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勇者と盗賊の王子退治3

 王子をヤマアラシが口説いている間に、他のアニマルな盗賊たちは行動を開始していた。

 洗練された動きをするもの半分、ややぎこちないものが半分である。


 それでも彼らは、王子が灰になっている間に己の仕事をこなしていく。

 

「……ヤマさん、大丈夫か?」

「大丈夫だろう。なにしろ、ヤマさんはその道のプロだ。狙った獲物は逃げられない(・・・・・・)


 ヤマさんとはヤマアラシのあだ名である。逃がさないではなく逃げられないというあたりが、ヤマさんの実力の高さを表している。一体彼はなにを盗む気なのであろうか?


 周囲に気を配りつつ、王子とヤマさんのやり取りを見ていた緑色のタヌキが、叫んだ。

 ちょうど、ヤマさんが王子から離れた瞬間であった。


「王子の心はヤマさんが盗んだぞ!!」


 それは、盗賊団にとっては、選手交代の合言葉であったが、その宣言に王子は痛恨のダメージを喰らった。涙目になって打ちひしがれている。

 その様子を見ていた青色の猫が、静かに王子のもとへ向かう。


「……殿下」

「なっ、こ、今度は何だ…?」


 明らかに怯えている王子の頭を、青猫はそのぷにぷにの肉球で撫でた。不覚にも、王子はちょっぴり癒されてしまった。

 王子の表情のこわばりが少しとれたのを見てとり、青色の猫は――――――――。


「そもそも、なぜ私がこんなことをしているかといいますと……」


 身の上話を始めた。

 口説かれるよりはいいのだが、いきなりの展開に王子は唖然として猫の話を聞いていることしかできなかった。


「そうですね、ではまず私が生まれた時の話をしましょう。私が生まれたのは、この国ではない遠くの名前は忘れましたがまあいい国だったそうです……」


 この上なくどうでもよかった。


「母は病弱な人でした。父親は私が生まれる少し前に、ともに国に尽くした仲間たち、そして忠誠を尽くしてきた主に裏切られ、国を追われて行きました。ですから私は父を知りません」


 しかも話がとても重かった。話を聞き流したり、遮ったりしたら、なんか人間として駄目になりそうな気がして、王子は黙って猫に向き合っている。猫は表情を変えないまま、淡々と話を続ける。


「母は病弱な体に鞭打って、身重のまま祖国を出ました。その後、運よく行商人に拾われたのですが、心労もあったのでしょう。私を生むのと引きかえに命を落としました……」


 思わずウルッときてしまった。猫の世界の大変さを垣間見たような気がした。王子だけでなく、ほかのアニマルたちからも時折鼻をすするような音が聞こえてくる。それでも彼らは手を止めていないが。


「行商人たちは、私をある程度まで育ててはくれましたが、その後は……」


 そうして続く猫の不幸すぎる物語。悲惨だった。仲間のアニマルたちでさえ、思わず手が止まりかけてしまうくらいには。王子はもう半泣きである。物語は、貴族に引き裂かれた初恋編に差し掛かっている。

 アニマルな盗賊団のリュックは、半分がいっぱいになっており、詰め込み終わった者は、手間取っている仲間の仕事を手伝い始めた。本業はそろそろ佳境である。


 緑のタヌキはその様子を見ながら、同じように仲間たちの仕事を見守っていた赤色のキツネとジェスチャーで会話し、頷き合う。青い猫の物語は、この国に落ち着いてからの、町の役人に虐げられる屈辱の日々編に来ている。クライマックスはもうすぐだった。


 牛とカモシカの合体生物っぽい体つきの、しかし二足歩行な一頭の蛍光イエローのヌーが静かにその場を離れる。それに続くように、一羽の藤色のツルと黒いカモノハシが部屋を出て行く。

 そして猫の話は、領民の年貢を倍にして、自らの私腹を肥やした役人と、それを正義を持って断罪した後の役人の蒸発、そして、年貢が持ち逃げされたからとさらに領民に年貢を求める新しく来た役人との争い、そして引き取って育てていた大切な息子を、彼だけ五倍にされた年貢の代わりに連れて行かれたことまでを語り終えた。

 王子は泣いた。


「青猫よ、そなたがそのように青いのは、哀しみゆえか…?」

「そうかもしれません…。私の一生は、一体……」


 なんとなく、部屋全体がしんみり……というよりはじめじめしている。原因は王子とアニマルたちの心の雫が、主に顔面の鼻とか目とかから溢れだしたせいだろう。青猫のこれまでに、全員が深く同情していた。

 

 その頃には、本職も完璧に終了していた。そっと、オレンジ色のハシビロコウが部屋を出て行ったが、王子は気づかなかった。アニマルたちと一緒に、必死に猫を慰めている。


 そんな王子に、先ほどのヤマアラシが近付き、そっとその肩に手を置く。

 王子ははっと顔を上げた。ヤマアラシと目が合うと、静かに頷いてくれた。よくわからないまま王子はそれに頷き返す。

 その間に、語るだけ語って疲れ切った青猫を、こっそりと金色のラーテルが王子の傍から回収して行った。


 ただ二匹だけ離れていた赤いキツネと緑のタヌキのもとに、先ほど部屋を出たヌーや、ツル、カモノハシ、そしてハシビロコウが戻ってきていた。

 ツルとカモノハシはなにやら大量の書類を、ハシビロコウは一枚の紙を赤いキツネに差し出す。


「……ありがとう。これで十分」


 赤いキツネは、差し出された紙の束に目を通し、王子に聞こえないくらい小さな声でそう言った。

 緑のタヌキは、ピンクのウサギに大きく頷く。ウサギも同じように頷きを返す。



 王子に、断罪の瞬間が迫っていた。



ハシビロコウ…クチバシが異様にでかいおっきな鳥。


ラーテル…世界一怖いもの知らずな動物(byギネスブック)。スカンクっぽい。


ヌー…牛とカモシカを足して二で割ったみたいな牛。よく大移動とかでテレビに出てるが、途中ワニに喰われてけっこう死んでる。


ツル…北海道や、鹿児島の出水という地方では冬の風物詩なおっきい鳥。自己犠牲的な恩返しで有名。

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