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第五章 ①

そしていよいよこの時が来た。

「ふぅ……」

選手用の控室で、ルーミックは深呼吸を一つ。

ここはまだ山脈の麓だ。今からやっと足を踏み入れようかというところ。

ちょうど良い。どれほどの高山であろうと、一度足を踏み入れてしまえば高さなど気にならない。頂に達するためには誰が相手だろうと勝ち続けて、一歩一歩その道を上り続けるよりほかにないのだから。

緊張はなく、心の高揚を抑えて冷静に。始まりはもう間近に迫っていた。

『さァ今年もこの時がやってまいりました! 全学園生による力と技のぶつけ合い、フォーリティナ魔道学園ランク戦。今年はどれだけの名勝負珍勝負が生まれ、どのような熱戦が繰り広げられるのでしょうか! 

実況はわたくし、実況に夢中になりすぎたあまり自分の試合でも実況席に座っていて不戦敗となった経験を持つ、高等部二年、胡子無こしなシーナが担当させていただきますっ!

本日の第一戦は共に一年生。一年C組,ルーミック・ヴェルトゥール選手対一年E組マリス・リリア選手! 当然ながら両者ともにこれが高等部での初めてのランク戦になりますが、だからでしょうか。会場にはやや空席が目立っています」

これはある意味仕方のないことだ。強い者は中等部時代から騒がれているし、名が知られていないということは、わざわざ注意するほどでもない人というのが大半の認識。編入生だけをとっても数が多すぎてとてもじゃないが全員をチェックしきることは不可能。

「でも」

自分だけが知っている、彼の実力。本当は周囲の無関心なギャラリーに触れて回りたいくらい。けれど、わざわざそんなことをする必要もない。

『そのとき』を想像して、エイリスは一人忍び笑いを浮かべる。数分後には、会場のだれもが嫌でも理解するのだから。

『しかし、裏を返せば二人の可能性は未知数とも言えます! 会場のあなたが伝説の目撃者になるかも!? それでは選手に入場して頂きましょう!』

仰々しい演出とともに、フィールドへの門が開かれる。登場するマリスとルーミックはゆっくりとした歩みでその真ん中へ。向かい合う二人の間に交わされる言葉はない。

適度な緊張感を保っているルーミックに対して、マリスの表情はやや硬く。

フィールドは不可視のバリアに囲まれて、観客のざわめきから切り離された。ここは人も魔法も通さぬ隔離空間。

待機状態にあった中央のモニターに中のフィールドがアップで映し出される。

「行くぞ、《焔》」

「射抜きなさい、《無駄なしの弓》(フェイル・ノート)」

顕現する二つの魔装。

一○:○○

開戦の音が響き渡った。

先手を取ったのはマリス・リリアだ。音と同時にバックステップで後ろに引いた彼女は、左手を前へと突きだす。

『絶好のスタートダッシュで自分の距離を作ったマリス・リリア選手! その手には白を基調とした短弓、《無駄なしの弓》。

放たれた矢は狙った対象を追い続ける自動追尾ホーミングが付加されますが、ルーミック選手はこれをどうさばいていくのでしょうか!?』

弓に添えた右手を引くと、そこには魔力によって生成された矢がつがえられていて。

「――レリア・アロー!」

引き絞る力が消えて射られたのは一本ではなく無数。

迫る矢は『点』ではなく『面』で死角を殺しルーミックを飲み込んで、その姿を覆い隠した。

『おおーッと! ホーミング関係なしの完全な物量作戦。逃げ場のない攻撃に、あっという間に決着かぁ!?』

「嬢ちゃんはどっちが勝つと思う?」

時は少しだけ遡って、観客席の一番奥。ひっそりとフィールドを見守っていた金髪の少女の隣から、厳つい声がかかった。

「そうですね。マリスさんには申し訳ないですけれど……」

液晶の中ではルーミックが矢に埋もれたところ。声の主を確認することもせず、確信を込めて彼女は答える。

「勝負にならないでしょう」

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