよそよと泳いでいる。

 その中へ、彼らを乗せたバイクがゆっくりと入っていった。


「ねえ、私の名前はシャオだよ。君は?」


 その言葉に男は呆れたように目を細める。鼻も口もないが、その目元は感情の表現がとても上手だ。


「名前なんか無いよ。オレ達、悪ーいロボットだからね。削除されちゃった」

「アンドロイドじゃなくて?」

「悪いことしたアンドロイドは“ロボ堕ち”するの。人権無し、ただの作業用ロボ。言わせないでよね」


 彼は目元を感情豊かに動かしていたが、観察するように目線はずっとシャオへ向いていた。

 

 日が沈んだことで工場内は入り口からの光が消え、完全な真っ暗闇となっていた。

 バイクの明かりに照らされた内部は入ってすぐは十分に広い。だが、そこから先は多くの設備が破壊され、散乱している。

 奥へ進むことは出来るが、バイクごと通るには少しだけ狭い。


「あ、ここで止まって。……あいつら、けっこう暴れたんだ」


 男は声を潜めて、感慨深げにあたりを見回す。すぐそばに落ちていた、場違いなまでに鮮やかな黄色いスカジャンにしばらく目を留めたが、無言のまま目をそらした。


「それじゃ、オレはここで待ってるね。キミは、……ねえちょっと何してるの?」

 

 ガチャガチャ何かをいじる音がしたので男がそちらに顔を向けると、荷台の接続部分で手先を動かすシャオがいる。

 シャオが戻るのを待つだけだと思っていた男は、その姿を見て猛烈に嫌な予感を覚えた。


「ちょっとちょっと、なんかヤバいことしようとしてない!? こんな体じゃ悪いことできないって! オレらのこと信じてないの!?」

「違うよ。そっちで寝てるジャケットの人が心配だから、素材とか部品とかいっぱいある部屋に連れて行ってあげようと思って」


 あくまでも、シャオは善意で彼らを奥まで連れて行こうとしていた。

 この工場の奥にある保管庫には、かつて使われていたのだろうパーツや薬液が未使用の新品として保管されているのだ。

 

「いやいやいや。オレたち重いから! 置いて行って欲しいなー!」

「任せてよ、荷台だけなら私でも動かせるもんね」

 

 シャオには彼らが必要とするものが分からない。当てずっぽうで往復するより、本人が直接選んだほうが良いに決まっている。

 それを伝えてもなお、彼は異様なまでに奥へ進むのを拒み続けた。そのやり取りを重ねた末に、とうとう理由を白状する。

 

「あのさ、キミだけで行けって事。分かんないかな? ……正直にいうね。実はここ、すんごく大きくてヤバいメタルグモが陣取ってるんだよね。たった一匹で町中のメタル達も食い尽くした大食漢。やばいよねー!」


 彼が以前仲間たちと侵入した際に見つけた怪物。

 それがこのエリアでの他のメタルシリーズがやけに少なかった理由。(現状は異常事態なので除く)

 だからシャオひとりで行かせようとしたのだ。


「えー。じゃあ最初から私に一人で行かせるつもりだったの?」

「うん、まーね! それにメタルシリーズって肉には興味ないんだよ。キミならダイジョーブ! 敵対したら死ぬだろうけど」


 悪びれもせず肯定する男にシャオは怒る……ことも無かった。

 ふむむ……、と少しだけ考え込み、気になったことを男に質問する。


「ここのメタルグモ、いつ見たの?」

「三週間前。他にもつるんでた奴らはいたけど、面白いぐらい捕まっちゃってさ~」


 入口の家具も、窓に打ち付けてあった鉄板も、彼の仕業らしい。恐ろしい怪物を街に出さないよう、封じこめた事は凄い事であるはずだ。

 だが、そのことについては触れず、目元は笑ったまま固まっている。


「大きいのって何匹もいるの?」

「普通いないよ、あんな変異種。あーあ、ホンッとーにツイてない。せっかくドールを見つけたと思ったら、バケモンが出てくるし」

「じゃあ大丈夫だね!」


 ガチャン、ゴトン。ゴドゴドゴドゴト——。


 金具を外し終えたシャオが持ち手を握り、勢いをつけて荷台を工場の奥へと引っ張っていく。

 それに驚いたのか、彼は暴れるように抵抗したが、その動きで未だ気絶している仲間が落ちそうになり、慌てて抱え込む。


「え、ちょ、まって。マジで待って!」


 身動きが取れなくなった彼は、荷台に一緒に積んだステルスシートを叩いて音を出し、必死の抗議をした。

 

「話聞いて!? メタルって、オレたちは捕食対象なの!」

「それこそ大丈夫だよ。二週間ぐらい前に相棒のヴィーと一緒に来た時にね、此処の大蜘蛛はもう倒しちゃったんだから!」


 だが男は信じない。変異型とは外見だけではなく内部のプロテクトにも影響する。世界の戦いの主流である電脳戦では難敵だ。

 この男は電脳戦の末に退治したのだと思い込んでいた。


「マジならどんだけヤバイやつなのって話。現状さー、わざわざ目の前まで出てって、接続頑張って、プロテクト解析して、突破してからの破壊信号でしょ? あの大蜘蛛倒すとしたら、それを一瞬で終わらせる奴じゃないとムリだから」


 電脳戦の最中は、普通のアンドロイドは身動きが出来なくなる。隙を見せぬまま一瞬で、となれば、それが可能なのは国家戦略級の上位機体のみ。

 そのようなエリートにロボットが声をかけようものなら、その時点で記憶野を弄られていてもおかしくないのだ。


「そういう奴らって、最悪目が合っただけでハッキングするじゃん。関わりたくないんだけど」

「違うよ、ヴィーはそんなことする人じゃないよ」

 

 大蜘蛛とは別の意味で危険な影に男は恐れおののく。

 しかし、シャオはそれを否定する。大蜘蛛を倒した相手はどんな人物であったのかを、自分の言葉で伝えたかったのだ。

 

「ヴィーはね、優しくて強くて、すっごく頼りになるんだ。二百年は稼働してるって聞いたかな。物知りなんだよ」

「……フーン、戦闘タイプは?」

「タイプ? よくわかんないけど、殴ったりしてる。此処にいたのは真っ二つにしてたよ。ドーンって」


 直接破壊するような退治方法はマイナーだ。ダサくて見苦しくて非効率と言われている。

 出来なくはないが、電子蚊取がないからとハエたたきで挑むようなものだ。

 

「あ、そういう。骨董品じゃん。ジジババね。それなら、まあ……」


 納得したのか、相棒を抱え込んだまま大人しくなる。

 それでも信用しきれない何かがあるのだろう。片手でステルスシートを拡げ、隠れるように自分たちを覆っていった。


「いいこと教えてあげる。ステルスシートって、何でもいいけど電源に繋げないと意味ないよ。外でやってたあれね、マジで意味ない行動だったから」

「そんなぁー」




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