『時刻』と『幻影』
自分で認識している俺の初恋は、五歳だ。
いつの間にか隣にいた幼馴染に、いつの間にか恋をしていたと思う。
当たり前にずっと隣にいるのだと、錯覚していたのだと思う。
「俺は灯熾が好きだ」
ああ、違う。
これは決して、俺が灯熾に言ったセリフではない。
「……は?」
「だから今度、灯熾に告白する。いや、いっそ求婚する」
「ぶっ飛びすぎだ落ち着け」
当時、中学三年。
それは、幼馴染である詠時が、決意表明として俺に言った言葉だ。
「それを何で俺に言うんだよ」
「だって仁時も灯熾好きじゃん」
「はぁあ!? 別に!? 幼馴染だし!? そういうんじゃねぇーしぃー!?」
「下手か」
じっと俺を睨んでくる詠時から目を逸らして、深く溜息をつく。
何故だ。何故ばれた。
「幼馴染だぞ、考えてることくらいわかる」
「頼む、これ以上俺の心を読まないでくれ」
俺たちしかいないのに辱められてる気分だ。
「だからお前に不義理なことはしたくない。それでこのカミングアウトゥに至ったわけだ」
「無駄に発音がよかったのは何か理由があるのか」
「ない」
「……」
まあ、だろうとは思った。
あっても困る。
「いいか?」
「は?」
「俺がお前より先に灯熾に告白してもいいか、と聞いている」
「そんなもん」
詠時も灯熾も、俺にとっては大切な幼馴染である。
結果がどうなるかもわからないが、独り蚊帳の外にされるのは面白くない。
それ以前に、詠時と灯熾がオツキアイなどということになって許せるか?
「……俺は許さん」
「お父さんか」
「お父さんじゃねーよ」
「娘さんを俺に」
「だからお父さんじゃねーよ!」
いや、そうじゃない。そのテンションは今、必要ないやつだ。
落ち着け俺、落ち着け詠時。
「あーもうまどろっこしい!! 立て仁時、そして表に出ろ仁時!」
「えええ」
「俺の覚悟を見せてやるわ!」
「えええ」
言いだしっぺの法則というのをご存じだろうか。
勝負事は大体、言い出した奴が負けるものだ。
……少なくとも俺と詠時の勝負はいつもそのような感じで。
その時、俺は幸いにも、あるいは不幸にも、勝ってしまったわけで。
「……また喧嘩してたの」
そしてその場にちょうど、灯熾が帰ってきたというのも、俺にとっては幸か不幸かわからない。
わからなかったけれど。
「灯熾」
「ん?」
「好きだ」
ぱちくり、目を瞬かせる灯熾の顔は、今でも鮮明に覚えていたりする。
その時の右拳の傷みも、無駄に早鐘を打つ心臓の音も。
この先一生、俺は忘れないと思う。




