第五章 ③
『おおぉ―――ぉぉっっ!!』
『!』
そんな空気をぶち壊す叫びが闘技場の方から聞こえてきて、肩をビクンとさせる二人。
「で、では私はこれで」
「あ、ああ、うん」
「今日も、この前も、本当にありがとうございました」
最後にまた深く一礼して走り去っていくカノンと、その背中を見送るルーミック。……そして。
「ふーん……」
「うおっ!?」
不機嫌そうな声が斜め後ろから。
いきなりの登場に慌ててその場から離れたルーミック。見ればそこにいたのはジト目でふくれっ面をしたエイリスだった。
「ずいぶんと仲良さそうだったわね」
「……良いってわけではないだろ。会ったのも二回目だし」
「その割に彼女の方は満更でもなさそうだったけど。まさか今日の試合でファンになったとか言うんじゃないでしょうね?」
「違う違う。礼を言われただけだよ」
そもそも何故自分が問い詰められているみたいになっているのだろうか。エイリスの不機嫌さのワケに心当たりがなくて、ルーミックは内心疑問符を浮かべつつ、始業式の出来事とを簡単に説明する
「――ってわけ。ランク戦で見つけたから声掛けてくれたんだろ」
「ふーん。……でもわざわざ連絡先まで教えるかしら」
訝る視線はここにいない少女に向けて。未だに納得いっていない様子。
「そんなこと言ったら俺もエイリスの知ってるけど」
「私たちは良いのよ、ペアなんだから。むしろ交換してない方が異常よ」
「まぁそれもそうか……。でも、俺が連絡先を交換してエイリスに不都合なことがあるのか?」
「えっ!? い、いやね、そんなわけないでしょ。ただ、ペアとしてパートナーが悪い人に騙されてないかとか、仲の良い女の子が出来たらイヤだ……じゃなくて、あくまで、練習相手が女の人に現を抜かす様な腑抜けじゃ私が困るってだけで!」
早口でまくしたてられる言葉には若干の本音が混じってしまったものの、それは勢いで誤魔化して。
と、とにかくっ、とエイリスは人差し指を突き立てる。
「あんまり調子に乗らないこと! わかった!?」
「お、おう……」
何をどう調子に乗れというのか。
この姿を見ていると初めて会った時のあのおしとやかなエイリスは夢か幻だったのでは、なんて疑問も湧いてくる。あの優美さはたしかにとても綺麗だった。ただ、ルーミックにとっては、こうやって気安く話せる今のエイリスの方が魅力的に思えるのだけれど――。




