『職人』と『幻影』
俺が自分で認識している初恋の時期というのは、五歳の頃だ。
当たり前に隣にいた存在が、それから先も当たり前に隣にいると信じていた。
「えーっと……え、何、今の愛の告白?」
「聞き返すなよ」
現在、中学三年の秋。
つい先刻、仁時との殴り合いで敗北した俺は、何の因果か仁時の決死の告白というものを目の前で目撃する羽目になったわけで。
何この酷い状況。
「いや、だとしたらないわ。ごめん」
「手ひどく振られた!」
「じゃっ、じゃあ俺は!? 俺も灯熾好きだ! 結婚しよう!」
「ああ、ごめん、ないわ」
「手ひどく振られた!!」
ことごとく振られた。
二人そろって振られた。
がっくりうなだれていたら、灯熾は困ったように頭を掻いて、言った。
「私にとっては、二人ともお兄ちゃんみたいなものでね。だからそういうのってなんて言うか……なんて言えばいいのかな……」
言葉を探すように、人差し指をこめかみに当てて、考え込んで。
やがて灯熾は何か思いついたように、その人差し指を天に向けた。
「気持ち悪い」
「散々考えてそれかよ!」
「配慮をしろ、配慮を」
「てへ」
思わずツッコんだら、灯熾はへらへらと笑う。
ああ、もう、何でそんなに楽しそうなんだ、お前はいつも。
「私はこのままがいい」
「何が」
「このまま大人になって、それぞれ旦那と嫁さん連れて来て、家族ぐるみで仲良くするの。……その方が、いい」
灯熾にとっての俺たちは。
どうやら、幼馴染を通り越して家族らしい。
仁時と目を見合わせて、噴出した。
笑い合っているうちに、灯熾も同じように笑い出した。
「よし、灯熾の旦那が恐縮するくらいいい男になってやる」
「なれるもんならなってみなよ」
「なれるって! なぁ、詠時!」
「さぁなぁ、どうだろうなぁ」
ひとしきり笑い合ってから、灯熾がごそごそと鞄を探った。
そして。
「お菓子買ってきたんだ。食べようか」
「おう、食う!」
「俺、コーヒー」
「私は紅茶しかいれん」
はたはたと服についていた汚れを払って、立ち上がる。
先に玄関をくぐっていく灯熾の後姿を見送って、その背中を追う仁時を見送って。
「詠時ー、早く来ないと詠時の分まで食べちゃうよー」
「あーっ、今行く今行く!」
失恋したというのに、こんなに気分が晴れやかなのは何故だろう。
仁時の顔を見たら、どうやら同じことを考えているらしい。
やっぱり俺たちは、どこまでも『幼馴染』なんだと気付いた。




