勇者と盗賊の王子退治6
説教されている王子を生ぬるーい目(一人妖しい目)で見ながら、盗賊たちはすでに解散の準備に入っていた。なんというか、ものすごく緊張感が無くなってしまった。
というか、そもそも、もう後は帰るだけの者がほとんどなのだ。
「あ、そういや、ツルさんよ。さっき慌てて出てったが、間に合ったのかい?」
「ああ、どうもすまないね、犬さん。ハシビロコウさんが来てくれて、何とか間に合ったよ」
「いえ、お役に立てましたなら何よりでございます」
空色の犬と藤色のツルに、オレンジ色のハシビロコウは、洗練された所作でお辞儀した。
「てか、ヌーさん大丈夫か?一応あれでも、アレだろ?」
「大丈夫だと思うよ、犬さん。ヌーさんアレであれですが、柔軟な思考の人だからね」
「先ほど少しお話させていただきましたが、ヌー様はむしろ乗り気であられたようにお見受けいたしました。心配は無用かと」
「やっぱなー。うん、ヌーさんはいい人だなあ」
「そうだね」
「賛同いたします」
ファンシーなアニマルたちの会話は、どこをどう聞いてもおっさんたちの立ち話にしか聞こえなかった。
「どうします?ウサギさん。正直、もうキツネさんはほっといて帰ってもいいんですが…」
「そうだなー。カモさん的にはどうよ?」
「え?そうですね…。基本的に長居し過ぎているくらいなので、帰っても問題ないと言いますか、むしろ帰った方がいいと思います。しかし、キツネさんは…」
「あ、いいです。もうああなるとなにしたって気が済むまで止まりませんし、なんならあとで俺が回収しに行きますから」
「弟がそう言うんなら、そうなんだろうな……」
「帰りましょうか…」
もう立ち直れない王子と、最近のラブレターをどこからか持ち出してしかりつけている赤いキツネを無視して、動物たちは帰宅することにした。
「キツネさんキツネさん、俺たち先に帰ってますんで…」
なにも言わずに去るのもなんなので、代表して緑のタヌキが二人に声をかける。
「え?ああ、わかった。気をつけてな」
「はいな」
とてもあっさり許可が出た。
反対に、アニマルたちが帰っても、キツネは帰らないことをなんとなく感じ取ってしまった王子は絶望を顔に浮かべていた。誰もその顔を見れなくて、そそくさと荷物を纏めている。
「あ、そうだ。殿下、おトイレお借りしましたー」
さらっとツルがお礼を言った。
「は!?え、なにしてるんだ!?」
当然王子は困惑した。
「事前に打診して許可がでなくても困るんで、事後報告にさせてもらいやしたー」
「それぐらいなら、出かける前に済ませてこい!」
正座でジンジンする足を忘れて叫んだせいで、王子は頭から床に倒れこみそうになったところを、ヤマアラシに抱きとめられてしまい、色々といたたまれなくなった。
「あの、殿下。さっきの光はですね、殿下の運を一時的に奪うものでして。我々をお探しになろうとも、どうにもできないので、できましたら無駄なお金を使われないようにお願いしますね?」
そんな王子に追い打ちをかけるべく、蛍光イエローなヌーは、さらっととんでもないことを言った。
「運…だと?」
まさか。そんなことができるのは、大司教くらい……の、ハズ…。少なくとも、運とかをどうこうできるのは聖職者以外あり得ないのに!?
愕然とする王子に気づかず、ヌーはその牛頭を掻きながら、あっさりと続ける。
「はい。ちょっと死に易くなっちゃうかもなので、気をつけていてくださいね。少なくとも、微妙な不幸がバンバンやってくると思います」
まさに今みたいに…とは、王子をしっかりと抱きしめているヤマアラシが怖くて言えなかった。トゲが刺さって非常に痛そうである。
「あ、そうだ。こいつも持っていけ」
そう言って、赤いキツネがカモノハシに渡したものは―――――――。
「やめろおおぉぉぉおおおぉ!!返せえぇえ!」
「……いや、いらねえ…」
思わず、ピンクのウサギが素で拒否ってしまった、ソレは。
「私の恋文と日記!!隠していたのにっ!」
その言葉に、とても気まずそうにハシビロコウとカモノハシは視線を床に逃がした。
ハシビロコウは昔から、王子がそれをそこに隠していることを知っていた。無論、赤いキツネもだ。カモノハシに至っては、それを見つけて持ってきてしまったので打ちひしがれる少年の様子に、そして先ほど不可抗力とは言え聞いてしまったその中身に、非常に責任を感じてしまったのである。
罪悪感に耐えられなくなった善良なるカモノハシは、思わず王子に詫びた。
「…すいませんっ!俺、この中で唯一本職の盗賊なんすけど、そのせいでつい!隠されてたもの身つけちまって!見なかったことにすればよかったんすよね!?」
それはそれでショックな王子だった。というか、今、聞き逃せない何かを聞いた気がする。
王子は恐る恐る、カモノハシに声をかけた。
「え?あの、一人?盗賊経験者、お前だけ?」
「すいません、正確には義賊っす!」
そこの訂正はいらなかった。
「……素人集団に、このありさま………」
王子の頭からは、自分の現在の状況、及び盗み出されそうになっている|命と同じくらいには大切にしないといけないもの《日記とラブレター》の存在が消えていた。
さらに追い打ちは続く。
「あ、あと、俺これでもけっこうこの仕事長いんすけど…」
カモノハシは、ものすごく改まった様子で王子に向き直る。
「こんなに簡単な仕事ははじめてです。感動しました。どうかこれからも隙だらけ穴だらけの人生を末長く歩いてください」
カモノハシは大真面目だった。心の底からそう思っているのが、その場にいた全員にもよくわかった。
「カモさん、天然ですねえ…」
「これでトドメじゃねえんだから、王子も浮かばれねえよなあ…」
タヌキとウサギは、こっそりと小さい声で感想を述べた。
「盗賊に感謝されるとか…」
王子の心はどこか帰ってこれないところに出かけてしまったみたいである。
「帰りましょうか」
「うん、帰るか」
「おーい、ヤマさん、帰るぞー?」
そう呼びかけられたヤマアラシは、非常に不本意そうだった。魂をどこかに旅立たせてしまっている王子をギュッと抱きしめて離さない。
「……カモさん、頼みます」
「…わかりました……」
こうして、最終兵器が嫌そうに、のそのそとヤマアラシたちに近付いてくる。ヤマアラシは舌打ちをした。
「おーい。カモさんがヤマさん回収したら、すぐ飛ぶぞー?」
「おー」
アニマルたちはヤマアラシ待ちだった。
ゆるみきった雰囲気に、全員が油断していた。
「……仕方ないね。殿下、、いずれまた会おう…?」
ヤマアラシは、ヤマアラシとも思えぬ重低音の美声を王子の耳に囁いた。
はっと我に返った王子が、自分を抱きしめているヤマアラシを見上げた瞬間――――――――――。
王子の視界が、ヤマアラシの顔でいっぱいになり……
「なにやっとんじゃ――――!?」
カモノハシの絶叫と渾身の一撃とともに、呆然とする王子から、ヤマアラシが引き離された。
王子だけでなく、傍観していたカラフルなアニマルたちも、説教していた赤いキツネでさえも、唖然として一切の身動きが取れなかった。
なんというか、まさかヤマアラシがソレを奪うとは、誰も予想していなかった。
「帰りましょう!今すぐ、この馬鹿がもっと酷いことしでかさないうちに!」
表情の変わらないカモノハシであったが、半泣きであろうことは簡単に察することができた。普段の気の弱さがまったく感じられない、まさに荒くれ者といった様子で乱暴に気を失っているヤマアラシを引きずって戻ってきた。
勢いに押されて、緑のタヌキが慌てて転移を発動させる。
一瞬で、その場から盗賊たちはいなくなった。
あとに残されたのは、魂を抜きとられたように崩れ落ちた王子と、色々なタイミングを一気に失ってしまい、途方に暮れる赤いキツネだけであった。
後始末、及び、伏線回収が残っております。
あと一話お付き合いください。




