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第五章⑦

***

「つ、疲れた……」

ようやく買い物を終えた頃には精根尽きかけた男が一人。

「情けないわねぇ。私より体力あるのにどうしてそんなに疲れてるのよ」

「体力って言うかむしろ気疲れだな、これは」

エイリスがなかなか妥協を許さなかったため、同じところを何度も行ったり来たりと。その度に着替えさせられて……実際にそういう目で見られたわけではないけれど、店員も「またか」と思っているんだろう。いらっしゃいませと声を掛けられるのがつらかった。「……まぁ申し訳ないとは思ってるけど……。その分ちゃんと決まったんだから」

「それは感謝してるよ。だから、文句はないんだけど」

文句はないけど、疲れたものは疲れた。ショーウィンドウに映るルーミックの手には、買ったばかりを服と、さっきまで着ていた制服が入った袋。どうせなら、ということで数着買った中からその場で来ていくことにしたのだ。

「そこまで言うなら一休みしましょうか。実は、前から行ってみたかったところがあるのよね」

陽気な足取りでクネクネと角を曲がって歩くこと五分少々。

辿りついたのは一見普通の喫茶店だった。外装には、エイリスが引きつけられそうな変わった点は見当たらない。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

ウエイトレスに案内されて席に座る。見回せば客はまばらに。全体的に落ち着いた雰囲気だが、中に入ってもやっぱり特にこれといって……

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「私はこれで」

さして迷うこともなくメニューを指さすエイリス。ルーミックは少し悩んで無難にランチセットを頼み、待つことしばし。

テーブルに置かれた品に、エイリスは子どものように瞳を輝かせていた。逆円錐の細長いグラスに敷き詰められたアイスや、とりどりのフルーツ。スポンジや生クリームが所狭しと層を作っており、極めつけはどうして零れないのか不思議な程グラスからはみ出して盛られているイチゴと、一際飛び出したチョコレートスティック。

「それが昼飯……?」

信じられない、と対面の巨大なパフェに若干引き気味にルーミックが尋ねる。

「そうよ。前から気になってたんだけど、なかなか機会がなくて」

『一人で喫茶店』は大丈夫でも、『一人で喫茶店でパフェ』となると、条件が一つ追加されただけなのにハードルはグンと上がって、いくらエイリスが女子であっても頼むのも億劫だったのだ。だが、今日は二人なのでそんなことは気にせず食べられる。

いくら店そのものを見てもわからないのも当然だ。彼女の目的はメニューにあったのだから。

「ん~、おいしい~」

一口頬張って感嘆の声。

「生クリームの甘さとイチゴのほのかな酸味が合わさって絶妙な――」

「いきなり食レポ!?」

「ルーミックも食べる?」

「今はいいよ。どうせならデザートに食べたいし」

「その頃にはなくなってるわよ」

ただの冗談だと思っていたのだが、宣言通り、ルーミックが自分の料理を食べ終えた時には、すでにグラスは空っぽで。底や側面に溶けたアイスが張り付いているだけの状態になっていた。

「すげぇ……」

「ん、十分休憩したことだし、次はどこに行きましょうか」

「そうだなぁ……」

このあたりになにがあるのかなんて知らないルーミックだ。具体的な場所を挙げろと言われても浮かびはしない。

 服を買うという目的も早々に果されて、あとはもうこれといって。少し悩んでひねり出したのは、

「人ばっかりで疲れたし、のんびりできるところに行きたいな」

「のんびりねー……この辺りだとどこがあったかな」

そんなわけで、会計を済ませた二人が向かったのは人の密度が低い開けた場所。遊歩道や広場もある、かなり大きめの公園だ。

幾つかの区画に賭けられており、二人がやってきたのは遊具なども置かれている遊び場になっている区画。

足元に敷き詰められた芝生と、三百六十度を囲む緑。寝転がってしまいたい衝動に駆られながらも脇のベンチに座り込んだ。

エイリスはここに来る途中に買ったクレープを頬張って幸せそうに頬を緩め、それを見たルーミックがげんなりした様子で呟く。

「よくそんなに甘いものばっか食べられるな……」

「甘いものは別腹なのよ」

さっきから別腹ばかり使ってるような気がするけど……。ルーミックも甘いものは嫌いではないが、一気にだと胸やけとまではいかないものの、飽きが来てしまう。

「じゃあ私、このゴミ捨ててくるわ」

さくっとクレープを食べ終えて、エイリスがゴミ箱を探すために立ち上がった。わざわざついていく必要もあるまい。

一人になったルーミックは目を閉じて、背中をベンチに預ける。のどかな日差しに、あちこちから子供の叫び声。気を抜くと眠ってしまいそうな、そんな暖かさ。

どれだけの時間そうしていただろうか。

「遅いな……」

若干うとうと気味の瞼を上げて時計を確認。たかだかゴミを捨てに行くくらい、そんなに時間もかからなさそうなのに。

「また連れ去られたんじゃないだろうな……」

さすがにそれは冗談として。今探しに行っても入れ違いになってしまう可能性もある。とりあえずデバイスで電話してみようかと思っていると――

「こんにちは、ルーミックさん」

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