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23話 手を伸ばせない彼ら


 



 ヴィハーンは、自身への衝撃が最小限に収まるよう、最低限の動作で、次々と周辺に突き刺さった拘束機へ誘導する。

 捕食型もわかっているのか、その巨体を生かした動きが出来ず、満足に動けないようだった。

 

「あいつ、まさかヴィハーンか!」


 彼らにとっては数十年ぶりの再会だ。あの憎きデカブツが良いようにされているのを見て歓声を上げる。だが以前の記憶とは違い、酷く損傷した姿に思うところがあるのだろう。次々と彼に声を上げる。


「お前! 店長さんすっげー心配してたんだぞ!」

「ユゥイン殿に怒られろ! バーカ!」

 

 

 応援は一つもなかった。悪い人たちではないのだろう。口は悪いが根本は彼を心配している言葉ばかりだ。……時折ヴィハーンのほうから怒鳴り声が聞こえてくるが。

 ただ、そのうちの一体であるやけに耳が大きい狐頭のアンドロイドが、嫌な予感がするようで、相変わらず逃げるように叫んでいた。


「シツコいワネ! 静かにシナサいヨ!」

 

 繰り返し話しかけることもあり、ついにはミウナインが切れて怒鳴り返す。だが、そのアンドロイドはそわそわして落ち着かない。そうこうしていると、ついにガチンと音が鳴り、入り口を開くことが出来た。

 

「やッタ! 早く――」

「駄目だ! なんか来る!」


 彼が叫んでいたのは音を察知したからだった。ミウナインとシャオのはるか後方から、物凄い速さで向かってくる音が。それはセキュリティロボットの群れだった。

 先ほどは来ると確信が持てなかったから、言えなかった。

 音の響き方から数としては少ない。しかし、ヴィハーンに頼れない今、ここには戦える存在はいなかった。

 

 檻の中にいればセキュリティロボット達は手出ししないので、アンドロイドたちは檻から出なければいい。だが、ミウナインとシャオを、檻に入れるわけにはいかない。

 どうにかしようとも間に合わず、セキュリティロボット達が到着する。だが、アンドロイドたちは皆目を丸くした。


「……おれ初めて見たぞ。保護システムじゃねえか」

 

 今まで彼らが見たセキュリティロボット達は、皆が暴力的な機能ばかりで、彼らには逃げること以外のすべてが許されないまま、滅多打ちにされた。

 

 だが目の前にいるセキュリティロボットは、カラーリングだけは統一されているものの、暴力性の欠片も見当たらない。

 乗り物タイプ、お姉さん、お兄さんタイプ、動物の着ぐるみタイプなど、どこか優し気な雰囲気しかいない。


【こんにちは。あなたは楽園から、うっかり出てきちゃった旧人さんですね】

【外はこわかったよね。もう大丈夫。君みたいな子をおうちに帰すのが僕たちのお仕事だよ】


 顔があるタイプは笑顔のまま、一切顔が動かない。仮面のようだ。身振り手振りだけが柔らかく、少々不気味である。着ぐるみは謎に踊っていた。

 乗り物の入り口が開くと、内部はふわふわのクッションが敷き詰められている。

 

 檻の中のアンドロイドたちに彼らの正体を聞くと、あれらは決められたことを話し、決められた仕事をこなすだけの、自我を持たない作業用ロボットの一種だという事だった。

 

「こいつ等なんて言ってんだ?ギバーリンクモードでもねーし」


 ただし、目の前の会話はシャオにしか伝わらないらしい。

 彼らの言葉をアンドロイドたちに伝えると、困惑しながらも、丁度いいし、帰ったら?と言ったりする。


 シャオは目の前の乗り物を見る。そして故郷を出た時のことを思い出した。霧の中、橋が崩れていった時のことを。


「ねえ、どうやって帰るの?」

【大丈夫。怖い事なんてないよ!】


 シャオの疑問には答えず話す様子は、やはりどこかおかしい。ミウナインはシャオと初めて会った時のことを思い出したのか、声を上げて手をポンと叩く。

 

「そういえば、シャオチャンのところって、橋が壊れてるって言ってたわよね。あれに乗ったら、崖か川に、真っ逆さまに落ちるんじゃないかしら?」

「うげっ!」

 

 ミウナインの言葉に、シャオは顔を引きつらせる。要するに目の前の乗り物は故郷への帰り道ではなく、あの世への片道切符だ。気が付けば、ロボットはもう目の前にいた。


 少しずつ後ずさりしていると、ロボットが一瞬震え、別人になったように、かすかに重心が変わった。

 すると、怖がらせないようにか目線が同じ高さになるようにしゃがみこむ。

 そして、目の前のシャオにしか分からない言葉で小さく語り掛けた。


【……その献身が、必要なのです】


 突然、そこにいる『誰か』を感じさせる声に語り掛けられ、目を見開く。先ほどまでは動く人形だったのが、生きた人になったように見えた。


「きみ、だれ?」

 

 どこか誠実な印象を感じさせる声の主は、どうやら何かに困っているらしい。シャオの返事を待たず、質問にも答えず、ただ連れて行こうと腕を伸ばす。

 シャオが頑張れば解決できると、確信しているかのようだった。何もかも頼ってばかりの彼女に、できる事があると。


 だが、シャオは伸ばされた腕を押し返してさらに下がり、それを拒否する。

 相手からはどこか困惑したような気配を感じた。まるで拒否するとは思っていないようだった。


「い、行かない!」

 

 シャオがそう宣言すると、しばらく沈黙したのちに、確かにあったはずの誰かの気配が消え、再び無機質な気配になった。

 とはいえ、戻ったのではない。ここにやってきた時よりもどこか異様な雰囲気を出している。

 人形そのもののロボット達。着ぐるみも、二体の人型も、シャオのほうをじっと見たまま動かない。


「あー。お嬢ちゃん。俺さ、逃げたほうが良いと思うぜ」


 檻の中からアンドロイドが話しかける。だが、その忠告は間に合わなかった。

 乗り物から真っ赤なランプが飛び出て、けたたましくサイレンを鳴らす。

 あまりの大音量に、警戒して集音機能をマックスにしていた狐頭が気絶した。

 そしていつの間にか待機していた他のセキュリティロボットたちが一斉に出てきた。来たのは保護ロボットだけではなかったのだ。


「ミギャア!」

「うわああ!」


 ミウナインとシャオの悲鳴があたりに響く。彼女達に向かって集まったロボットが一、斉に襲い掛かったのだ。

 何とか攻撃をかわすも、次々と襲い掛かる相手に追い立てられ、止む負えずその場を離れてしまった。


「どうしよう、あとちょっとだったのに」


 何とか巻いて、隠れ潜んでは見つかることを繰り返す二人。手をつないで逃げているからだろうか。ミウナインへの攻撃の勢いが見るからに弱かった。


「アイツらもアイツラだワ!開いテルんダカラ、とっトト逃ゲなサイよネ!」

 

 ミウナインが思うのは檻が開いたはずなのに逃げ出さないアンドロイドたちの事だ。

 逃げている最中も様子を気にしていたが、一向に出る気配がない。

 そのことに怒りを示しているミウナインにシャオが気になることがあったのか話しかける。


「檻の中で、食べられる以外で酷い目にあったりはしないの?外から棒で突かれたりとか」


 そのことに対し、ミウナインはここ数か月観察していた様子を思い出し、そのような事はなかったと首を振る。

 そもそも罰としての無償奉仕の為だけに収容されているので、かつてあったと言われる囚人への暴行は存在しない。そんなことは無駄でしかない。

 そのことを伝えると、シャオはそれが理由かもしれないと呟いた。


「多分だけど、出るのが怖いんだよ」


 檻の中にいたアンドロイドは、自分たちにかまわず逃げるよう言っていた。確かに、彼らはミウナインの事を一番に考えていた。しかし、同時に出るのを嫌がっているようにも見えたのだ。

 あんなにもクセのある彼らが、檻から逃げ出そうとしなかったとは全く思えない。

 繰り返し抜け出しては痛い目にあったのではないかと、シャオは推測した。


「じゃあ、何?どうすればいいの?……アタチ、ワカンナイ」


 このまま耐えていても、時間が経過する程それだけ不利になる。どうすればいいのか何もわからぬまま、二人は逃げ回っていた。

 それでも二人は、何とかなると思っていた。なぜならとても強く頼りになるヴィハーンがいるから。

 そして再び檻の付近に戻ってきた時、空から何かが降ってきた。

 それは一本の足だった。


 ――誰の?


 嫌な予感がして一人戦っていたはずのヴィハーンのほうを見る。

 そこには足を失い、杭を支えに跪くようになっているヴィハーン。と、彼の目の前に立ちふさがった捕食型。

 その真っ赤な名巨体が、こちらをじっと見ていた。

 




 

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