7-② ナルギレ
「今回も無かったのか。何処のアホがかき集めてるのやら。適当に使っちまったらBAD入るだけっつうのに」
外に放置してある椅子にだらんと座っていたナルギレが声をかけてくる。
いつもと同じ作業着を着ているが、今日は着崩しており、首から胸元までガバリと開いていた。青い肌とカートリッジの差込口が良く見える。
「大丈夫だよ。見つけたらちゃんと持ってくるね」
「頼むぜ。あれが無けりゃ仕事もできねえ」
「よく言う。自分が急かされると数年後でも文句を言うだろう。お前もそれぐらいは待つんだな」
ナルギレからの依頼である<幻惑リキッド>は貴重品なのか、どこに行っても見つけることが出来なかった。
そんな貴重品を彼は至る所で出没するメタルシリーズの駆除や退散のために使っているらしい。
ちなみに、アンドロイドに対する薬物としてしかシャオは見たことが無い。
(他の住人からは、「嘘だ、アイツしょっちゅうラリってた」とのタレコミ済み)
リキッドがない、幻惑煙を出せない、仕事もできない。
ないない尽くしの彼はやることが無く、日々ダラダラと過ごしていた。
「そうだ。この子について何か知らない?」
「ぴっぴぴ~」
ロボットペットは荷台で集落に来た時とはまるで違う、震える程度の振動を楽しんでいた。なんなら鼻歌のようにさえずっている。
ナルギレはそれを見て、「こりゃまたチビが来た」と体を起こし荷台に近づく。
自身に影がかかったことでナルギレの存在に気が付いたロボットペットは不思議そうに鳴いた。
それには質問が含まれていたようで、ナルギレは特に過剰反応することも無く、その疑問に答える。
「おん? 儂が青いって? そりゃそうだ。ブルーモデルなんだからよ。夜は幻想的だぜ?」
「なんで? 光るの?」
シャオも初耳の情報に、思わず聞き返す。夜に幻想的なのはネオンと提灯ぐらいしか思いつかない。
少女の疑問にナルギレはへへんと胸をはり、親指で自身を指した。
「おう。儂の頭部は透明なガラス製でな、ライトも内蔵されている。点衝撃に弱いから袋を被ってるけどな。ナルギレ、シーシャ、水たばこ。色々呼び名はあるが、その容器だ。今は空だが、液を入れればあっという間に蠱惑な夜の青い花だぜ」
自慢げな彼の言葉だったが、シャオは渋い顔をする。彼の言った容器の名称に覚えがあったのだ。
「本で見たことあるけど、健康に悪いってあったよ。ナルさんは大丈夫なの?」
「儂プロだもん」
心配そうに尋ねる少女の言葉に、ナルギレはあっけらかんと伝える。そしてシャオに近づき耳元まで屈むと、悪だくみをするように肩を抱き寄せた。
「ま、儂は旧人にも対応可能だ。興味があるなら……」
「あるなら、なんだ。言ってみろ」
怪しげな雰囲気のナルギレが妙な売り込みを始めかけたその瞬間、荷台からロボットペットが消える。ヴィハーンはナルギレに向かって、ロボットペットをギリギリと押し付けていた。
返答次第では無事では済まないだろう。主にナルギレとロボットペットが。
直前までの雰囲気は霧散し、ナルギレは跳ねるようにシャオから離れた。
「あってもシャオちゃんには早えわ! 大体100年ぐらい! だからヴィハーン。チビ助を仕舞え。頭部が割れちまう。それにユゥイン嬢が知ったらどやされるぞ」
距離を取ったナルギレが捲し立てるように言い訳と文句を言うが、ヴィハーンはそれにかまう事無くロボットペットをぽいと荷台に投げ戻していた。
「時間の無駄だ。とっとと行くぞ」
先ほどまでご機嫌だったロボットペットは「ぽ、ぽぽぽぽ……」と何か言っている。
よくわからないが、怒りが込められている事だけはシャオにも感じ取れた。




