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リンホンコード ―暁少女と鉄の男の終末歩き―  作者: 卵掛 小保下
旅する無垢人形〈ウェイストドール〉
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2話 シャオのおしごと②

 

 ガタガタガタガタ……


 二人乗りの大きな赤いバイクが、殆ど空の荷台を引いて勢い良く走っている。

 いつも探索する街への道とは違い、ヒビが広がり、小石が散乱していた。

 仮に小石が無くなったとしても地面はところどころ盛り上がるように歪んでおり、とても平とは言えない道だ。

 道に合わせて振動に揺れる声で、シャオは疑問をつぶやく。

 

 「こっちの道は、凸凹してる! どうして?」


 幸い、目的地までの道は比較的安定している。天気が良ければ練習がてら、帰り道はシャオが運転してもいいかもしれない。

 凸凹道の最初の練習としては、むしろ安全すぎるほどだろう。

 

「災害の影響でこうなっただけで、以前は滑るように平に均してあった。本来ならば集落の道のほうが荒れている。あそこは行政の目が無い場所だからな」


 シャオとは違い、ヴィハーンは振動に影響されず、平坦な声のままで疑問に答える。


 シャオは外の世界については、現在の姿からしか知らないので、以前の話を聞いてもいまいちピンと来ない。

 それに、いくら崩れた後と聞いても、故郷の村よりは発展しているのは一目で分かる。

 いつもの道以上にならされた道というものが想像できなかった。

 

「へえ~、想像つかないや。私も見たかったなあ」


 先の見えないほどまっすぐな道路を見て、シャオは視力検査で使われていたという絵を思い出す。

 あの絵の道路の先には気球があったが、この道路の先にあるエリアの〈裁縫レンガ通り〉には何があるのだろう。


「到着は夜だ。今日はやることも無い。道中なら日が昇っているうちに探索が出来る。お前はどうしたい」

「ん……。今日は初めての場所だし、寄り道は無しにする」

「そうか」

 

 到着まであと数時間。

 崩落した建物群や、島ほどある大きな建物。かつては美しいガラスドームのトンネルだったであろう、ドームの破片が散乱する道路など、シャオは周囲の景色をただ目に焼き付けていた。


 ◆


 あれから数時間。とっくに日が沈んで真っ暗闇の中、ようやく目的地に到着した。今日はエリアに入ってすぐ、外周部建物内で一夜を明かすことになった。

 デッドラインが無いのか、どこも通りやすいようにある程度道が整理されていた。アンドロイドが立ち入れない故の境界線というものは無い。

 だが、まるで境界があるように一定の場所から先は住居が消え、何かしらの店ばかりになっている。

 何となくでしかないが、此処は商売のためのエリアなのだろう。もしかしたら侵入に関する制限が無いのかもしれない。

 

 

「本当に到着が夜だったね。今何時かな?」

「二十二時だ。お前は寝ていろ」

「はーい」


 バイクの背を少しだけ倒して小休憩も取れるが、荷台はシャオが横になって寝られる広さがある。

 シャオがバイクから降りて荷台で寝る準備をしていると、ヴィハーンが街の奥の暗闇へ顔を向けた。何かの足音を察知したのだ。


 しばらく無言で見続けていると、次第に足音が近づいてくる。

 足音の主が声をかけてくる頃には、バイクの明かりに全身が照らされていた。

 

「こ、こんばんは。ぁ、シャ、シャオちゃん。ヴィハーンも。こ、ここまで来るの、初めてなんじゃない、かな?」

 

 集落のアンドロイドのゲペレペンゲだ。

 歩くたびにユサユサ揺れる全身黒いモップの様な機体。丸くクリッとした大きな目玉が二個。大きなミノムシのヌイグルミみたいな彼は恥ずかしがりやなのか、いつも自信なさげにたどたどしく話す。

 シャオは今の話し方の彼しか知らないが、本来このような話し方ではないらしい。

 

 ちなみに、れっきとした子供向けの着ぐるみ型アンドロイドである。

 〈キモ可愛い〉がコンセプトのアンドロイドだったが、人気どころかクレームの嵐ですぐにクビになったとのこと。

 

「あ! ゲペちゃん! こんばんは。ゲペちゃんも探索に来たの?」

「ぅ、うぅん。き、今日は、ただの散歩だよ」


 アンドロイドは様々な活動をして生計を立てている。集落内のアンドロイド達も例外ではない。

 対メタルシリーズの駆除業者のように集落から殆ど出ないアンドロイドがいれば、集落外で稼ぐアンドロイドもいたりする。

 また、集落外で集めたそのままでは使えない故障品をLUBANに持ち込んで修理してもらい、それを集落外で売ったり、交換したりして暮らしているアンドロイドもいる。


 ゲペレペンゲは集落外で活動するアンドロイドだが、その場合はいつも友達のモルグというアンドロイドと一緒だ。だから散歩なのは本当なのだろう。

 だが今日は新月。空には雲がかかっており、星さえも見えない真っ暗闇だ。

 

「でも、こんな真っ暗だと何も見えないし、危ないよ」


 指輪の暗視補助機能も働かないほどの完全な真っ暗闇。

 シャオは手持ちのランタンがあるので、いざと言う時も何とかなるが、彼は暗闇の中から出てきた。何も見えない中での散歩とは、一体何なのだろうか。

 

「み、見えないって、何が、かな?」


 対してゲペレペンゲは、シャオの言葉の意味が分からず不思議そうに聞き返した。見えないの意味が分からないのだ。二人して困ったように顔を見合わせると、助けを求めるようにいつの間にか壁際に座り込んでいたヴィハーンを見つめた。


「……肉体は光が無いと視覚センサーを切られた状態になる。 機体は肉体には見えない光も判別できるうえに、周囲の温度も視界として判断する。機種によっては音波も含まれている」

「「へぇ~!」」


 しばらく沈黙していたが根負けしたヴィハーンが説明すると、二人は驚いたように目を開く。

 世界的にはアンドロイドも昼が活動時間で夜は休息時間だが、それはずっと昔の習慣が続いているからでしかない。

 ただ歩くだけの散歩には、昼夜は関係ないのだ。

 

「シャオはまだしも、ゲペレペンゲ。お前は知っているはずだろう」

「ぁ、その、もういらないと思って、肉体に関する知識は三十二年前に全部消しちゃったんだ。その、……こうなるなんて、思っても無くて」


 ヴィハーンはそれを聞いて少し沈黙したのちに、「否定はしない」と返した。

 事実として、既に使わない知識であったのは間違いではないからだ。


 ――ごつっ


 ヴィハーンとゲペレペンゲが音の方に目を向けると、先ほどまで元気だったシャオが眠りについていた。

 体操座りの態勢で薄手の毛布を羽織り、荷台の仕切りに頭をのせている。

 ゲペレペンゲはシャオが起きないようにゆっくり横たえ、その場を離れようとしたが、シャオの手がゲペレペンゲの機体に生えているビロビロを握っていたことで、仕方なくその場に残る。


 必要のなくなったライトが落とされると、その場は暗闇の中へと沈んでいった。

 


 

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