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29話 トカゲの一投


 広場の中央に捕食型。周囲をロボットが囲んでいる。ヴィハーンは捕食型まであと数メートルのところにいるが、距離を縮めることが出来ないようだった。

 

 バラヌスとナルギレは集落のアンドロイドたちを引き連れたはいいが、さてどうしようと悩んでいた。


「おーおー。足に棒なんぞ刺してら。あいつ痛覚機能あったよな。よくできるぜ。俺はユゥインさんが怖くて出来ねえけど」


 次々と集まる雑兵を打ち払うヴィハーンは、なるほど。戦闘型の名に恥じない戦い方をしている。

 だがあれでは切りがないだろう。捕食型はその場からは動かず、ずっと何かを探しているようだった。


「……ま、儂にもとうとうキメ時が来たってわけだ。猶予はあるけどな」

「何言ってんだ。いつもキメてんじゃねえか。ん?そういやここ数ヶ月やってなかったな」


 ナルギレが煙をくゆらせると、背後のアンドロイドたちが一斉に動いた。動きの速い者たちが率先して前に行きロボット達を引き付け、遅い者たちはその後方で、瓦礫や動くことのない機体を集めて石壁を作り出していた。まるで塹壕のようだ。


 ナルギレはカートリッジを取り出すと、体内で調合するように複数の種類を少しずつ吸い込み始める。吸いながら、ナルギレはバラヌスに自身をヴィハーンの近くまで。

 

 即ち、あの捕食型の近くまで連れていくよう指示した。あの暴走している馬鹿アンドロイドを回収するのだと。

 バラヌスはそれを聞き、即座にナルギレを抱え走り出した。


「任せな! あんたはそのまま置いておけばいいのか?」

「馬鹿野郎! ポイ捨てすんじゃねえ!」

 

 バラヌスの足はアンドロイドの中では比較的速く、すぐに到着する。そして嵐のような現場に到着した直後。


 ナルギレから大量の煙が勢いよく吐き出される。

 煙の大半は拡散してすぐ消えたが、一部残った煙に当たったロボットはぼんやりとするように立ち止まる。

 それをみたロボットたちが視覚に感知できる煙を避けると、もがくように苦しんで動かなくなっていった。

 

 その間を縫ってバラヌスはヴィハーンの腕を掴んだ。ヴィハーンは相手がバラヌスなのもお構いなしで、周囲との区別もつけず、握りつぶそうと、拳を開き反対側の手を伸ばす。

 だが煙が吸気口に入り、ガクンと機体から力が抜けていった。

 

 結果として抵抗らしい抵抗もされる事なく、そのままヴィハーンを引きずり、先ほどの場所まで一時撤退することが出来た。

 が、そこは先ほどとは全く違う場所になっていた。


 撤退した先には多くの塹壕が出来上がっている。素材は遊具から機体から瓦礫までよりどりみどり。

 集団での突撃を防ぐことはできずとも、物陰に身を隠すことならできる程度には大きく、何事もなければ崩れない程度に簡易的な補強も済んでいる。

 

「え! もうできたのかよ! すげぇ!」

「こいつらはな、ポテンシャルはあるんだよ。ちいっとばかし日頃の生活態度が酷えだけでな」


 バラヌスから降りると、やれやれと言わんばかりに首を振った。なお、自身の生活態度のついては除外するものとする。

 

 先ほど吹いた煙はここにはきていないのだろう、至る所でロボット達が障害物を破壊しようと暴れている。

 それにより壁が崩れ下敷きになったり、あえてアンドロイド達が前に出ることで集中し、同士討ちを勃発させたりとしていた。


「おいおいおい! ナルギレ! 滅茶苦茶やってんじゃねえか! エリアルールどうなったんだよ!」

「儂は殴ってねえ。そういうこった。ルールは潜る為のもんだろ? 破れねえならなおさらだ」

 

 ヴィハーンをナルギレが指定した物陰に横たえ、残りのアンドロイドたちが塹壕の調整をしていた時のことだった。


――わああ!


 子供の叫び声が聞こえる。シャオだ。


「おいおい! まじかよ!」

「……予想が外れたな。あっちからだったか」


 彼の予想では、ヴィハーンを安置した場所のあたりからシャオがこちらに来るはずだった。


「仕方ねえ、あんなガキだ。予想の百や千ぐらい裏切る。心当たりもあるしな」


 過度な不安感を緩和させようと数度にわたって少女の感覚に干渉し、結果として中途半端に影響を及ぼした自覚はあった。まあ、失敗したのだ。

 煙の扱いには自負があったので、少しばかり、針の先程度にはプライドが傷ついていた。


 もう役に立つ場面はないであろう、損傷の激しい個体から突撃させようと合図を出す。

 だが、その合図に反応したのは影響下のアンドロイドだけではなかった。


「おう! 任せろ!」

「は? 待て待て、てめーには出してねえ!」

 

 静止も間に合わず。バラヌスが他のアンドロイド達と共に走り出してしまった。ナルギレはそれを見て悪態をつき、止む負えず彼らの後を追いかけていった。

 





「なんでこんなにいっぱいいるの!」


 追い詰められ、向こう側を確認しないまま、止む負えず障害物の壁を乗り越え降りた先には、想定外の状況になっていた。


 そこにはナルギレが停止させたロボットたちが数多くひしめいていた。それだけなら問題なかったが、障害物となったそれらを撤去させるために、新たに多くのロボットが集まっていたのだ。


 停止したロボットの隙間を縫うように必死になって走るが、ロボット達は仲間であるはずの機体も乱暴に突き飛ばしながら追いかけてくるので、距離は縮まるばかりだった。


 ついには止まっていたはずの捕食型が距離を詰めており、こちらを捕まえようとドームからアームを伸ばしてくる。幸い他の機体ごと捕まえようとはしないようで、動かない機体の陰にいる限りは大丈夫だが、時間の問題だ。


 さらに追い詰められた先でとうとう停止した機体の群れから抜け出してしまい、もうシャオを隠すものは無くなってしまった。


「もうダメ……!」


 全力で疾走を続けていたことでとうとう体力が尽きてしまい、歩くような速さでしか走れなくなってしまった。

 そうなったら、もうあとは捕まるだけだった。

 

 本来なら、だが。


 シャオとロボット達の間に、土砂の様に何かが流れ込んできた。よく見れば、それは檻の中のアンドロイドたちだった。別れ際よりも傷ついている個体が多い。


「お、大丈夫だな!」


 そのアンドロイド達の中で一人だけシャオにニカリと笑いかけたのはバラヌスだった。


「トカゲ頭さん!」

「バラヌス・コモドエンシスだ! 名前くれ!」

「……?」

 

 自己紹介をしておきながら名前を欲しがるとは、一体どのような意図があるのだろうか。訳が分からずぽかんとする。

 当然そんな彼らに配慮することなく、ロボット達は一斉に襲い掛かった。アンドロイド達は盾のように受けて立つが、その大半は抵抗しないまま倒れていった。

 そして積みあがったアンドロイドの山を、捕食型のアームは邪魔そうにまとめてどかした。先ほどよりもアームの先端が進化しており、シャオ一人なら丸ごと包めそうな大きさになっていた。


「お前ら! っくそ、許せねえ!」


 バラヌスは地面に落ちていた仲間を抱え上げる。そして力強く鮮やかな赤色の太い吸盤の付いた触腕。タコだろうか。その腕を手に取った。


「う、ううう……。バラヌ、ス、か?」


 意識が戻ったのか、タコのアンドロイドが呻きながら名を呼ぶ。


「お前その腕もう動かねえよな? 取ってやるよ。貸し一だからな」

「は? あ、あああ! 人の腕を!」


 流れるような動作でブチリと引きちぎって、今まさに頭部のドームに戻ろうとするアームに投げつけた。

 その投げられた腕はアームには当たらず、内部の赤い警報ランプに衝突しただけであった。

 アームの根本付近だからか、直接は当たらずとも大きくしなるようにアームが揺れ動く。

 タコは再度気絶した。

 

「ホギャー!クソ痛ぇー!」

「お前さん、痛覚機能ねえだろ」

「気分だ気分!」

 

 エリアルールに違反したバラヌスはシステム拘束により手足が縮こまり、そのまま仰向けにひっくり返ってしまった。さながらセミファイナルだ。


 それに呆れながら声をかけるのはようやく追いついたナルギレである。彼が追いついたことにより、煙があたりにうっすらと漂い始めた。

 

「ナルさん!」

「よいっしょ……。お嬢ちゃん、無事で何よりだ」


 動けなくなったバラヌスの太い尻尾を待ちあげると背に回し、そのまま引きずっていく。


「ヴィハーンの奴だが、今眠らせていてな。向こうで寝て――」


 ウ――! ウ―! ウウウ――――!


 突然捕食型がけたたましく頭上の警報を鳴らし始め、引っ込めたはずのアームがだらんと垂れ下がる。

 そのまま根元から取れて地面にずしんと落ち、ドームが閉まると警報ランプは見えなくなった。

 捕食型も意識を失ったように動かなくなる。


「……! そういう事か。すげえじゃねえかバラヌス!」

「何々? 何のこと!」


 引きずられながら、なぜ褒められているのか分からずバラヌスは目を白黒させる。その様子には気にも留めず、ナルギレは愉快そうに笑っていた。

 

「儂の目に狂いはなかったって事だ!」

 

 ゲラゲラ笑いながら走りだす彼の後ろを状況を理解できないまま、シャオはそのあとを追いかけていった。


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