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31話 決着

 煙が徐々に晴れてくる。ナルギレが言った通り、先ほどまでいたセキュリティロボットから保護ロボットまで、その全てがいなかった。集落のアンドロイドたちも姿を消している。

 ここにいるのはシャオとヴィハーン、そして捕食型だけだ。


「本当にいいんだな?」

「もっちろん! 失敗なんてしたらミウに怒られちゃうよ」


 あれからドームを貫通できないか様々な方法を試したが、コアの守りは堅牢で刺すことはおろか、開く事さえもできなかった。

 無理に力を入れるとヴィハーンの機体が先に限界を迎えそうになり、ただ時を待つほかなかった。


 だからこそ、やることは決まった。

 シャオが囮となることであえて捕食型の近くで動き回り、アームを伸ばされる際に開くドームの内部にある赤い警報ランプ、もとい、コアを破壊する。

 

 相変わらず作戦と呼べる作戦でもないただの力押しだ。

 周囲にナルギレが多くの塹壕を残してくれたので、それらを利用しながら逃げることとなる。

 

 幸い捕食型にも制限がある。生きたままの捕獲にこだわる存在にとって、逃げ回るシャオはそれだけで厄介だ。

 塹壕を崩す際にシャオが近くにいてはいけないし、瓦礫ごと捕獲でもしたら肉体は耐えられない。

 

 必然的に機体のパワーのほぼ全てを抑えるしかない。


 もちろん、そうだからと言ってシャオも危険なことをしていれば、偶然崩れた瓦礫が当たるなどの事故の可能性も否定できない。

 

 ここは安全圏ではないのだ。捕獲される可能性と、瓦礫などに当たって取り返しのつかない事態に陥る可能性がある。

 

 それでも、この状況を潜り抜けた先に未来があるのだから、それぐらいのリスクは簡単に飲み込める。

 

 ……シャオは、ヴィハーンが目覚める前にナルギレに撤退を提案したが、それは跳ね除けられた。

 

 それを受け入れれば、余計な負傷が増えた今、結局のところ徐々に機能停止に追い込まれるだけだ、と。


 今この機を逃せば相手は回復し、もう二度と勝機は訪れない。


 ナルギレとて、善意だけで場を整えたのではない。シャオとヴィハーンの可能性を信じて託したのだ。

 ならば、それに応えるのがせめてもの恩返しである。


 捕食型が唸るような稼働音を出し、ゆっくりと立ち上がる。動けない間も意識はあったのか、シャオのほうをずっと見ていた。


「ナルさんの言った通りだね」


 シャオがナルギレから聞いた話では、機体の大部分への影響を及ぼせても、そのコア付近にまでは干渉できなかった事。あれは、外付けのコアだとのことだった。


 例えるなら寄生虫のようなもの。捕食型が広場から動かないのは、この街のエリアルールの制御システムを陣取っているからだ。


 だから行動は予測できずとも、その範囲は簡単に予想できる。


 ヴィハーンが途中まではシャオを抱えながら走り、シャオがここにいることをアピールした。やはり、機体本体の動きはまだ鈍かったが、ドームのアーム出口部分は遅れることなく常にシャオのほうを向いている。

 やはり、寄生部分の本体はドームに覆われた機体上部なのだろう。


 塹壕にシャオを置き、ヴィハーンがそれを背に捕食型へと向かっていく。少女の動きは相手のドームの角度で把握することが出来た。


 どうやらアームを伸ばすことは避けているらしい。やはり、肉体の一部や死体ではなく、生きている個体を求めていることが確定した。


 「いくよ!」


 声と共に、シャオが塹壕から離れる。

 飛んでくるアーム潜り抜け、コアを破壊するため、ヴィハーンの機体に力が入る。

 と、同時に固まりが勢いよく噴出された。シャオではない、彼に向ってだ。


「っ!」


 半歩避け、元居た場所に目を向けると、そこには捕食したのであろうロボットの残骸がめり込んでいた。

 粉砕口だと思っていた場所は吐き出すことも可能らしい。


 そして位置がずれた隙間を縫うようにシャオへアームが伸ばされる。すかさずそれを殴りつけることで角度をずらし、シャオとは違う方向へ飛ぶようにした。


 轟音と共に、シャオが隠れている塹壕とは違う場所の塹壕に衝突したようだ。

 こちらの不手際により、隠れ場所を一つ失わせてしまった。


「シャオ!」

「問題なし!」


 呼びかけると元気に返事が返ってくることから無事ではあった。だが、そう何度も繰り返せばシャオの体力がいずれ尽きる。


「厄介だな……」


 時間を掛ければ、ナルギレの煙の効果もじきに切れて、セキュリティロボット達が戻ってくる可能性がある。

 だが、速攻で仕留めようにも妨害されながらアームを防がねばならない。


 ザラザラザラ……


 粉砕口から小さな何かが数体出される。ロボットだ。今まで捕食したアンドロイド達の不要な部位で組み立てられた、なんとも不格好な存在だ。


 シリアルナンバーを読もうとしたが、複数のコアが分解され、組み合わされていた。もうあれらにアンドロイドとしての意思はないだろう。

 

 複数の機体をキメラのように組み合わせたそれらは、アンドロイドから見るとひどくおぞましい物だった。


 ぎぎぎぎぎ

 

 滅茶苦茶に部位を振り回しながら向かってくるそれらを迎撃しながらアームを殴りつけることで今はしのげているが、じりじりと押されていた。そして再びドームが開き、アームが伸ばされる。


 次に出たアームは改良されており、一度は破壊したはずの自立型アームに変わっていた。


 アームは殴りつけるだけでなく、引っ込まれる前にある程度破壊しておかないと、出てくるたびに強化されていく。


 破壊すればロボット達の襲撃に対応できず、ロボット達の対応に回ればアームが改良されてしまう。

 ヴィハーンは時間と共に追い込まれていた。だがその時、一筋の道が見えた。


 ロボット達がこちらに向かうタイミングで玉突きのようにぶつかり合い弾かれ、ドームまでまっすぐに一本の道が出来たのだ。今このチャンスを逃せば、次のタイミングは絶望的だ。


 だが、訪れたのはチャンスだけではなかった。


 それに重ねるように、警報音が聞こえてくる。セキュリティロボット達が帰ってきたのだ。

 

 そのうえ、ドームが開かれアームが飛び出していた。今度のアームは先端が大きな手のようになっており、瓦礫などを選別しながらシャオを掴むことが可能だ。

 

 一度捕まったら最後、そのまま後ろのセキュリティロボット達に引き渡される。今の自分では奪還は不可能。それはそのまま敗北を意味する。

 

 (……何事も、優先順位だ)


 機体に力をこめていき――


「いっけー! ヴィー!」


 シャオの声が撃針となり、ヴィハーンの機体は雷管が弾けるように前へと進んだ。


 そのままドームに向かって突き進む。向かってくるアームを紙一重で避け、シャオの元へアームが向かうのをあえて見過ごした。


 そしてそのアームの上に飛び上がり、ドーム内部、コアに向かって駆けあがる。到着した時、コアの反射面には、背後でシャオが捕まって持ち上げられているのが見えた。

 

 それを否定するようにコアを両手で持ち、機体から外そうとする。だがゴム状の接着剤でしっかりと固定がなされており、取り外しには時間がかかることが予測された。


「っは、巨大コアにしては反応が鈍いのも、寄生だったからってわけか」

 

 故に、押しつぶすように左右から力を込めていく。ユゥインに処置をしてもらった手足の仮部品は既にすべてが潰れ、焼き切れていった。

 

 代わりに衝撃を受けていた部位がすべて消え、かろうじて動いていた本来のヴィハーンの部品も、これ以上は耐えられないと言わんばかりに悲鳴を上げる。

 だが、今止まるわけにはいかないのだ。機体の限界を無視して、できるすべての力を込めていく。


 ビシ、ピキキ……。バギン!


 ヴィハーンの込める力に耐えきれず、はじけ、四方に飛び散った。


 ついにコアが砕かれた。

 

 それによりエリア一帯を支配していた不正な命令も停止。セキュリティロボット達は一斉に停止をした。


 崩れ落ちる機体の崩壊に巻き込まれないように、飛び降りるも着地に失敗し、無様に崩れ落ちる。足に突き刺していた杭もはずれ、倒れこんでしまった。


「シャオ……!」

 

 これで解決したように思えたが、遠目で見えた少女の状況は最悪だった。




 

 突然アームが痙攣するようにのたうち回り、そのまま空中で放り投げられるように手放されたシャオは、奇妙な浮遊感の中にいた。


(鳥って、こんな感じなんだ――)

 

 ごうごうと顔にぶつかる風の音は、楽園でも聞いたことが無い音だ。こんな強い風など感じたことが無い。


 いや、違う。どこかで聞いたはずだ。それもつい最近。あれは霧の仲だっただろうか。

 

 そんなシャオの脳裏を横切ったもの。それは……。


(……ミウ、ごめん。インも、ごめんなさい)

 

 暗闇に沈む世界で、何かがふわりと身を包んだ。



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