写経:10
例によって「写経」――好きな童話を書き写し&カウントサイトで文字数確認。
あわせて、書き写しながら感じたあらためての所感など……。
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・安房直子「湯の花」
文字数 5702 文字
改行除く 5581 文字
改行・空白除く 5507 文字
原稿用紙 17 枚
六話連作『花豆の煮えるまで』中の一篇。
アスファルトとか出てくるので近現代ですが、山間の温泉宿を舞台にすることで遠野物語的なフォークロアの世界と地続きにすることに成功しています。
主人公の小夜は山姥(の娘)と人間のハーフ。その他、各エピソードごとに、木の精やら鬼の子どもやら火の精やら、狐狸妖怪のたぐいが登場。この「湯の花」の場合は、天狗ですが……
ただ、天狗って、昔話だとコミカルなイメージも強くて、顔が赤くて鼻が長くて山伏装束で~というのをそのまま登場させてしまうと、神秘性とかいろいろ失われやすそうかもしれません。そこで――と著者が思ったのかどうかはわかりませんが――本作の場合、「日本昔話」ではなくそれこそ「遠野物語」的なフォークロアを援用することで、天狗本体は直接すがたをあらわさない展開にうまいこともっていってあります。
山中で木を切り倒す音がする。が、行ってみると伐られた木など一本もない。あれは天狗の仕業だ……などという話は、「遠野物語」その他にいくつも収録されていますね。本作の場合、それをさらに拡張して、木を伐るだけでなく普請するところまで行っています。そして、その建物のなかに入ると~と……小夜が山姥との混血という設定のおかげで、違和感なく民話的世界に入りこんでいけます。
神秘的な雰囲気をくずすことなく、近所のおじいさんの死というシリアスなイベントを、ものがなしくもやさしく描き出す……これはもしかして傑作というやつではなかろーか、などと思ったりするわけです。
5702文字、ちょうどわかりやすい「節目」的な長さですね。
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・アリソン・アトリー「木こりの娘」
文字数 17356 文字
改行除く 17215 文字
改行・空白除く 17137 文字
原稿用紙 47 枚
山姥というのは動物ではないですが人間でもない。という意味では、『花豆の煮えるまで』の小夜の両親というのは、異類婚といっていえないことはないかもしれませんが……
アリソン・アトリーの本作は、どうでしょうね?
お相手は「熊にされた人間」ですから、あくまで河合隼雄さんのいう「魔法昔話」であって、ここのところ考えてきたように、ほんとうの意味で「異類」と結婚するわけではないともいえます。
が、その一方で、「かえるの王さま」をはじめとするグリム童話のように、異類の姿である間は毛嫌いしていたのに人間のすがたにもどったとたん「抱いて!」のてのひら返し――というわけではなく、本作の場合、熊のすがたの時点で(正体が人間とわかる以前に)ヒロインが恋愛感情を抱いてしまうという、「美女と野獣」展開。
――――(引用ここから)――――
「冬がくれば、あたしのクマに会えるんだわ」と、チェリーは思いました。「会えたら、どんなにうれしいか。あのクマがいなくて、あたしはさびしい。クマが炉のなかから出てきて、あたしのそばに横になったとき、ほんとにしあわせだった! 動物を心の底から愛するなんてこと、できるものなのかしら?」
――――(引用ここまで)――――
しかもそのうえ、この熊というのが、すがたを変えられてしまったのがもう何百年も前。城もすっかり廃墟になるくらいの時間がたっているわけで……
いまさらそんな「人間」が復活したところで、すなおに現世の人間といえるのか? もう半分は異類みたいなものではないか、という気がしないでもありません。
――――(引用ここから)――――
「このすべてが、何百年ものむかしに破壊されたのだ」と、クマの男はいいました。「敵が城壁を破って押し入り、それをだれにも知らせぬよう、わたしに魔法をかけた。一夜にしてあらゆるものが消え、城を記憶している者もなくなった。わたしは炎に投げこまれ、ひとりの娘が救いだしてくれるまで、捕えられていることになったのだ。
――――(引用ここまで)――――
アトリーにはほかにも異類というか、異界の住人との婚姻譚が複数あって、かならずしも正体が「人間」でなければならないというグリム的な縛りは感じさせません。
幼いころから<ものたち>と交歓してきた「スーザン」の面目というか……
無意識の「検閲」だの、チンケな比較ブンカ論だの、どーでもよくなる、ハッピーエンドの「異類婚姻譚」。
同じくアトリーでも、他の作品の場合、本人たちは幸福だが残された家族は~というビタースウィートエンドもありますが、本作の場合、家族も城に招こう、とかいっちゃってますから、すなおに完全無欠のハッピーエンド……でいいのかしら?
まあ、何世紀も前のお城というのも、異界みたいなものなので、そこに招かれるのがどういう意味か、深く考えると、一抹のコワさもないではないかもですがw
そこまで考えることもないかしらん?
アトリーにおける、異界やその住人、なかんずく『時の旅人』的な「過去」との親和性などを考えると、なおさら…ですね。
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・安房直子「熊の火」
文字数 14169 文字
改行除く 13889 文字
改行・空白除く 13717 文字
原稿用紙 42 枚
こちらも熊ですが……
人間の青年が、熊の楽園にまねかれて、熊になって、熊のおよめさんをもらう話。しかし、ちょっと魔がさして、一瞬だけこちらの世界に戻ってきたら、もう二度と楽園には帰れない――異類婚姻譚というか異界訪問譚というか、鶴女房を男女逆転させたような展開。
異界の住人と、一時的に交流したとしても、最後は、やはり「住む世界が違う」なエンディング。定番といえば定番ですが、アトリーのハッピーエンドを見たあとでは、やっぱりまたぞろ比較してみたくなるというか、対照的。
およめさんのたどった楽園への道が曼珠沙華にいろどられるイメージは、美しいと同時に、いやがうえにも、喪失感をきわだたせます。
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以上、今回は三篇。
以前はそうでもなかったのに、最近、あらためてアリソン・アトリーにはまりつつあり……特にお気に入りは『農場にくらして』ですが、さすがにあれは長すぎるので、他の短編をいくつか「写経」してみたいな~などと思ってもいる今日この頃。
あー、でも、『農場~』も月夜の一章だけとかならイケるか??
予定は未定ですわ。




