10話 変わり果てた町
——裁縫工場の町、とあるエリアにて。
シャオたちが到着する数日前。
ヴヴヴヴヴヴヴヴ——
キィー キィー
ケケケケケケケ……
周囲には大量のメタルシリーズが集まっていた。虫型から小動物型まで。中型以上は居ないのがせめてもの救いだろう。
酷く打ちのめされ、全身がボロボロのゲペレペンゲが力なく壁にもたれて座り込んでいる。意識が無いようだ。
バン! ガシャッ! カァン!
その彼を守るように、一体の髪の長い機体が金槌を操り、襲い掛かるメタル達を次々と破壊、打ち落としていた。
壁に叩きつけられ、潰されたメタルの破片を、自身の回復のために別のメタルが回収をしていく。
そこにビニールパウチに入った溶液を投げつけられ、パウチが破裂。
粘々の液が飛び散り、ゴキブリホイホイのように後から来たメタルが次々と捕まっていた。
その中でゲペレペンゲは目を覚ました。その事に気がついた男が心配そうに振り返る。
「ゲペペさん! 起きたんですね?」
男の見た目は人間そのものだが、その動きの力強さは肉体では到底成しえない。
地べたを這うメタルを踏みつぶし、その残骸を蹴り飛ばすことで別のメタルを破壊する。
そのような荒事とは裏腹に、彼の衣服や肌は綺麗なまま、少しの汚れもついていなかった。
「損傷が酷いんですから無理は禁物ですよ! でもシャットダウンすると戻れない可能性がある。寝ないでくださいね!」
「う、……う、ん。……。だい、丈夫、だか、ら。」
「そんなわけがないでしょう! あの不良たちは無事逃げれたようで、あとはゲペペさんだけです。いやー、にしても、こんなにメタル達が襲い掛かってくるとは、ここのエリアは本当にとんでもないですね!」
「いや、ちが、う。これは、ぼ、僕が……。ガクッ」
「ゲペペさん! っむ!」
ガガガ!
百mmロングボルトを投擲し、飛んでくる複数のメタル達を打ち落とす。
破壊したメタル達から手ごろな部品を集め、それを投擲の玉として利用する。
だが男は眉をひそめて周囲を改めて確認する。
「妙だね……」
順調に数を減らしたはずなのに、先ほどゲペレペンゲの目が覚めたあたりで急に数が増えてきた。
「ここもメタル達が集まってきたね、何かに呼び寄せられているような。やむを得ない。別の場所に、……ゲペペさん? ゲペペさん! 返事をしてください! ゲペペさん!」
「ぅ、ぅるさい。ぅう、なんだよゲペペって。誰か、誰か助けてぇ!」
「立てますか? 大丈夫そうですね、よし、行きますよ!」
「や、やめて、引っ張らないでぇ、モルグ、モルグ~!」
再開まで、あと————。
◆
出発した日の翌日。事故には気を付けて休みながら進んでいたこともあって、片道に十二時間もの時間がかかってしまった。
見覚えのある道、見覚えのある建物。
だが、以前とは全く違う街並みになっていた。
「なに、これ……。メタルがいっぱい落ちてる」
「ぴぴ……」
以前シャオが一夜を明かした場所にバイクを置きに行くと、道中どころか、建物内部も多くの破壊されたメタルで溢れかえっていた。
「ゲペちゃん、大丈夫かな。何もないと良いけど。もしかして、お散歩が長引いてるわけじゃないのかな」
このエリアは、二週間前はこんな状況では無かった。色んなエリアの探索をしたが、ここまで大量のメタルが散らばっているのは異常の一言だ。
守ってくれるヴィハーンがいない今、指輪の機能をすぐに立ち上げ、今まで登録したメタルシリーズに対し忌避信号を全てオンにする。
とはいえ、これも万全ではない。いくつか落ちているメタルの遺骸のうち、結構な数が見た事のない種類である。全てのメタルがコアが破壊済みだ。
登録しようにもコアを破壊したメタルは登録が出来ない。
こんな異常事態だ。ゲペレペンゲは既に帰っていてもおかしくない。道中気がつかなかっただけの可能性のほうが高い。
「でも、このまま帰るのは……」
頭をよぎるのはミラーに映っていたヴィハーンの姿。こちらを停止させるべく、ものすごい勢いで走ってきた時のこと。
『シャオ! 何をしてる、馬鹿、戻れぇえ!』
今まで見た事が無いほど怒っていた。そもそも彼がシャオに怒ったのはあれが初めてだ。あの時は勢いのままに逃げ切ることが出来たが、今こうやって冷静になると、我ながら凄いなと思う。だが、それはそうとして。
「こわいなぁ……。絶対怒ってるよね……」
「ぴ、ぴぴ……」
あのような怒声、生まれて初めて聞いた。故郷でも怒鳴られたことは幾度もあれど、あんなに胸が痛くなったのは初めてだ。
以前フィッシュボウルに『もっとよしよししてよ』と訴えた際に『もう十分してるでしょ』と返ってきたことを思い出す。
(フィッシュさんも、怒ると怖いのかなあ)
だが、もうここまで来てしまったのだ。何もしないわけにはいかない。
ゲペレペンゲを探すべく、バイクに乗ったまま街の奥へと向かう。
「まずは、まえ大きな蜘蛛がいた所に行こうっと」
あの工場の主であったメタルグモがいた工場は、まだ大量に在庫がある。
逃げるように出かけたのだから、手ぶらで帰るのは怖いのだ。
「怒られるのはもう覚悟するとして。ちょっとでも許してくれるように、なんか良いのがあったら持って帰ろうね」
「ぴぃ~ぷぅ」
散らばったメタル達の上を転倒しないようバイクを操りながら、シャオ達は慎重に進むのであった。




