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第五章 ⑧

「? ああ、カノンさん」


後ろから名前を呼ばれて振り返れば、そこにいたのは私服姿のカノンだった。


「奇遇ですね、こんなところで会うなんて。何か用事ですか?」


「用事っていうか、息抜きかな。最近色々忙しかったからってことで……。カノンさんは?」


「母におつかいを頼まれちゃって、その帰りです」


手に持ったスーパーの袋を掲げてみせるカノン。


「家が近所なので良く通るんですよ、今の季節は歩いてて気持ちいいですし。ルーミックさんはお一人で?」


「いや、もう一人、パートナーと来てるんだけど」


「ごめんごめん、ゴミ箱がなかなか見つからなくて……ん?」


タイミングよく戻って来たエイリスの目がカノンを捉えて。同時に、カノンもエイリスを見つけた。


二人の目が合う。


「…………」


誰、と問いたげにエイリスの視線はルーミックにシフトして……それに答える前に、


「エイリスさんですよね!?」


興奮のせいか声は大きく。前のめり気味に、カノンがエイリスとの距離を詰めた。


「そうだけど……私のこと知ってるの?」


「もちろんですよ! 一年生で知らない人なんていませんもんっ。お会いできて感激です! ルーミックさんのパートナーってエイリスさんだったんですかぁ。わぁ~、スゴいペアですね!」


「あ、ありがとう……。えっと――」


「カノンです! カノン・ラプス。入学式のときにルーミックさんに助けていただいてっ」


「ああ、あのときの……」


エイリスが思い出したのはもちろん入学式のことではなくて、ルーミックのランク戦が終わったときのこと。あのとき後ろから見ていた彼女からはカノンの顔までははっきりと見えていなかった。


――なるほど。


何がなるほどなのか自分でもよくわかないけれど。何かに頷く。


「新入生代表の挨拶なんかも見てて、カッコいいなぁって思ってたんですけど、ウワサに聞いていたのと印象が違うんですね」


「たしかに学園で他の人と話すときと全然違うもんな。俺も、初めて会った日にいきなり口調が変わって驚いたし」


「それはあなたが挑発するようなこと言ったからでしょうが。……まぁ、意図的に話し方を変えてるのは事実だけど……。幻滅した?」


「い、いえ、そんな!」


慌てた様子で、カノンは胸の前で両手をブンブンと振って見せる。


「幻滅だなんて……。すごく親しみやすそうな人で、安心しました」


「そう。私も良かったわ。あなたと友達になれそうで」


「友達、ですか?」


「え、嫌なの……?」


「滅相もないです! 私からもお願いしたいです、お友達になってください!」


「うん、これからよろしく。私のことはエイリスでいいから。私もカノン、って呼ぶし」


「よろしくお願いします、エイリスさん! あ、いえ、エ、エイリス……」


 エイリスに笑いかけられて、感動か感激か、わぁ~と息を漏らすカノン。


 ルーミックは自分のときよりも大げさな反応に少しだけ嫉妬のような感情を抱きつつ。


 やり取りは二言三言。生ものを買ってしまったからと名残惜しそうに帰って行くカノンの背中を見送って、残された二人はこれからどうするか。


 このままもう一度のんびりという気分でもなくなってしまった。隣を向けば、エイリスも似たような気持ちのようで。


「ちょっと歩くか」


「そうね」


おあつらえ向きに遊歩道まであるのだから、これを使わない手はない。


荷物が邪魔といえば邪魔だが、夏用なので量の割にはかさばらなくて持ちやすいため許容範囲内。


舗装されたコースは両脇の木々の影になっていてやや暗く、気温も低めだ。


ウォーキングやジョギング中の人ともすれ違いながら歩調を落としてゆっくりと。


花に覆われた所、丘のように盛り上がっている所、池にはカモのような鳥が泳いでいたり。


コースはこの公園を一周する形で作られているため、区画をまたぐ度に景色がガラリと変化して面白い。


「んー、たまにはこういうのもいいわね。いつもは走ってばっかりだし」


「かもな」


大きく伸びをしながら歩くエイリスに同意しながら、ルーミックもあくびを一つ。


看板には一周二キロほどと書いてあったけれど、普段の十分の一だ。走ってしまえば五分もかからない。


しかし、こうして歩いてみると結構長く感じるのはどういうわけなのか。


――でも、こういうのもたまには悪くないかな。


 のんびりと雰囲気を楽しむなんてのは一人ではなかなかしないこと。どうせならこの機会を目一杯満喫すべきだ。


二人の間に口数は少なく。しかし、その中にはたしかに穏やかな空気が流れていた。



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