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第五章 ②

――爆音とともに、火柱が立ち上がった。矢は全てルーミックに触れることさえできずに焼き尽くされて。紅蓮の火中、刃が振り上げられたのが見えた。

一閃。炎の奔流が対戦相手ごとフィールドを赤一色に染め上げた!

あとに残ったのは倒れた女生徒と、悠然と佇む男の二人だけ。

『……はっ! しょ、勝者、ルーミック・ヴェルトゥール選手!』

『……わああぁぁぁっ!』

「いったい何が起こったのでしょうかっ。勝ちをコールしたはいいものの、私自身いまいち理解が追いついておりません。

――あっ、リプレイが始まりましたね。見事に先制を飾った攻撃によってこのままマリス選手の勝利かと思われたのも束の間! ルーミック選手についてはまだ手元に情報がないため詳細は不明ですが、おそらくは炎でしょう。圧倒的なまでの熱が、フィールドの光景を瞬く間に塗り替えてしまいました。結果は一目瞭然。ここにもう一度ルーミック・ヴェルトゥール選手の勝利を宣言します!」

「――まぁこうなるだろうな」

さして驚くほどでもないというように背もたれに体重を預けるヴァリー。

「先輩は彼が戦っているところを見たことが?」

「ない。ないがわかる。ほとんど勘だがの。実際こうして当たったわけだ。嬢ちゃんクラスでもないと戦いにならんだろう」

「私は、負ける気はありませんよ」

交わされる静かな言葉の応酬。からかうような口調でエイリスはヴァリーにとある質問を投げ掛けた。

「先輩ならどうなんですか?」

答えまでの間は短く。男は口の端を吊り上げて笑う。

「同じさ。戦いにならん」

「あ、あのっ!」

「?」

ランク戦を終えて闘技場から出てきたルーミックに、やや上ずった高い声がかかった。

この建物には正面ゲート以外にもいくつかの出入り口があるが、選手はその中でも控室から直通の道を使う。エイリスによると、有名な人の場合にはその道に出待ちの行列ができることもあるらしいけれど、そんなものは自分には無関係だと思っていただけに、そこに人が立っていることに気づいたときは驚いた。

一つの試合が終われば休憩を挟んでまた次の試合だ。会場に集まっていた人のほとんどは、ルーミックたちのことなどあくまで『ついで』なのだろう。新たに入って行く人はいても、出ていく人はあまりいない。

「ルーミック・ヴェルトゥールさんですよね?」

「い、一応」

着ているのは学園の制服で、校章の色は同じ一年。外はねのショートカットに大きな瞳。一応? と彼の言葉に首を傾げる少女は、どこかで見たような顔立ちなのに、どうしても名前が出てこない。

「えーっと……」

「あのときは助けていただいて、ありがとうございました!」

ガバッと下げられた頭に戸惑いつつ。

『あの時』『助けて』。学園に入ってから人助けの記憶なんてほとんどない。それでようやく思い至ったのは始業式の日のこと。たしかあの時の女の子もこんな感じだった気がしないでもない。

「本当はもっと早くお礼を言いたかったんですけど、何組なのか分からなくて……」

「あー……それは仕方ない」

なにせ一年だけで生徒数が千を超えるのだ。うわさでは在学中に顔を合わせたことすらない同級生は半数を超えるとか。……卒業アルバムとかどうなるんだろうか。

「あ、も、申し遅れました。私、カノン・ラプスです」

「ルーミック・ヴェルトゥールです」

また頭を下げ合って。

「今日の試合、おめでとうございます。と、とってもかっこよかったですっ!」

「あ、ありがとう……」

面と向かって。何より、彼女の必死さから真剣な気持ちが伝わってきて、余計に恥ずかしい。つい、周りに誰もいないことを確認してしまう。

「そ、それでですね……」

もじもじと胸の前で指をからめ合うカノン。その顔は耳まで真っ赤だ。躊躇いがちに伏せられた瞳は、やがて意を決したように目の前のルーミックを見据えた。

「もしよかったら連絡先、教えてくれませんか!?」

「もちろんいいけど」

「ありがとうございます!」

デバイスをつき合わせてピピッとデータを送り合う。デバイスに登録された連絡先は元から登録されていたセフィアと学園の事務、それからエイリスに続いての三人目。

いくら頂点を目指しているといっても、ルーミックとて一人の男。何より相手は自分を慕ってくれている可愛らしい女の子。自分の人間関係の希薄さに改めて絶望しつつ、ようやく増えた名前に、つい口元がほころんでしまう。

なので、初対面の女子といきなり何を話せばいいのか、そんな知識はルーミックの頭には入っていない。これまでこういった経験にはあまり縁がなかっただけに。結果、

「…………」

「…………」

何か話そうとしては途切れ、互いに視線が合ってはすぐ逸らしてしまうという、ひどく甘酸っぱい雰囲気が流れた。

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