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第四章 ⑥

***

「そんなのじゃ私に傷一つつけられませんよぉ?」

おっとりとした口調を崩すこともなく、涼しげな表情。全て見切っているとでも言いたげに、攻撃を避けるのではなく、受け止め、弾き、いなす。

仲が深まったおかげか互いの邪魔をし合うことこそなくなったものの、このままでは前回と大差ない。が、敗北をそのままにしておくほど、彼と彼女の反骨紳は弱くはない!

「先生こそ、あんまり俺らを甘く見ないでくださいよ!」

燃え盛る炎は一面を赤く染めた。

「火牙炎哮!」

繰り出された『牙』は狙いも付けずに、ただ目前へ向けての一手。それを周囲の炎もろとも打ち払うセフィアの『手』。

そんな中、赤から出てくる青がある。静かに、それでいて鋭く。

「――龍閃花リュウセンカ」

水の魔力が動作の尾を引いた。

――。

ピッ、と。槍の刃先がセフィアの腕をかすめる。

「よしっ!」

「やった!」

傷の深さは紙で指先を切ったのと同程度で、血が皮膚の上で少し球を作っただけ。それでも、二人にしてみれば大きな前進だった。何せこれまではセフィアに触れたことさえなかったから。それが今回はセフィアが避けようとしたうえで当たった、だ。

「あらあら、さっそく前言を撤回させられちゃいました」

若干残念そうに傷口を撫でる担任教師。

「残念です」

彼女の纏う雰囲気が重みを帯びていく。

――来るか?

防御に徹するばかりで一度も攻撃してこなかった彼女がついに。

浮かれかけていた気持ちを抑えて、神経を研ぎ澄ます。

「先生も少しだけ、本気を見せちゃいます」


その間わずかに数秒。にこにこ顔のセフィアの足元、二人はそろって床に転がっていた。

「最後の連携は良かったですけど、そこで気を抜いてしまいましたね。ダメですよ? 勝負は決着がつくまで油断しては」

「油断とかそういう次元じゃなかったと思うんですけど……」

「同感」

為す術なく力づくでねじ伏せられたってカンジだ……。

これだけの実力差ならもっとうまく倒せただろうに。傷つけられたこと、実はちょっと怒ってたんじゃないだろうか。

「まあまあ。そんなに痛くはしていませんから。来週からの戦いに響いてもいけませんしね」

「来週?」

「ランク戦よ」

「――っ」

「はい。人数が多いので人によって日付は違いますが、早い人は来週から始まります。メールのチェックを忘れないようにしてください」

「いよいよか……」

初めて聞いたときはまだそんなに先なのかと思っていたのに、今はもうなのかってカンジだ。

「対戦相手はどうやって決まるんですか?」

「それはですねぇ」

人差し指を顎に当てて、セフィアはもったいぶるように視線を宙に彷徨わせる。

「完全な無作為よ。だから、初戦からいきなりトップと戦える可能性もあるわ」

「なるほど……ん?」

 納得して頷くルーミックの陰で、言われちゃいましたと残念そうに肩を落とすセフィア。

「どうしたの、ルーミック?」

「メールが来てたみたいだ」

戦いに夢中で気付かなかったけれど、受信を示す色の光が点滅している。端末を操作するルーミックの目が微かに見開かれた。

「差出人は――フォーリティナ魔道学園ランク戦運営局」

「!」

書かれている日程は、週が明けての月曜日。

『ルーミック・ヴェルトゥール様。貴方のランク戦第一試合の対戦相手は一年E組、マリス・リリア様に決定いたしました』

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