11話 見知らぬロボット
「ヴィーと来た時はメタルなんてほとんどいなかったんだよ。なのに駆除する人がいないとこんなに増えるだなんて。集落って、ミウ達が頑張ってくれてたんだね」
「ぴゅ」
踏まずにバイクを走らせるのが不可能なほど散らばった道で、少しずつ進んでいく。
広いレンガ通りも、金属の照り返しで道が埋まっていた。
「日が暮れる前に工場についてよかったね。今日はここでお泊りしよっか」
シャオが登録しているメタル達は、シャオ自身の活動時間の関係で昼タイプばかりだ。ゆえに、指輪の忌避機能も実質昼まで。
だが、ここで問題が起きた。
工場の入り口をふさぐ家具が、シャオの力ではびくともしなかった。
「どうしよう、他の建物だとバイクが通れるほど入り口も広くないし」
目の前に建物があるのに入れない現状に、腕を組んで悩むシャオ。
その足元で、何かに気がついたボールは別の方を見ていた。
「うーん、とりあえず今日は外で一泊だね。まあ入れなくてもステルスシートがあるからなんとかなるかも。…………ボール君?」
シャオがボールに振り向き、声をかけるが、そこには誰もいない。
気がつけば、シャオはひとりぼっちになっていた。
待っても探してもやることは変わらない。まずは安全確保のために荷台からステルスシートを取り出して、大きく広げていく。以前ヴィハーンがセットしていたやり方の見様見真似だ。
大きなバイクであるため手こずってはいるが、何とか一人で覆っていく。
そこへ、遠くからヨタヨタと一つの影が近づいて来た。距離が狭まるにつれて、その影は二人分の人影であることがわかる。
そこにいたのは二体のアンドロイドだった。服どころか機体もボロボロだ。
フード付きジャケットを着たアンドロイドは両腕を失っており、もう一方の赤い半袖シャツを着たアンドロイドは両腕こそ残っているものの、歩くたびにズボンの片足がはためき、膝から下を失っていることがわかる。
お互いに支え合って歩いている姿はまさに満身創痍だ。
「まじねぇよ、あのバケモン。横取りするどころかメタル共まで呼び寄せやがって」
「あのドール、惜しかったよねぇ。でも食い荒らされた機体なんて、使い物にならないよ。ある程度修理したら、まずはこのエリアから脱出して、そしたら……」
ジャケットを着たアンドロイドから小さく爆ぜるように火花が散る。
痙攣するようにガクンと崩れ落ちると、巻き込まれた赤シャツのアンドロイドも一緒に倒れてしまった。
「……悪い」
「ダーイジョーブ! ここはメタルもいないしね。一旦休もっか!」
ジャケットを着たアンドロイドは電源が落ちたように動かなくなる。
うっすら点滅はしているので死んではいないが、このままでは何か起きても抵抗さえできずただ壊されるだけだ。
「……本当にいないとはね。あの大蜘蛛、どれだけヤバいのやら」
上体を起こし、穏やかに話しかける赤シャツのアンドロイドは言葉とは裏腹に、諦めたように俯いてしまった。
そんな二体に近寄る姿がある。シャオだ。
「あのー、もうすぐ危なくなるから動いたほうが……」
「うるさいな! わかってるんだよそれぐ、らい。……ヒューマノイ、違う!」
こちらを見て目を見開いたと思うと、突然掴みかかるように腕を伸ばしてきた。
「ドールだ! 良かった!」
「うわわっ、急に何なの?」
シャオは掴まれまいと反射的に一歩下がり、少女が避けた事で、男の空振りになった腕が上半身ごと地面に叩きつけられた。
「っ、動くなよ! クソ、クソ、クソ!」
残っている片足で地面を蹴りシャオの元へ這って行こうとしたが、足の角度が悪かったのか体は地面につんのめり、負荷のかかった関節部が逆に曲がってしまった。
「ウケる。オレたち最後までゴミってわけ? ……全部ブッ壊れて、漸く自由になっても結局これかよ」
「えっと……」
そのあと何度か声をかけるも、聞こえていないように恨み言を吐いて打ちのめされている。
シャオは仕方がなく二人をそのままに、またシートの設置を続けることにした。
ある程度は覆っているとはいえ、シートはぐちゃぐちゃで完全には覆えていない。先ほどの手順を思い出しながら引っ張り、隙間なく覆っていく。
「ねぇ、ドールがなんでステルスシートなんか持ってるわけ? アンタの飼い主ヒューマノイドだったりすんの?」
シャオに声をかけたのは、先ほどのアンドロイドだ。力なくだらんと、こちらに目を向けている。
「えっと、ドールって私のこと?」
「うん。もしかして教えられずにずっと家族ごっこして、部屋から出されなかったパターン? カワイソ」
何かと勘違いしてバカにされるが、その意味が少女には分からない。
ともあれ、彼が会話できる程度には落ち着いたので、少女は手を止めて、会話をつなげることを選んだ。
「ドールは知らないけど、違うよ。私ね、楽園から来たんだ。今は修理屋さんでお世話になってるんだよ」
「え゙」
力なく倒れてたはずのアンドロイドが、体勢はそのままに、がちんと機体が固まる。
どうしたの、と声をかけても処理落ちしたように動かない。
仕方がなく作業に戻ると、慌てたように再度呼び止められた。
「待って待って、ということは、金属なしの純粋な肉体ってこと? サイボーグでもないよね!」
「……? さい……?」
「オッケー、これは違うね。旧人率百パーだわ。ちょっとお願いがあるんだけどー!」
彼の顔は笑んだ目元を除き全てが機械的で、口も存在しない。何てことないような軽い仕草、口調で頼み込む。
だが、彼がこの頼みに全てを賭けていることだけは、シャオも気がついていた。
「いいよー!」
「その代わりさー、お礼は絶対にする……。え、いいの? じゃあ、そこの工場の中に入ってくんない?修理部品が欲しいんだよね。工具もあったらそれもお願いね!」
「本当? 私もそこに入りたかったんだ! でも入口の家具がどかせないんだよね」
奇しくも、目の前の瀕死のアンドロイドの願いと、シャオの目的が、理由は違えど同じ工場へと向いたのであった。
「え~、なら君何の役にも立たないじゃん」
「それってチクチク言葉だよ。そういう事言っちゃダメなんだよ」
「あ、刺さっちゃった?ゴメーン。でも事実なんだよね。キミが勝手に刺さっただけデショ」
「じゃああの家具、君が退かしてよ」
「無理だから頼んでるんデショ。ちゃんと状況把握しなよ」
「う、うう! なんか、こう……、バカァ!」
言葉での喧嘩で勝てないシャオは、これ以上の負けを晒す前にステルスシートの中に引きこもることに決め、シートをめくる。
その際に留め方が甘かったのか、パチンと音を立てて留め具が外れてしまい、シートが滑り落ちてしまった。
「うぇえ、頑張ったのにー」
シャオは落ちたシートを拾って、また面倒な作業を一からやり直す事に落ち込んでいるが、瀕死のアンドロイドは違った。
「……へえ」
彼の目に留まったのはステルスシートではなく、一目見ただけでも現役とわかる、少女には不釣り合いの大型バイクだった。




