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リンホンコード ―暁少女と鉄の男の終末歩き―  作者: 卵掛 小保下
旅する無垢人形〈ウェイストドール〉
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9話 流れ星のように


 あれから二週間以上たった今もボールの友達は見つからず、また、あれ以上の情報が集まることもなかった。


「ららららら~、ららららら~」

「ぽぽぽぽぽ~、ぽぽぽぽぽ~」

 

 日の光が差さない誰もいない路地裏で、調子の外れた歌声が響いている。

 今日は探索には出かけずに、シャオは集落内でボール君とお散歩をしている。

 シャオは特定の歌を歌っているのではなく、ただ適当にリズムっぽく声を上げているだけで、ボールに至ってはそれを真似しているだけだ。

 だがそのことを気にする人は此処にはいない。


 一通り歌い終えると、シャオはため息をついて、建築物に使うのであろう、そこらに放置されているセメント粉末が入った袋の上に座る。

 水を通さないつるつるの袋に粉がパンパンに詰まったむちむちの袋は、お気に入りの椅子だった。


「ねえ、ボール君。お友達はヒューマノイドなの? ヒューマノイドって、アンドロイドとはどう違うの?」

「……ぴぴぃ」


 モルグがコアで確認したという記憶。そして、あの場にいた大人二人の反応を思い出す。

 ヒューマノイド疑惑はあの場だけの話だと何度も念を押され、口外の禁止とともに、捜索の中断も言い渡された。

 

 モルグも言いふらさなかったようで、あの後もボールの事を気に掛けるアンドロイドは多い。出会う人みんなに可愛がられている。

 集落に来てからまだ短期間なのに、ボールはすでに集落のみんなに受け入れられていた。

 だが、もしボールの友達の正体がヒューマノイドだったら、みんな変わってしまうのだろうか。

 

「関わりたくないって感じだったね。でも、インのお父さんはヒューマノイドで、すごく優しい人だったって」

 

 集落の人たちにヒューマノイドについて尋ねても、ろくに教えてもらえず。皆が知っている重要な事を、自分だけ知らない。

 とはいえ、故郷とは違って図書館の無い世界。調べようにも、どうやって調べればいいのかさえも分からなかった。


「わたしだけ、だね。ボール君の言葉もわかんない。」

 

 そのまま落ち込み体を縮こませるシャオの耳に、メイン通りからアンドロイドの会話が届いてきた。


『ゲペレ……ゲ……。戻ってこな……。』

『誰も……。特性……。恐らく……』


 内容までは分からないが、ゲペレペンゲの話だった。彼がどうしたのだろうか。

 会話しているアンドロイド達はどこか沈んでいるような雰囲気だった。

 

 「ゲペちゃんがどうかしたのかな? 確かに帰るのが遅いよね。もう帰還予定から一週間だって。モルちゃん寂しがっちゃうよ。……そうだ!」


 急に立ち上がったシャオを、ボールは不思議そうに見上げる。


「そうだよ、ゲペちゃんだよ! ゲペちゃんって恥ずかしがり屋さんだけど、ちゃんとゆっくり話せば、色々教えてくれるかも!」


 ゲペレペンゲと何度も話したことがあるが、彼は極度の恥ずかしがり屋で、よく会話がとまってしまい、別のアンドロイドが会話を引き継ぐことが殆どだ。

 

 だが、彼は唯一シャオへ誤魔化しをしたことが無いアンドロイドでもあった。

 会話が最後までできたことがないとも言えるが……。


「ボール君、これはチャンスだよ! ゲペちゃんとちゃんとお話ができる数少ないチャンス!」

「ぽぴ?」

「それに、ゲペちゃんは何か知ってるかも。モルちゃんが言ってた、君の友達が最後に映っていた町! ゲペちゃんはそこに居たんだよ! まだ帰ってないし、まだあの町にいるんじゃないかな!」

「ぴぃ!?」


 シャオの言葉に興奮したボールはものすごい勢いで回転を始めて周囲に砂をまき散らす。


「あ、でも……」


 ゲペレペンゲに話を聴きに行くとしても、それを中断させる何者も傍にいてはいけない。会話を引き継いだアンドロイドが真実を誤魔化してしまうかもしれないからだ。

 それと、ヴィハーンが言い渡した捜索の中断が脳裏をよぎる。


「……いいもん。ヴィーのバカ」


 地面に足をたたきつけるように歩きだしたシャオの後を、嬉しそうに軽やかな動きでついていくボール。


 一人と一匹は、目的を果たすべく足早に目的の場所へと向かっていった。


 

 ◆



 LUBAN店内にて、ユゥインとヴィハーン、モルグが会話をしている。


 あれから何度もシャオがいない時を見計らって、あのロボットペットの友達がヒューマノイドである可能性と、その場合、あのロボットペットをどう扱うかについて話し合っていた。

 

 「最後に主がいた街への投棄」

 「即時破壊」

 「保護の続行」


 三者三様で意見は平行線で纏まらないまま、ただ日にちだけが過ぎていた。

 だが、今日の会話の内容は前日までとは違い、ロボットペットに関する内容ではない。


「頼む。やつがれに、あのバイクを貸してほしい。ゲペレペンゲがここまで遅いのはおかしいんだ。動けない何かがある。迎えに行かなければ」


 モルグがヴィハーンとユゥインに頼みごとをしていた。頼みと言うよりは、どこか懇願の様な響きさえも感じ取れる。

 ゲペレペンゲの最後の生存確認はシャオ達と会った日が最後だ。本来なら帰還予定日が一週間を過ぎた今、すぐにでも迎えに行ったほうが良い。

 

 だが、二人は良い返事をすることが出来ない。それには彼らなりに理由があった。

 

「だからね、無理だって言ってるんだ。アンタの機体じゃあれの運転はできない。手足の問題だけじゃなくてね。あんたの機体が砂交じりの風圧に耐えられないんだよ」

「なら、ヴィハーン君、君が!」

「あのバイクを俺が運転した場合、重量制限の関係で乗せられるのはシャオぐらいだ。ゲペレペンゲは軽く見積もって二百キロ。無理だな」


 モルグの必死の訴えにもヴィハーンは動かない。感情の揺れを感じさせない声で淡々と事実を伝える。

 

「あいつの特性上、動けない何かは大体察しがつく。戦闘可能な機体が出なければならない。だが俺が行けばあいつを乗せるには重量オーバーだ。俺にあいつを置き去りにしろと?」

 「……修理屋としても言っておくよ。ヴィハーンはまだ見た目だけの張りぼてだよ。ゲペレペンゲとの相性は最悪さ。到底許可できないね」

「それでも、何もせずにはいられない。 ——大事な、友達なんだ」

 

 ……カタ、ガタン。……ゥィイイン。


 その時、隣から足音とモーター音が聞こえる。車庫からだ。

 ヴィハーンは反射的に傍にあった工具を投げつけると、工具がそのまま壁を貫通する。音を聞くに当たってはいないはずだが、「ギャ!」と短い悲鳴がきこえる。


 外部犯の仕業と確信し、即座に地面を蹴り、一跳びで店の出入り口に着地。そのまま殴りつけるように扉を開ける。

 その時、丁度目の前を一陣の風の如くバイクが去っていった。

 運転者と目が合う。シャオだ。


「は?」


 ただ事ではないと、遅れてユゥインとモルグが店から出てくる。

 

「え、シャオ君!?」

「はあ!? 何してんだいあの子は! シャオ! 止まれ! シャーオー!」

 

 だが既に時遅し、二人が目にしたのは遥か遠くに行ってしまったバイクだけだった。



「危なかった~。ばれちゃったけど、乗ったらこっちのものってね!」

「ぽぴぃ~!」

 

 ダッダッダッダッダッダッ——


 バイクを走らせるたびに小さな凸凹道が音を鳴らす。いつもはヴィハーンとお喋りをしながら運転していたものだったから、気がつかなかった。


「へへ、ドキドキしたね。私、まだドキドキしてるよ。これからはもっとドキドキしちゃうかも」

「ぽぴぽぴ、ぽぴぽぴ」

 

 何とか出発することが出来たことに漸く一息つく。

 顔のすぐ横を掠めて壁にめり込んだあれは、ヴィハーンが投げたのだろう。今さらながらにヒヤリとして、首をすくめる。


 ダッダッダッダッダッダッダダダ——……

 

 ————ガガガガガガガガガ

 

「って、なんか地響きが。石でも叩いてるのかな……」

 

 バイク以外の音が聞こえてくる。次第に音は大きくなってきて、ついにはすぐ後ろにまで聞こえてくるようになった。疑問に思い、ミラーで背後を確認する。

 

 ヴィハーンが物凄い勢いで走っていた。


 「うぇええ!? やばいやばいやばい! ヴィーすっごい速いんだけど!」

 

 此処まで早いとは想定していなかった。少しずつ距離が縮まっている。しかも武器背負ってる。なんかこわい。

 慌ててアクセルをグイっと更に捻り、スピードを上げる。

 幸い、バイクの運転モードは最後にヴィハーンが触っていた時から変わっておらず、出せる速度に制限はない。

 もしこれがシャオがいつも運転する安全モードになっていたらこれ以上の速度が出せず、たやすく捕まっていただろう。


「シャオ! 何をしてる、馬鹿、戻れぇえ!」

 

 いつものシャオならいう事を聞いて素直に応じていたし、そもそも無断でバイクに乗るような事などしない。こんな、まるで逃げ出すような事など。

 はるか後方のヴィハーンの怒声を背に、シャオはどんどん先へと走っていく。


「ゲペちゃんのところに! いってきまーす!」

「ぱぴぷぺぽー!」


 それだけ言い残して、一人と一匹は集落から流れ星のように去っていった。



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