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28話 檻の外へ


 破壊音が響く中、シャオは小走りで動き続ける。

 檻の周りから、串刺しになって破壊されていた保護ロボットの車。周囲に落ちている遊具回りなど、ヴィハーンとの距離を考えつつ場所を移動すると、保護ロボットは優し気な顔を張り付けたまま、無言で追い続けた。

 保護ロボットの破損具合はすごく恐ろしい見た目へと変貌している。かろうじて残っている表情の一部がにこやかなのが、特に怖い。

 

 安心させるようにゆったりと動き、困ったように身振り手振りで何かを訴えるが、正直言って恐怖感しか抱くことが出来ない。

 無理に捕まえようとしないのは、シャオが怪我をしないようにだろうか。そこに感じる妙な優しさには戸惑いを感じる。


 それはそうと、保護ロボットは喉から管のようなものを出してはシュー、シューと空気のかすれた音ばかり出している。


「お、睡眠ガスを出そうとしとるな。とはいえ、中身は揮発して出るのは空気ばかり。補充どころか点検もできとらんじゃないか。プロ意識の欠片も無いとは、情けない……」

「睡眠ガス? 本当にあったんだ!」


 詳しいのか、ナルギレが呆れながら解説する。彼はおしゃべりが好きなようで、シャオが近くを通るたびに色々とお話してくれるのだ。


「そこの角の向こうに待ち構えているからな。儂の手をもって……。そう。持ち上げるから、このまま檻の上を歩いて反対側に行くといい」

「ありがとう、ナルさん!」


 このように、ときどき手助けもしてくれる優しい人でもあった。他にもトカゲ頭のアンドロイドも心配してくれていた。ミウナインとヴィハーン以外にも味方になってくれるアンドロイドがいる。それだけでも十分すぎる程に心強かった。



 


 



「あ~、裏表のない素直な心って言うのは、気持ちがいいねえ」

 

 シャオがその場を去った後、ナルギレが煙を漂わせながら愉快そうに笑っている。他のアンドロイドたちは白けた目で彼を見ていた。

フィッシュボウルも呆れたように呟く。

 

「よく言うね。感覚狂わせておいてさ」


 彼の言った通り、ナルギレはシャオの感覚に影響を及ぼしていた。とはいっても、過度な緊張感をやわらげる程度のものだ。

 彼はひとしきり笑った後一息つくと、深く深く息を吸って……。


「ぶはぁー!」


 わざとらしく大量の煙を吐き出した。先ほどまでより、ずっと濃い煙で先が見えない。


「ふざけんなナルギレ!こんな時にラリってんじゃねえ!」


 トカゲ頭は漂う煙を嫌がり、避けるように頭を振るも煙に包まれる。せめてもの抵抗として柵の外へ鼻先を突き出した。

 だが多くのアンドロイドは我先にと煙に頭を突っ込む。


「これだよこれ! 数ヶ月ぶりの煙!」

「あー? 星が見えてきた。ぐるぐる渦巻いて銀河が見えら。きらきらしてんのなー」

「おいおいおい、金が沸く噴水が詰まってでなくなっちまったぞ」


 どんどん夢見心地になるアンドロイド達。はじめこそ周囲のアンドロイドたちは馬鹿を見る目で眺めていたが、だんだんとおかしくなる様子にざわざわし始める。その間も煙は広がっていた。


「星がキラキラ降りてきた! 木に引っかかってる! 取りに行かねえとなあ!」

「そんなあ! ジーチャンも噴水直せねえんですか! え?直したくない? じゃあ俺が直します!」


 他にも数体ほどのアンドロイドたちが外へ向かって手を伸ばし始めた。


「ナルギレ? あんた、何やって……まさかっ!」


 眺めていただけのフィッシュボウルが異変に気がつき、急いで首にある吸気口を覆うも間に合わなかったのか、呻くように言葉が途切れる。拡散して感知できない濃度でも、十分に効果はあった。


「言っただろう? 素直な心は気持ちがいいって」


 風もない中、煙があたりに漂う。そして煙が影も形もないほどに散った後には。


「気持ちのいいもんには、お代を払わなきゃあいけねえと思っただけさ」


 アンドロイドたちは皆が焦点があってなかった。ナルギレとトカゲ頭を除いて。


「なあ、なんで俺ラリってないの?」

「お前さんには効かねえように組み合わせたってだけよ」

 

 その理由がわからないと、ナルギレを不思議そうにじっと見るトカゲ頭を見てくぐもったように笑い、鱗に覆われた頭をガシガシと撫でていた。


「だってお前さん、最後までずっと出ようと抵抗してたじゃないの。儂だって呑まれてたのに。そんな意志の強い奴はな、頭パーにするより、そのまんまの方が役に立つ。馬鹿力も知ってるしな」

「言えばみんな協力したと思うぞ」


 ナルギレはわかってねえなあ、と手を振ると、そのまま艶っぽい仕草で、布に覆われて見えない頭部をツツツ……と撫でる。

 

「そりゃダメよ。俺が言葉で説得してみろ。みんなメロメロになって俺に惚れちまう。後々大変なんだ。ラリって動かした方が後腐れねえんだよ。口の美味さは昔取った杵柄って奴だな」


トカゲ頭はそれを聞いて、あ!となにか過去に聞いた話を思い出した。

 

「そういえばよお、来たばかりのあんたがユゥインさん口説いて意味が通じなかった挙句、店長にボコボコにされたって昔聞いたけど、あれって本当の――」

「ぶはぁー!」


 誤魔化すように煙をまき散らす。否定も肯定もしない。誰から聞いたのかとも言わないあたり、本当の事らしかった。

 

「……ま、昔取った杵柄って奴だな」

「口説かないって選択肢がか?」


 檻の中のアンドロイドたちは全員デフォルトの直立体制で立っている。

 そのなかで二人が何ともないように雑談をしている様子は酷く浮いていた。


「そんで、こいつらこどーすんだよ?」

「おいおい、儂らがどうして集落に行き着いた来たのか忘れたのか?」

「知らねえよ。……好き勝手してただけだしよお」

「分かってんじゃねえの! 儂らはずっと好き勝手やってきたんだ。なんで檻に入った程度で我慢しなくちゃいけねえのさ。それに――」


 また口元からふわりと煙を漂わせる。それを合図に周囲のアンドロイドたちはミウナインが開けた入り口から次々と出る。


「ミウナインばかりにいいカッコさせちゃいけねえだろ、バラヌス」

「そりゃそうだ!」


 トカゲ頭が――。バラヌス・コモドエンシスがニカリと笑って、空になった檻を破壊する。


「なあ、俺さ、あの子に名前つけてもらいてえな」

「どうだろうな。ありゃ名づけっつーよりは、知能の問題だと思うね。効きも妙だった。既に何らかの影響かなんだろうが……。まぁ、良い子にはちげえねえさ」


 集落のアンドロイドたちが去った後には、念入りに破壊された檻の残骸が盛大に散らばっていた。

 

 

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