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22話 救出作戦無し、開始

 

 ミウナインを発見する前。


 ヴィハーンは合流後、ここからは時間が勝負だと、シャオを担いだまま行動した。

 ヴィハーンは動きが速い上に、道行くセキュリティロボットに見つからないよう、または警報が鳴る前に、即座に破壊していた。

 そうやって彼が酷く無茶な動きをしたので、シャオはだいぶ酔っていた。


「大丈夫か」

「うっぷ……。今すぐは大丈夫じゃないけど、大丈夫。歩きながらでも治る程度だよ」

 

 先ほどまで担がれていたシャオは、今は手ぶらで歩いている。

 その代わり、ヴィハーンはセキュリティロボットがそこら中に打ち込んでいた、拘束用の杭をいくつか拝借し、担いでいた。

 使い捨ての拘束機は、本来なら清掃ロボットが回収するが、今となっては清掃ロボットが動いている形跡はない。

 ゆえに、回収されることなく放置されている。街の景観は、損なわれるが、そのおかげで確保することが出来た。


「まずはミウナインだ。あいつの持つステルス機能は役に立つ。破壊される前に確保したい」


 暴れまわっているロボットは、全身真っ赤で、とても分かりやすい。と、その時、様子が変わる。

 周囲の建物を一つずつ破壊して調べだしたのだ。恐らく、あの辺りにミウナインが潜んでいる。


 二人は合図もなく、同時に駆けだす。

 ヴィハーンのほうが、当然速度が早い。そうして、ある程度先に行ったところで杭を構え、投擲したところで、シャオが追いつく。それを繰り返すことで、距離を縮めながら、攻撃をしていた。

 四本中三本が成功し、機体が一時的に固まったのを確認。ミウナインがいる場所に、辿り着くことが出来た。


 「ミウのバカ! ……なんか、こう、バカ!」

 「叱咤は後にしろ。ミウナイン、その様子だとまだ動けるな。来い」


 そう言うと、シャオを担いで、ヴィハーンは走り去ってしまった。あまりの急展開に、呆然とする間もない。慌てて機体を起こし、そのあとを追いかけていく。

 

「チョ、待っテ、待ってっテバー!」


 そのやり取りに、真っ赤な巨体はずっと頭部を向けていた。そして三人が去った後、少しして機体のこわばりが徐々に回復したのか、ゆっくりと動き出す。

 先ほどまでの立ち回りとは違い、とても遅く、引っかかりながら歩く姿は、その負傷具合が見てとれる。

 その機体が向かう先は、アンドロイドたちが詰め込まれた檻のある広場。もとい、餌場であった。





 周囲のセキュリティロボットを排除しながら、しばらく走った先。休憩がてらミウナインの背中と、ヴィハーンの細かな不調の、応急処置をしていた。

 シャオのカバンには、ソーイングセットが入っていた。本来の用途とは違うが、シャオが触った感じでは、中々に強度の強い糸だったので、ミウナインの背中を縫い合わせるのに使っていた。

 ぶにぶにした素材は、ゴムのように少し柔らかい。そして、ほんのりと熱を持っている。

 それはくっつけていれば時間とともに塞がるが、そんなことは知らないシャオは、きっちりと縫い込む。

 

 ミウナインは、不思議そうにシャオを見ていた。彼女はシャオを逃がすために暴れたことが、あの時にできた、最善だと思っている。

 なので、なぜ少女が怒っているのかが理解できない。そのことを聞くと、シャオは少しだけ不機嫌そうに答えた。

 

「代わりに怒られるの嫌だもん。あと、悲しむよ。それもすっごく。まだ会って少しだけど、インが優しいの、私もわかるよ」


 そういわれると、ミウナインとしても思うところがあったのか、ふわふわの毛も、萎れたように落ち込んでいた。

 そんな二人の関係に興味もなく。ヴィハーンは話しかける。


「ミウナイン、お前はどの程度動ける」

「問題ナいワ。怪我をシタのだっテ、これが初メテよ」

 

 応急的な点検と自己修理を終え、状況確認に入る。ミウナインは顔を上げると、何か期待するように、策はあるのか、と問いかける。彼女から見てエリアルールを凌駕したヴィハーンは、まさにヒーローのようだった。

 だがヴィハーンは頭を振って否定する。

 

「無い。だが、俺があの赤い奴をどうにかする。……長くは持たないが。お前はその間に檻を壊せ」


 事実、今できる事はそれしかない。本来ならば、それさえも出来なかったのだ。策も何もなくとも、イノシシのように突撃できるだけ上々だ。

 行くぞ、と声をかけ、あの広場に向かう。目指すはあの檻、そしてその中身を貪ろうとしている、あの赤い異常個体だけだ。

 



 

 


 広場では檻の中のアンドロイドたちが必死になって、檻の蓋を開けられまいと抵抗していた。

 こまめにミウナインが檻に投げ込んでくる、いわゆる生贄用の機体を差し出したのだが今日は要求する機体の数が多く、ついに尽きたのだ。

 手足を差し出したアンドロイドや、数か月の抵抗で調子が悪くなり、手足が使えなくなった機体も多く、どうにも旗色が悪い。


 彼らは最初こそ、自身の手足でも差し出していれば、無償奉仕の期間もそのうち終わり、解放されると思っていた。

 そして、その考えはすぐに改めた。

 自分達より前に捕まったであろう、いくつもの檻のアンドロイドたちが、次々と捕食されるのを目にしたからだった。

 わかりやすく言うなら、ポテチの袋に手を無造作に入れて食べるように。


 さすがに異常だと気が付き、全員で協力して抵抗し、なんとかやり過ごしていたが、とうとう残った檻は自分達だけになってしまった。


「うおおおお! やっばいなこれ! 今日のディナーは俺たちってか!」

「ディナーじゃなくておやつだろ! 普段4本足のくせに、おやつ食う時だけ二本足なのおかしいだろ! だらしねえぞデカブツ!」


 今現在、檻の中は最初の頃よりも機体を損傷し、思うように動かせなくなったアンドロイドばかりだ。

 このように拮抗出来ている理由は、先ほどこの赤い巨体に対し、ヴィハーンのつけた損傷が原因だった。

 刺さった杭が、重量物を持ち上げる時に使われるワイヤーの、一部断裂につながったのだ。それに伴い、引っ張る動作に力が籠められなくなった。

 とはいえ、この抵抗も時間の問題である。彼ら以外の生き残りのアンドロイドはもう存在しない。この空腹に苛まれている怪獣は、開けられなかったからと言って他の檻に行くことはもうないのだ。

 それを察しているアンドロイド達も抵抗はするが、どこか諦めたような雰囲気が徐々に出てきていた。

 

 そのとき。一匹の猫が、まるで重力を感じさせない動きで、檻に飛び乗ってきた。


「ソンナ物に執着スルナんテ、ジャンクばかり食べルカラ、コアに不具合ガ起キたんじゃナイ?」


 ミウナインだ。まるで挑発するように座っていた。蓋を引っ張っていた手が彼女に伸びるが、捕まる前に隙間からするりと抜け出す。その様は、まるで動く液体のようだった。

 はたから見れば、まるで手遊びのような鬼ごっこだ。

 それも彼女が檻の上で足を滑らせたのか、宙に身を投げたことで終わりを告げる。


「ミウナイン!」


 トカゲのような顔のアンドロイドが悲鳴のように名前を叫ぶ。

 赤い巨体から落としかけたお菓子を空中で掴むように腕が伸ばされる。しかし、その腕が届くことはなかった。

 どこからともなく、杭が撃ち込まれる。伸ばしていた腕、檻を掴んでいた腕。それらをまとめて縫い留めるように突き刺さったのだ。

 手から檻が取りこぼされ、地面に落下する。

 落下した檻の横では、ミウナインが手をひらひらと振っていた。実は、彼女はわざと身を投げたのだ。

 

「ミウナイン、無事か? 怪我はないか。もういいんだ、俺たちは。頼むからユゥイン嬢を一人にさせるな。お前だけでも傍にいてやってくれ」


 歪んだヤカンの様な頭のアンドロイドが懇願する。それを受けても、ミウナインは鼻で笑うだけだった。

 檻の蓋。もとい、出入り口の電子錠は既に機能していない。しかし、落下の衝撃で歪んでしまったのか、手を掛けるもびくともしなかった。

 アンドロイドとしては非力なタイプの彼女では、素手で歪みを直すことは出来ない。

 内部のアンドロイド達も一緒になって開けようとする。

 しかし、この出入り口付近に固まったアンドロイドは運の悪いことに、手足が破損している機体ばかりで、中々作業が進まなかった。

 

「ふぐぐぐぐ……!かったいわねえ、どんな素材で作られてるのよ」

「ミウ、この棒使う?」

「良いわね。気が利くじゃない」


 シャオから差し出された拘束機を受け取り、てこの原理で入り口をこじ開けていく。

 アンドロイド達は突然現れたシャオに対し、一斉に目を向け観察を始める。そしてその結果判明した、本来あり得ない存在に対し、徐々に騒めきが広がっていく。


「あー。……そこの黒髪の、三つ編みが素敵なお嬢さん?」

「こんにちは。私はシャオだよ」


 シャオはにこにこ笑いながら、帽子をちょっと上げて挨拶する。それを受けた全身モップの様なアンドロイドはたじたじとしつつ、あいさつを返した。

 仲間同士での荒っぽい言葉の名残さえも見えないほど、優しげな声だ。

 

「ア、ウン。こんにちはぁ。そうなのー、シャオちゃんって言うのかー。僕はゲペレペンゲっていうんだー」

「君、急にどうした? 素直にキショイぞ?」


 真横の仮面のような顔のアンドロイドが、ドン引きして少しでも距離を置こうと、無理に反対側に詰める。それによって場所が狭くなった他のアンドロイドが、切れて頭突きをし、また檻の中で喧嘩が起きた。

 その間もあたりでは轟音が響き続けている。

 そのことに疑問を持ったアンドロイドが、「そういえば……」と、周囲を見回した。

 彼らが目にしたのは、いつの間にか地面や壁などに、大量の杭がそこら中に突き刺さった景色だった。その中心では、自分たちを捕食しようとしたロボットが、暴力によって打ちのめされていく。

 

 そしてそこにいたのは、次々と棒を刺し、投げ撃つ、戦闘用アンドロイドのヴィハーンだった。




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