17話 消えた理由
物陰から物陰へと、身を潜めるように進む。
ミウナインの案内の元、彼らが侵入したというデッドラインの穴に向かった。
「そもそもアンタ、こんなとこに一人で来るなんて何考えてるのよ。ここに旧人の役に立つようなものなんて一個もないのよ? 危ないじゃない」
「一人じゃないよ。今ははぐれちゃったけど、二人で来たんだ。部品とかパーツとかがどうしても欲しくてさ」
ユゥインからもらったカバンを抱えて中を覗き込む。相変わらず小道具以外には道中拾ったメタルシリーズが数体詰め込まれているだけだ。
ミウナインもカバンを覗き込むが、部品というにはあまりにも貧相なラインナップに「なニ、コレ?」と呟いている。
「使えないものばかりなのに、収集癖でも持ってるの? 変な子ね」
もはや部品とも認識してないようで、小石やドングリを集めている子供を見ているかのような目だった。
その視線に気が付かないシャオはカバンからメタルカブトムシを取り出すと自慢げに掲げて見せびらかす。その瞬間銀色の光が走った。
「トンビ!? なんで!」
銀色の鳥。恐らくあれもメタルシリーズの一種なのだろう。シャオの手からカブトムシを攫うとそのまま遥か遠くのほうまで飛んで行ってしまった。
「せっかく拾ったのに……」
「あんなのどこにでも転がってるわよ。もっといいのをお宝にしなさいよね」
ミウナインの言葉にシャオは「ちがうよ」と返事をした。カバンの紐を調整してリュックのようにして背負い、腰に手を当てふんぞりかえる。
「今お世話になっているところにあげたり、相棒の怪我を直したりしたいんだ!」
「正直言っテ怪しいワ。今さラ旧人を欲しガル人たちなんテいないノニ。いっそハグレたなラ好都合だワ。出口までは送ってあげルけど、戻らないほうガ良いワヨ。何されルか分かったもんじゃナイし。今五体満足なノが奇跡ネ」
「えぇ〜。インもヴィーも、そんな人じゃないよ」
「聞キナれなイ名前ネ、絶対そいツら流れ者ヨ」
その時、轟音が鳴り響いた。
「あっ……まタ……」
ミウナインの体が強張り、全身が細かく震え始める。先ほどまでの勝気な態度は一変。ひどく怯えていた。
シャオはその様子に気が付くことなく、音の発生源のほうへすぐに駆け出して行った。
「何かすごいのが近くにあるかもー!」
走り出してしまったシャオに腕を伸ばすも、すでにその場にはおらず。
「ま、待ちなさい!そ、そっちは……!」
ミウナインは、出会った時のようにうずくまってしまった。
不思議と、此処周辺にはセキュリティロボットはいないようだった。だが誰かの大声も響いてきたことから、誰かがいることは確実である。
「ヴィーかと思ったけど、それにしては騒がしい感じだし。違うのかなあ」
そう呟きながらも、音の発生源のほうへ周囲に気を付けながら移動する。崩れかけの大きな壁から顔を覗かせて見えた光景は、とんでもないものだった。
そこには大きな広場が広がっていた。元は公園だったのであろう、ブランコや滑り台などの遊具ががぐしゃぐしゃになって隅のほうに除けられている。地面には多くの砂が積もっていた。
そして何よりも目を引いたのは、遊具の代わりに広場の中心を陣取っている巨大ロボットだった。建物のように巨大な機体は、全身が真っ赤な外殻でおおわれ、天辺には赤いランプがついている。
こちらには背を向け、向こう側にある檻の、その複数ある入口を開けようとしていた。中々開かないのか、時折檻ごと振ってはまた手をかけている。
また、中にはアンドロイドたちがぎゅうぎゅうに詰め込まれており、必死になって蓋を引っ張り、開かないようにしていた。
「今日はそっちから蓋開けんのかよデカブツ! 賭けに負けちまったじゃねーか!」
「こっちそろそろ開けられるぞ! 早く生贄持ってこい!」
「キショイ言い方すんじゃねー!」
内部では様々なアンドロイドたちが動かない機体をバケツリレーのごとく手渡ししている。だがいかんせん、ぎゅうぎゅうで中々うまく渡せないようだった。
「やばいやばいやばい!!」
「もうだめだ!」
――ガッゴン
しばらくの格闘の後、蓋がついに開けられた。引っ張り続けていたアンドロイドのうち、四人が手を離し損ねて一緒に持ち上げられる。
「「「わあああー!!」」」
よく見れば離し損ねたのではない。関節部分が千切れかけだ。彼らの手は掴んだまま動かなくなり、離せなくなったのだ。
「四人か。なんか縁起悪い数だな。増やすか」
「言ってる場合か! って、テメエー! んのクソイカがぁー!」
「俺はタコだ! 間違えるな!」
持ち上げられたアンドロイドのうち一体が、複数本ある渦のように丸まっていた腕を伸ばし、檻の中の三人ほどにしがみつく。罵声と共に空中のアンドロイドが7人に増えた。
「俺が最初の犠牲者になるのはヤダー!」
「マ、何事も誰かは最初になるもんだ。諦めろ」
「俺が嫌なんだよ!」
どう見ても危機的な状況にもかかわらずぶら下がりながら言い合いをしている様はコメディのようだ。その時。
ガシャン、ガシャン
どこからともなく二体の動かない機体が投げ込まれた。巨大ロボットはそちらに頭部を向けるとアンドロイドごと蓋を戻し、元あった場所に投げ捨てると、投げ込まれた機体とその周囲を確認する。
「またミウナインか!?」
「バカ猫が! お前だけで逃げろっつってんだろ!」
「いつもいつも、時間稼ぎにしかならねえのに! 見つかったらおしまいなんだぞ!」
檻の中のアンドロイドたちは口々にミウナインの名を叫ぶ。そのどれもが逃げるように言っていた。
(ミウの知り合いのアンドロイドたちなんだ。という事はもしかして)
離れる前のヴィハーンの言葉を思い出す。
『ろくでなし共』
そのまま除いて様子を見ていると、後ろから小声で話しかけられる。ミウナインだ。
「……ネエ」
「ミウ。……ずっと、一人で頑張ってたの?」
それに返事はせず、どこか縋り付くようにシャオの服を掴む。
「アンタ、二人で来タっテ言っテたワネ。もウ一人のアンドロイドが入れタノって、シャオチャンのおかげナノ? 旧人の特権?」
そういうとくしゃりと泣きそうな顔をした。
「モしソうなラ、お願い、みンナを助けテ」
シャオはうずくまるミウナインの背中を摩り、支えるように寄り添っていた。
しばらくすると落ち着いたのか、ポツポツとミウナイン側の経緯を話した。
「部品がどこに行ってもなくて、機体に不調が出る人も出てきたのよ。でもね、ある日デッドラインに穴が空いてるのを見つけたから」
『俺は行くぞ。まだ十分に動けるうちに行かねえと。このままじゃジリ貧だからな』
『アタチも行くワ。ユゥインさんにお礼しタいモノ!』
『そんじゃみんなで行くかー。ユゥインさんにはどう言おう』
『はーん。そんなの決まってらあ……』
涙こそ出ていないが、それでも確かに泣いているミウナイン。事態の解決ができず、かと言ってそのまま帰ることもできず、ただ苦しんでいた。
「ユゥインさんに悪い事しちゃったわ。部品を沢山集めてびっくりさせようと思って、みんなで何も言わずに此処に侵入したの。きっと怒ってるわ。こんな時にヴィハーンさんがいてくれたら……」
だがシャオは今の彼女の言葉に聞き覚えのある名が出たことに反応した。
「あ、インとヴィーはその二人のあだ名だよ。呼びやすくしたんだ。ミウとお揃いだよ!」
「……ハ、ハアァ!? シャオチャン、説明!」
予想外の発言に、ミウナインは顔をクワッとさせて顔を近づける。まるでカツアゲの現場のようだ。
「わ、すごい顔してる。本当に猫だ……。それで、二人に会った時の事だよね……」
シャオがヴィハーンと出会ってからユゥインと出会い、そしてはぐれるまでの事を身振り手振りにパントマイムを披露して伝えていると、ミウナインがどこか沈痛な、疲れたような表情になった。
「大体わかったわ。あんたの説明がへたっぴって事が。生きてて偉いわネ。……ミウってあだ名も、アンタには許してあげる」
「本当? やったぁ!」
「アンタのノータリン具合はどうしようもないケド。そんな事より、今はヴィハーンさんがここに来てくれているって事?」
希望を持ったように目をキラキラさせるミウナイン。
「うん。ヴィーの怪我が酷いから、それを直すためにここに来たの」
「えっ、ヴィハーンさんが? どのくらい酷いの?」
「確か、本格的な戦闘は出来ない、みたいな。初めて会ったとき、頭も体もたくさん穴が空いてたし、インがある程度塞いでくれたけど、それでもだいぶ弱ってるみたい。部品が無いんだって」
「そんな……」
また破壊音が聞こえる。
「あ、今度こそヴィーの音だよ! さっき沢山のセキュリティロボットに追いかけられた時に、先に逃がしてもらったの。その時にヴィーは戦っててね。今もああやって動きながら戦ってるんだ」
「……! ソレは無理ヨ。だっテここのエリアルールでみんな捕まっタンだカラ。 逆らえないのよ」
焦ったように、希望が無くなったかのようにぺたりと座り込むミウナイン。
「ここのエリアルールは、【一切の暴力行為の禁止】なんだから!」




