第5章 ⑥
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メールで伝えられた待ち合わせ場所は学園からほど近い駅の構内。ルーミックとしては道に迷う可能性を考慮して寮から一緒に行きたかったところだったのだが、それでは味気ないとエイリスに一蹴されてしまった。
とはいえ前に一度通ったばかりなのでその心配も杞憂に終わり、無事に駅へ到着。大きな柱時計のある広場へと歩きながらデバイスで時刻を確認すると、午前九時四十五分。待ち合わせは十時ジャストなので、きっちり十五分前行動だ。
柱にもたれかかってエイリスを待とうとした彼の肩が、やや乱雑に叩かれた。
「遅い」
「まだ時間にもなってないんですけど……」
一体いつから? てっきりまだ来ていないと思ってロクに探しもしていなかったのだが、案外近くに居たらしい。
「私がどれだけ待ったと思ってるのよ」
「どれだけ?」
「一時間」
それはちょっと早すぎるのでは。いっそ待ち合わせを九時に設定しておけばよかったのにと思わないでもないけれど、それだと八時に来てしまうのだろう。それくらいわかる程度にはエイリスのことを理解している。
「というか、ルーミックはどうして制服なのよ」
「服がないから……一番まともなのがこれなんだよ」
元々そんなに種類を持っているわけでもなかったのに、学園に来るときにほとんど置いてきたので、あるのは部屋着と運動用のジャージくらい。そこまでのこだわりがあるわけでもなし、ルーミックも自分一人なら気にしないが、目の前のエイリスを見ているとそうも言っていられないように思えてくる。
改めて考えてみれば学園以外の場所でちゃんと会うのはこれが初めて。
長い金髪は後ろでアップにしていて、夏に向けて上がり始めた気温に合わせた薄目のカーディガン。元々も美人なことは知っていたつもりなのに、こうして私服となると、新鮮さも手伝って妙に意識してしまう。
「せめて一着くらいは余所行きの服を持っておくべきでしょ」
「その重要性を今ひしひしと感じてるよ」
ファッションや流行に疎くてもわかってしまう彼女のセンスはどう見ても自分とは不釣り合い。
「どうせなら今日買っちゃえば? 私が見繕ってあげるから」
断わる理由はなかった。遠慮なく頷いて、目的が一つ追加される。
差し当たっての用事もなく、人混みに流されるようにのんびりと。エイリスにとってはいつも一人で歩いていた道を、今は二人で。隣にいるのは友人なのか何なのかはっきりしない関係のクラスメイト。
――正直、想像していたのと違う。もっとおしゃべりしながら面白おかしいものだと思っていたのに、別に特別な感じもしないし、ルーミックに至ってはそもそもエイリスに意識がない。
「……あんまりキョロキョロしてるとみっともないわよ」
物珍しそうにあっちこっちに揺れる首に注意を一つ。
「悪い……」
謝りながらも、彼の視線は高いビルの頂上へ向けられたままだ。
「あなたの地元ってビルとかなかったわけ?」
「あんまり。近所で一番高い建物が学園の寮くらいかな。まぁ、かなり田舎の方だったし」
「ふーん……。あ、こことかどうかしら。結構いろいろ入ってるから、あなたが気に入るのもあるかも」
ふと足を止めたエイリスが示したのは、複数のショップが階ごとに入っている一軒のビルだ。出入りする大半はルーミックたちと同年代の若者。若干気後れしながらも今日はエイリスに任せることに決めて、ルーミックは彼女の後に続いた。
やはりと言うべきか。賑わう店内はどこを見ても服だらけで、言葉にし難いシャレた空気が漂っている。自分には場違いな感じの、一人だったら入店を躊躇う場所。そんな中をエイリスは慣れた様子で堂々と進んでいく。その姿にちょっとした尊敬さえ覚えつつ自分でも適当に店内をぶらついてみるが、数が多すぎてどうにも。自分に似合うのがどんなものなのかなんてわかりもしない。
「ね、ルーミック、この服着てみて」
声を掛けられてそちらを向くと、両手いっぱいに服を抱えたエイリスがいて。早く早くと強引に試着室に押し込まれる。
「とりあえず一式選んでみたからよろしく」
「あいよ」
狭い室内に足場がなくなるほどに積まれた服。脱いだ服の置き場に困りながらどうにか着替えて、カーテンから外を窺う……のだが。
「いないし……」
少なくとも見渡せる範囲内には。
このまま顔だけ出しているのはあまりにみっともない。一旦着替え直して探しに行こうとした矢先、奥からエイリスが戻ってくるのは目に入った。
「ごめん、ちょっと自分の見ちゃってて。――あっ、いい感じじゃない!」
「そうか?」
「うんうん、私の見立てに狂いはなかったわね。じゃあ次の服行ってみましょう」
最初に渡された分と追加された分。幸いにも待っている人がいなかったので結構な時間試着室を専有していた。
人の服を選ぶという初めての体験は思いのほか楽しくて、エイリスもノリノリで。この一軒だけでなく、他のフロアのショップも見回っていろいろなコーディネートを思案中。その顔つきは真剣そのものでとても口を挟めない。
適当に掛かっているものを手に取って値札を確認。
「……意外と庶民的なんだよな」
「? なにが?」
「エイリスでも買い物で悩むのかと思って」
実家は国を代表する名家で、その一人娘。ルーミック相手の時はともかくとして、言葉遣いも所作も育ちの良さは端々からにじみ出ている。その割にエイリスは結構俗っぽい。貴族なんて、気になるものは片っ端から買っていくイメージがあっただけになおさら。
「まぁそりゃあ、たしかにそういう人もいるけどね。そうじゃない人もいるに決まってるでしょ。そもそもお金を持ってるのはわたしじゃなくて家だし。自分で稼いだものでもないのに無闇に使いたくないのよ。それに――」
「それに?」
「お金をかければ良いものが手に入るのは当たり前でしょ? でも、安いからって品が悪いわけでもないし、そう言うのを見つけるのがショッピングの醍醐味だと、私は思ってるから」
それはきっと本心からの言葉。心底楽しそうに笑うエイリスの笑顔にルーミックは一瞬見惚れてしまう。当の本人は何とも思っていないのか、もう意識を次に移しているけれど。
「さ、次の店に行きましょうか」




