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リンホンコード ―暁少女と鉄の男の終末歩き―  作者: 卵掛 小保下
旅する無垢人形〈ウェイストドール〉
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閑話 修理屋とは


 

「そういえばさ、ボール君を見せた時に言った、『失礼』って?」

「『修理屋があるの? 街の倉庫群を不法占拠した人たちだと思ってた』だとさ」

「わお……」


 ユゥインは机の上のロボットペットを指で戯れるようにつつく。

 ロボットペットもユラユラ転がっては、また元の位置に戻っていた。


「確かに都市部の倉庫群よりぼろいけどね。登録なら数百年、文化的な生活って意味なら数千年前から存在する由緒正しき下町だよ。まあ、行政の目が無いのは否定できないけどね」


 この場所の説明として皆が集落と表現しており、シャオ自身、どこか寄せ集めの様なイメージを持っていた。

 だが下町という言葉が出てきたように、意外にもちゃんとした街であったらしい。

 それにしても、なぜ修理屋が不法占拠でない証拠のようになるのだろうか。


「修理屋はある種の特権階級でね。良い所に居住許可がもらえるのさ。だから一定以上のインフラが整っている街にしか居ないと思ったほうが良い。あっても居るとは限らないけどね。ほとんど大都市にしかいないよ」

「そうなんだ。でも、機体って長く生きるんだよね? そんなに凄いならみんなやりたいと思うし、そしたらどんどん増えると思うんだけど」


 シャオの言うことは間違いではない。金も稼げて居住許可もすぐに下りる。皆から頼られ、肩書だけでも尊敬されて、いいこと尽くしだ。事実、なりたがるアンドロイドは非常に多い。

 そのための有料訓練所もいたるところにあり、それだけで経済が回っていると言っても過言ではない街も数多くある。


 だが、それでも大都市を除いて修理屋とは滅多にいない存在だ。そもそも、修理屋になるための試験が非常に難関なのである。

 

 試験はデータベース閲覧不可。外部との同期不可。まずこの二つだけで9割以上の不合格者が出る。

 そのうえ、電脳戦に関しても一定以上の実力が必要。合格者がゼロの年のほうが多いぐらいだ。

 

 それでも合格者はいるので増えるはずの修理屋なのだが、増えない理由がある。それは常に新しい技術に対応する必要があるからだ。

 学びを怠った事で対応できない機体が増え、結果として事故を起こし、職を失う修理屋も多い。


 修理屋とは、それだけ高度な技術を求められる職業なのである。

 とはいえ、実は先代店主は違う。


「親父に限って言えば〈機体修繕医療技師法〉ってのが出来る前からの修理屋だったからね。引き続き名乗ってもよかったのさ」


 突然呪文の本の題名みたいな言葉が出た。

 それが何なのか分からずシャオは「?」を飛ばしてユゥインを見つめる。


「あたしが起動するよりも前のことで、正式な許可を持つ修理屋なんだ。ヒューマノイド専用の特例措置だよ。見た目がひどすぎて誰も信じなかったけどね。無許可の闇医者って言われてたぐらいさ。」



 どうやら当時の風潮が『不調になったら機体を丸ごと交換する』といったもので、世界的に修理は必要とされなくなり技師はむしろ不人気職だったという。

 そしてとうとう機体が不足し、軽~中等度の損傷は修理か部位交換推奨となったが、そのころには真っ当に修理できる人材がほとんどいなかった。

 それを解消すべく修理屋には様々な特権が許され、皆がこぞって修理屋を目指した。というのが事の顛末とのこと。

 

 「優秀な技師は数多くいるが、あたしは親父が一番だと思っているよ。なんせ場数が違う」

 

 と、彼女は少しだけ誇らしそうに言葉を付け足す。

 シャオは話したことこそないが、今の話と集落のアンドロイド達が先代店主を慕っていたことを考えると、とても忍耐強く、誰かの苦しみにも心を砕く優しい人なのだとなんとなく思った。

 

「インも許可を持ってるの?」

「あたしは"ヒューマノイドの技師を補助するアンドロイド"という名目で許可をもらったのさ。親父が死んだ今、もう無いよ。腕には自信があれど、名目が親父ありきのあたしだったからね」


 今のご時世に意味はないけどね、と、彼女はロボットペットを抱き上げ、少しだけ寂しそうにつぶやいた。


「まだ、友達が死んだと決まったわけじゃないんだ。諦めるんじゃないよ」

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