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第四章 ③

***

「おおっ、帰って来たかルーミック! 話は聞いたぞ、ティーニエの嬢ちゃんを助けたそうだな。よくやった!」

予想外に長引いた事情聴取のせいで解放されて部屋に戻れたのはすでに夜も更け始めた頃。

自覚はなくともやはり病み上がりなのか、主に精神面での疲れがどっと押し寄せてくる。それなのにドアを開けるなり同居人のハイテンションな大声と一緒にバシバシ肩を叩かれてフツーに痛い。

「『助けた』って言えるほどのじゃないんだよ。実際には時間稼いだだけだし」

言っていて情けない。リビングの冷蔵庫から飲み物を取り出してソファに沈み込む。

「十分ではないか。初めての実戦で正騎士を相手にして生きて帰って来れただけでも大したものだぞ」

「そんなもんか」

「並みの学生が二人がかりで挑んだところで時間稼ぎにもなりゃせんわい。嬢ちゃんはともかく、お前さんも結構やるようじゃの」

「嬢ちゃんって……エイリスのこと知ってるのか?」

「当り前であろう。容姿端麗、品行方正、成績優秀。学園でも有名な方でもあるし、昔ちょっと知り合う機会があっての」

「ふーん」

そういえば、と。寮で共に暮らし始めて一週間。エイリスのことばかり考えていたせいで気が回らなかったけれど、自分がまだこの同居人について名前と学年以外ほとんど何も知らないことに気づいた。

この風格で弱いということはまずありえまい。体格も、性格も。態度の端々から漂ってくるヴァリーの自信が、その予想の裏付けに見える。

「ん? どうした?」

「いや、俺――」

ぐうぅぅぅぅ~。

「なるほど、腹が減っとると」

「や、そうじゃなくて。たしかに腹は減ってるけど、言いたかったのはそんなことじゃなくて」

「誤魔化す必要はあるまい。この時間は食堂も閉まっとるからな。何か買い置きはあるか?」

――あ、ダメだこれ。

うすうすわかってはいたが、ヴァリーは人の話を聞かないタイプだ。

まだ何も聞けてないのに。自分の腹のタイミングの悪さを恨みながらも、空腹なのは事実なので大人しく首を横に振る。

「よしわかった」

いいや、わかってない。

「ワシからの祝いじゃ。特別にアレを分けてやろう」

「アレ?」

ピピピピ……、と、セットしていたタイマーが時間を告げる。

お湯を入れて待つこと三分。ふたを開けると同時に白い湯気がむわっと広がった。

そんなわけで、夜に向かい合ってカップメンをすすっている男が二人。しかもヴァリーはしっかり夕食も食べたはずなのに自分の分まで用意しているところがまたなんとも。

「特別でこれかぁ」

「料理する手間もいらん上にすぐに食べれて、早い、安い、美味いが揃っとる。十分ではないか」

麺をすすりながら力説されても困る。どこかの限定品というわけでもなく、近くのスーパーやコンビニでも手に入るようなありふれた一品。カップめんに罪はないし、味自体にも不満はない。ただ、自分の中でハードルを上げ過ぎていただけで。

むしろここでヴァリーの手料理なんかを振る舞われたら困るどころの騒ぎではないのである意味では安心したと言っていいのかもしれない。

ヴァリーのエプロン姿……。

「おえっ……」

「どうした、ルーミックよ」

「何でもない……」

想像しただけで破壊力がヤバすぎる。ヴァリーが持っていると手が大きすぎて普通に見えてしまうけれど、今食べているのは特大サイズ。満腹とまではいかないが、ひとまず空腹は収まった。

「食ったら早く休め。傷は魔法で癒えても、疲れまでは取れんからな。学園には明日から復帰するのだろう?」

片付けはやっといてやる、と上級生の気遣いをありがたく受け取ってベッドにもぐったはいいものの。

「全然眠くならねぇ……」

それもそのはず。まだ日付は変わっていないし、起きてからそんなに経っていないから。今日の活動時間はせいぜい三・四時間だ。扉から漏れてきていたリビングの明かりも今は絶えて。ムリヤリ目を閉じてみても、頭の中は昨日の記憶のリフレインで埋め尽くされる。ああしておけば良かったとかこうしておけば良かったとか。どうすれば勝てたのか、とか。

それももちろんあるのだけれど。

まことにみっともない話。

強い騎士と戦えた喜びや死にそうになった恐怖より、これからエイリスと上手くやっていけそうな予感がしている、その嬉しさの方が大きくて。


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