32話 6足りない
気が付けば暗闇の中、ただ騒めきだけが広がっていた。
ふわふわの毛のに包まれて意識が浮上する。動物のように暖かく柔らかいが、鉄と砂の匂いしかしないことから、生き物ではないことがわかる。
「シャオチャン!起きて!」
「頭を動かすな。肉体は頭が弱点だ」
ゆらゆら動かされるも、からだがとても重く、二度寝をしてもいいぐらい心地よかった。
「ふーん。シャオちゃん死んじゃうんだ。その前に手袋返してもらってもいいかな? 死体を漁る趣味はないんだよね」
「触るな。肉体は体温が一定の範囲から逸脱したら死ぬ。保温だ」
ヴィハーンの声が聞こえる。それと集落のアンドロイド達も。
「くそトカゲ!俺の腕どうしてくれんだ!」
「気にすんな、貸し一だ! いつか返してくれりゃあそれでいい!」
「おかしいだろ!」
うっすら目を開けると、視界には多くのアンドロイド達。を隠すように、至近距離で画面が開かれていた。
指輪によるものだ。
【メッセージ・おともだち登録申請を受けました】
・あなたに、機体ナンバー『kf『vぢ『yg『sjべ』おd』pf土』、その他複数が一括でお友達申請をしています。
・こちらの申請を受託した場合、以前の認証は取り消しとなります。
・認証しますか? YES ・ No
多くの項目があるが、内容が理解できない。お友達申請とは何だろう。
(友達なら、私、ちゃんと自己紹介したいな)
よくわからないまま好きな色の項目を選択。赤色のNoを選んだ。次の瞬間。
みし……ぎち、ぷつっ、ぷつつつっ ……ぎぎぎぎぎぎ。
嫌な音が微かに響く。シャオが手を動かしたことで歓声を上げたアンドロイド達もあたりをきょろきょろと見回し、そのうちの一体が「あ!」と声を上げた。
「崩れるぞ!」
その直後、先ほどまでは機能停止したロボットというだけだった捕食型が、まるでくっつけていたものが無くなったかのように、全てのパーツがバラバラになって崩れていった。
「宝の山だ!」
そして先ほどまでシャオを取り囲んでいたのは何だったのか、出来上がった部品の山に我先にとアンドロイドたちは群がっていった。
残るはヴィハーンとミウナインだけだった。
「ミウ、よかったあ」
にヘリと笑うシャオに、ミウナインは顔をクシャリとさせて、シャオの手をぎゅっとつかむ。
「この……、バカ、バカ、バカ、おバかー! 空ニ投げ飛ばされタのにアタチが気が付カなかっタラ、アンタ今頃ぺったんこなんダかラ!」
「ミウが助けてくれたの! ごめんね、ありがとう!」
「ごメんは要らないワヨ!」
シャオにミャーミャー泣くミウナインの指には、大量の指輪が一つもなくなっていた。
「指輪が無いよ? 落としちゃったの? 一緒に探すよ」
「……いいのよ。シャオチャン見てたら、無くたっていいって思ったのよ。願掛けみたいなものだっタし、寧ろスッキリしたワ」
ふふんと笑うミウナインはその言葉に嘘は無いようで、どこか晴れ晴れとした表情で頬の毛を撫でつけていた。
「奴らも警戒心はある。初対面なんだ。もし集落の奴らに何かされたら言え。……まあ、大丈夫だろうが」
ヴィハーンがいう彼らは誰かの被害者というイメージだったが、今は違う。
《自分》という存在をしっかりと持って仲間を大事にする、強くて優しい人たちだ。
「あ! 修理代の代わりにすんだから、今使うなよ!」
「ばぁーか。今使わねえと運べるもんも運べねえ。あとお前の触腕ロープに使ってるから。しばらく腕無しな」
「ぶっ潰すぞ!」
まあ、ロクデナシは否定できないが。
ふと、シャオは気が付く。
「あれ?檻の中にいた人たちが、六人足りない」
その言葉に周囲のアンドロイドは『あ~……』と微妙な雰囲気を出す。作業を止めたことから、離れてはいても、こちらの様子を気にはしていたらしい。
「アイツらな。いかにも『ならずもん』ってやつだったな」
「外から来た奴らだろう。修理屋を探していたな」
「部品強盗だな、ありゃ。馬鹿だよなあ」
それを聞いて、シャオの脳内に一人の存在が浮かび上がる。
「修理屋……。強盗……。インが危ない! 早くいかなきゃ!」
先ほどまでの疲労感も飛んで行って、シャオはユゥインを助けるべく走り出す。が、やはり無傷ではないので、えっちらおっちら。
普段の身軽さと比べればカメのような速度だ。残されたアンドロイドたちは手を振って見送った。
「心配するだけ無駄だ」
道中、シャオが急ぐ中、ヴィハーンは突貫で作った松葉づえをつきながらのんびりと進んでいた。
それで問題が無いぐらい少女の速度は遅かった。
「でも、六人はいなくなってた! もし全員強盗だったら!」
「六体か。無理だろう」
シャオは店で一人残るユゥインが心配だった。ヴィハーンの言う通り、六人相手取るのは非常に厳しい。
その七人は集落のアンドロイドじゃなかった。でも、助けてくれたアンドロイドである事に変わりはないのだ。
お互い満身創痍。難しいかもしれないが、何とか落としどころを見つけたい。
でも、その落としどころにユゥインを巻き込みたくはなかった。
「無理でもインを助けないわけにはいかないよ!」
「……? ああ、そう意味か。なら問題ない」
体力が戻ってきたシャオのスピードが上がる中、ヴィハーンは変わらず杖を突いたまま歩いていた。
ずっと先にLUBANが見えてくる。店先では長い棒を持っているユゥインが、複数のアンドロイドに囲まれていた。
「インー!」
シャオの声は届かせるには小さく、誰の耳にも届かない。ユゥインはそのまま一斉に襲われたのだった。




