24話 予想外の失敗
それは捕食型が持ち上げた檻の上へと、ミウナインが飛び乗ったときのこと。
ヴィハーンはミウナインが決死の覚悟で時間を稼いでいる間に、周囲に大量に集めた拘束具をばらまいていた。
その際、杭は一本ずつその場に置いて広げるのではなく、広範囲に投げて設置していたのでその殆どが地面や壁に突き刺さり、針山地獄のようになっていた。
ここまで大量に集めたのは、何も一本ずつ拾い集めたのではない。セキュリティ用の備品倉庫を襲撃をしたのだ。
警報装置については始めこそ警戒したものの、シャオをヴィハーンの背中に括り付けたからか、一切の反応がなかった。
ロボット達も最初にヴィハーンが大暴れした場所に集結していたことで、倉庫には誰もおらず、もぬけの殻だった。
杭型以外にも拘束具はあったが、選別する余裕もなく台車に乗せて、一度で多くを持ち去る。とはいえ、残っているものは殆どなかったのだが。
そうやって準備したフィールドでヴィハーンは対峙していた。
傍に拘束杭を数本用意し、手に取りやすいように地面に突き刺す。杭を振りかぶって合図したことでミウナインがわざと落ちていった。
そして檻を掴んでいた腕と、ミウナインを捕まえようとした腕が重なるその時を狙って、杭を投げる。
予定通り、二本の腕を縫い留めるように突き刺さり、ミウナインは捕まることなく、檻も地面に落下した。
後は時間を稼ぐだけである。だが予想していたとはいえ、捕食型の機体は停止することなく動き続けていた。
同じ拘束具については耐性が付くらしい。可能性は低いと思っていたものの、そのことも考慮はしていたので、そのまま冷静に対処をしていく。
と言っても、こちらにヘイトが向くようにひたすら攻撃するだけなのだが。
予定通り、捕食型は檻から離れ、こちらの排除を選んだらしい。地響きが大きくなる。だが、その巨体からすれば隙間なく刺さっているように感じるだろう、そこら中に突き刺さった拘束杭が余程うっとうしいようで、その動きはとても鈍い。ある程度のダメージがあることが伺えた。
ヴィハーンへの攻撃と言えば、腕を大雑把に振ったり、そこらに落ちている遊具や機体の食べかすを回収しては、弾丸のように吐き出すだけだった。戦闘を続けながらも少しずつ檻から離れることで、捕食型もこちらについてくるように広場から離れていく。
途中、集落のアンドロイド達が自分に向かってやんややんやと叫ぶ。正確には聞き取れなかったが、何を言いたいのかは予想が付く。
彼らは皆、先代店長とユゥインに恩義があるやつらばかりなのでそれ関連だろう。最初こそは言いたいようにさせていたが、だんだんと怒りが込み上げてきた。
「黙ってろ馬鹿どもが!」
他にもいろいろと怒鳴るも、彼らは変わらずワーワー叫んでいる。それが酷く懐かしく感じると同時に、とてつもなく腹立たしい。
……別にこの捕食型を倒す必要などない。LUBANの二人が面倒を見ていた奴らさえ無事なら、後に他の地区から侵入したアンドロイド達がどれだけ犠牲になろうとも関係がない。自業自得、運が悪かっただけだ。
あまり距離を置くとシャオからも離れてしまうので、以前つながりが切れた時の距離を参考に、そのギリギリを保つ。
このまま時間を稼げば、アンドロイド達は檻から解放され、勝手に集落へ帰るだろう。それまでの時間つぶしのようなものだ。
そう思って特に、シャオ達のほうには注意を払わず、適当に杭を投げ、腕を打ち払い、視線をこちらに向けさせて、その時を待つ。
――その時、檻があるほうから、警報が響き渡った。
「!」
なぜ? セキュリティロボットは、この広場には捕まえたアンドロイド達を連行するとき以外は近づきもしなかった。それがミウナインから聞いた話だった。
彼女はここ数か月、毎日見ていた。見落としは無いはずだ。それに嘘をつく理由もない。
あちらのほうに目を向けると、そこには人間に近い姿かたちの保護ロボットがいた。ヴィハーンとて、存在は知っている。来てもおかしくはないだろう。
だが、あれには警報を鳴らす機能は存在しない。楽園から出たひ弱な人間に向かって、セキュリティロボットを嗾けることなど、ありえないはずだった。
音を消すために保護ロボット達にも杭を投擲し、破壊する。だが遅かったのか、続々とセキュリティロボット達が集まってくる。
「……まさか!」
ある一つの可能性に思い当たり、シャオ達のもとへ駆けだそうとする。
すると、先ほどまで愚鈍だった相手の動きが、急に荒々しく暴力的な動きに変わる。まるで、ここから先は行かせないとばかりに。
捕食型を足止めしているようで、足止めされていたのはヴィハーンだった。ヴィハーン達がこの捕食型を厄介だと思っていたように、この敵も、ヴィハーンが邪魔だったのだ。
しかし彼らとヴィハーンの違いは、ヴィハーンさえ押さえてしまえば、シャオ達に抵抗の術は持ちえない、という点だった。その一点が、酷く致命的だった。
「あいつら、何してやがる!」
ヴィハーンが怒りを向けるのは、檻の中のアンドロイド達だ。ある程度の時間は稼いだ。檻はとっくに開いているはず。
なのに彼らには一向に逃げる気配がない。脱獄に関する罰則は留置所などの指定の場所からの逃亡でないと発動しない。そして一度は捕まったミウナインから、檻から逃走した際の拘束系の罰則があったとも聞いていない。(そもそも広場に檻がある現状がおかしいのだが、それは省く)
そう無駄なことに思考のリソースを裂いていると、視界に影が迫る。
影の速さ・動きに合わせて最低限の動作で避けようとしたが、タイミングがずれた。
機体に限界が来たのか、寄りにもよって今、痛覚システムが作動した。
機体保護機能として、負荷の高い部位に動作抑制がかかるのだ。意識すれば無視して動かすことが出来るが、突然だったことにより対処が遅れ、動作の修正がわずかに遅れてしまった。
特に、このセキュリティエリアに入った後の襲撃の際、シャオを逃がすときに無理して動かし、軋みが出た脚部の動作が。
先ほどまでと同じように軸足に力を込めるも、間に合わない。
衝撃と共に、景色が一瞬にして変わった。
シャオ達とは反対方向へ吹き飛ばされたものの、幸い指輪との通信距離はまだ範囲内のようだった。
体制を立て直すため、傍で突き刺さっていた杭を掴み、それを支えに立ち上がろうとする。
しかし、力が入らず跪くような姿勢になる。いや、力が入らなかったのではない。
力が入らなかった自身の左足に視線を落とし、絶句する。脚部の衝撃吸収材が露出していたのだ。人間に例えるなら膝の軟骨部分に相当する。
ヴィハーンの左足は、膝から先がちぎれ飛び、無くなっていた。
片足だけでも立ち上がったが、そこに頭上から拘束杭が振り下ろされる。察知して避けようとしたが、地面に縫い留めるように胸部に突き刺さった。
使用済みの杭で機体の痙縮こそは起こらなかったものの、ダメージは深刻だ。
ヴィハーンは立ったままだらりと力が抜けた。機能が次々と落とされ、視界が真っ暗になる。
「―ィ――!」
誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。それを確認する間もなく、意識がプツンと落とされた。




