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第四章 ④

悶々とした思いを抱えたまま、それを振り払うために、ルーミックは頭から布団にかぶさった。

「はっはっはっはっ」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

一方は規則正しく、一方はやや乱れて。

清々しく晴れ渡った空の下、太陽が昇って間もない朝の人気のない学園の敷地で。日課となったジョギングにいそしむ二つの影が地面に出来ていた。

「うぅ……ゴォール!」

「お疲れ」

疲れ切って地面に座り込んだエイリスに対して、ずいぶん前にゴールしていたルーミックはスッカリ汗も引いている。

「走った後すぐに寝転ぶのは逆にきついぞ」

「知ってる。けど無理」

本当は喋るのもツラいくらいなのだが、そこは根性。これでも初日に比べれば随分とマシになった方なのだ。

最初は完走すらできなかったのだから。前回の反省を活かして距離は半分。ルーミックはその分ペースを上げてバランスをとろうとしたのだが、それについていこうとしてエイリスは途中でリタイア。二日目からはかなりゆっくり自分のペースで走ってハウハウの体で。そして体の慣れてきた今日は少しペースを上げての挑戦だった。

四肢を広げて走り遂げた満足感に身をゆだねる。

「ほら、エイリス」

ベンチに置いておいたカバンからペットボトルを取り出して、息の整い始めたパートナーに差し出すルーミック。

「ありがと……」

エイリスはそれを横になったまま受け取ろうとして――

「あっ」

掴み損ねて、ボトルは二人の手の間をすり抜けていく。気を遣ってふたを開けていたのがアダになった。地面に落ちたペットボトルは中身をブチまけてアスファルトを濡らしていく。もちろん、その隣に寝ていた彼女もただでは済まない。顔にこそかからなかったものの、水は地面を伝って髪を濡らしていく。

「えっと、タオルタオル……」

「取らなくていいわ。ひんやりしてて気持ちいいし、授業までまだ時間あるから後で部屋に戻って乾かすし」

「そうか?」

「うん」

そうして少しの時が流れて。ようやく回復したエイリスがぽつり呟いた。

「――喉乾いた」

「……ちょっと買ってくるよ」

「いいわよ、そこまでしなくても。そこにまだ残ってるでしょ」

こちらを見ようともせずに彼女が指差したのは、ルーミックが使っていたペットボトル。

「えっ」

訊き返そうとすると、それを拒むかのごとく、身体ごと明後日の方を向いてしまう。

「わ、わざわざ買いに行くのも手間だし、お金だってもったいないじゃない」

「いや、まぁ……エイリスがいいなら良いけど」

「ん」

ついっ、と伸ばされ手にペットボトルを乗せると、エイリスはあの飲みにくそうな体勢のまま水を口に含んでいく。

「ん」

きっちりふたの閉められたボトル。

「……ありがとう」

それと一緒に渡された感謝は今日のためだけではなく、言いそびれてしまったあの日の分も含めて。

朝のこれが終われば、次は学園の授業だ。

――すっかり仲良くなったみたいで、良かったわぁ。

二人のギスギスが解消されたおかげでクラスの空気がとても穏やかだ。一年生の授業が始まってすでに結構経っているのに、こうして落ち着くのが初めてというのもおかしな気はするけれど。良いところに着地してくれたのならセフィアにとっても喜ばしいことだ。ルーミックはともかくとして、現時点で学年主席のエイリスが周囲に及ぼす影響は大きい。

とはいえ、それもランク戦が始まるまでのことだろうというのがセフィアの予想。この学年の中で、二人の実力は群を抜いている。ただ、それでも……。

「……生! 先生ってば!」

「は、はい? 何ですか?」

「何ですかじゃなくて、授業してくださいよ」

「あ、あらぁ……?」

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