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『幻影』、平穏

「夏めいて来たねぇ」


 アイスティーを飲みながら、ほっこり。

 目の前では、今なお絆創膏だらけの仁時と詠時が、同じようにアイスティーを飲んでいる。


「夏休み何するー?」

「格ゲー三昧でよくね?」

「えー、たまには人生ゲームしようよ、人生ゲーム」

「それボードの方だろ。お前、人生ゲーム用の金なくしたって言ってなかったっけ?」

「あ。……そうだった」


 そんな話をしながら、おやつをつまむ。

 今日は母さんの手作りパウンドケーキ。我が母の女子力たるや……。


「うまうま」

「灯熾、自分でこういうの作らねーの?」

「作ると思う?」

「思わないから聞いてる」

「作らないよ」

「予想通り過ぎて震えるわ」

「何故だ」


 いつも通りの、くだらないやり取り。

 だがしかし。だがしかしである。

 実はこうして三人そろってお茶をするのは、中学三年以来二年ぶりだったりするのだ。


「しかし、今回の全面戦争は大変だったねぇ」

「それな」

「三高の被害、どんな感じ?」

「校門辺りが大破。まあ、だいぶ直ったみたいだけど」

「あー。そりゃ大変だ」

「学校の顔だからね」

「この間ちらっと見たら、前よりなんか立派になってた」

「まさかの出来事」


 そんな話をしながら、パウンドケーキをもぐもぐ。


「二高の被害は?」

「入院が全部で三十人くらいかな。めっちゃ重症の奴以外は退院した頃だと思うけど」

「人員的被害は二高が一番ひどかったからねぇ」


 そんなことを言いながら、笑い合う。

 二年ぶりにも関わらず、いつも通りの風景である。本当に心からそう思う。


「その点、一高の被害少なすぎて笑う」

「確かに!」

「そういえば一高に千里にーちゃんいたのビックリした」

「あー、灯熾のハトコだっけ」

「そうそう」

「すげー小さい頃にちらっとしか顔見てないからあんま覚えてないな」

「な」

「私もあまり覚えていなかった」

「お前は覚えとけよ、失礼なやつだな」

「てへ。だって最後に会ったの十年くらい前だよ?」


 そう言われたって仕方がないじゃないか。

 最後に会ったのは私が小学校に上がったばかりの頃。

 その頃には私の能力も発現していて、他の子供たちに見せては拍手をもらったりしていたのだが。

 その時に何があったのだったか、アツアツのお鍋がひっくり返って、たまたまその落下予想地点にいた私を千里にーちゃんがかばったあの日。


「トラウマだったから忘れてたんだよ、たぶん」


 私をかばって火傷を負ったハトコの存在そのものも、記憶の奥に封じていたらしい。

 きっと、千里にーちゃんの笑った顔を見て安心したから、思い出したんじゃないかと思う。


「とりあえず今年の夏は」

「ん?」

「今まで忘れてたぶん、千里にーちゃんの相手もしてこようと思う」


 まあ、きっと千里にーちゃんは、そんなの気にしなくていいのに、なんて言ってへらへらと笑うんだろうけれど。


「……そうだな、そうしてやれ」

「うん」


 さて、夏休みはもう目の前だ。


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