勇者と盗賊の王子退治2
それは、長椅子に横になった王子が三秒で熟睡するという神業を見せた四分五十七秒後のこと。
その集団は、唐突に、ピンポイントで王子の部屋に現れた。
「おうコラ殿下!じゃまするぜー!」
「なっ、なんだ!?」
静かだった部屋に突如響いた大声に驚いて、王子は飛び起きてその侵入者たちの姿を認め、悟った。
「ああ。夢か」
「おいおい現実逃避かよ。悪いがこりゃあ夢じゃねえぜー?」
声の調子とセリフから、なんとなくドヤ顔で言われたような気がする。表情が変わらないのでよくわからない。しかし、なんと言われようとも、王子には夢だとしか思えなかった。
「二足歩行する桃色で人語を解す大柄なウサギは夢の中にしか存在しない」
「マジかよ。どんだけ普段メルヘンな夢見てんだよ殿下。それより良く見ろや、猫もコモドドラゴンもいるじゃねえか?」
王子は言われてウサギの背後を見やった。確かにいた。猫や犬などのメジャーどころから、コモドドラゴンを筆頭に、何故そのチョイスにしたのか問い詰めたくなるようなマイナーどころまでわらわらいた。二十匹はいるだろうか。なのに一つもかぶっていないのは夢のなせる技なのか。
なんにせよ、とりあえず気持ち悪かった。デフォルメという心やさしき緩衝材の存在はなく、無駄にリアルな二足歩行で大柄のガラの悪そうなアニマルたちだったのだ。全員が大きなリュックを背負っているのは、ほのぼの要素を出そうとしたのか、はたまた何かの伏線か。柔らかい印象を出そうとしたというのなら、はっきり言って大失敗である。
切実に夢から覚めてほしい。
「俺らはしがない盗賊団よ。名前を売るために、いっちょ犠牲になってもらうぜ、王子さまよお?」
桃色のウサギが、ババーンという効果音を響かせながら王子にびしっと指を突き付けた。後ろでその効果音を鳴らした緑色の狸がいそいそとシンバルを片づけている。
意味がわからず、王子は茫然と突っ立っていた。その王子に向かって、一匹のヤマアラシが、ウサギの背後から近付いてきた。
(刺さったら地味にいたそうだ……)
思考停止した頭で、近付いてくるヤマアラシを見ながら王子は漠然とそう思った。さりげなく、しかし的確に、ヤマアラシの近くにこのおかしなアニマルたちは近寄らないようにしている気がする。
混乱して一切の動きを止めた王子の肩を優しく抱き、ヤマアラシは王子の寝ていた長椅子に、王子をしっかり捕まえた形で腰を下ろした。叫ぶほどではないがちょうど我慢できなくもないという絶妙な痛さでとげが刺さってくる。真っ白な灰と化した王子を気に掛けず、ヤマアラシは―――――。
「殿下。噂に来ていたよりも素敵じゃないか。うん、僕の好みド真ん中。キラキラの金髪は眩しいし、空と海を足して割ったような宝石の瞳。素晴らしいね。まるで僕のために存在しているようだ…」
ヤマアラシの顔は変わらない。普通にリアル巨大ヤマアラシの顔だ。自分に動物の表情の見分けがつくとは思わないが、声の調子や滲み出る雰囲気でわかるものもある。そして、社交界で輝くため、王子はそういったものに鋭くなるようにしてきたし、ある程度自信を持っている。
その勘が言っていた。これはやばいと。
「声もとても耳に心地いいね。ずっと聞いていたくなる…。ああ、服の下は実用的な筋肉ではなくて、どちらかというと見せるための身体づくりをしているのかな?ふふ、いいね。そういう若い努力をするその青い心…。とても惹かれるよ…」
ヤマアラシの声は上ずっており、肩を抱く手は強い。リアルなにくきゅうの感触に涙が出そうだ。そして、ヤマアラシが確実に発生源なフェロモンぽい何かが、王子に何か大切なものの危険、むしろそれが盗まれる瀬戸際にあると警告してくる。
(まさかと思うが、このヤマアラシ……!)
「ねえ、殿下。僕と君は出逢う運命だった。さあ、怖がらないで、スイートハート……」
王子は泣きたくなった。これはもう間違いない。
口説かれていた。
「人間の王族が、下賤な動物を相手にするわけがないでしょう!!離れろっ!」
とりあえず、王子は叫んだ。苦笑するような声を出して、以外にもヤマアラシは素直に王子から離れた。離れ際に、王子の耳元で「あまり構いすぎると、嫌われちゃいそうなんでね。また、次の機会にでも、この続きをやろうねぇ?」と囁くのは忘れなかった。
すでにぐったり疲れた王子であったが、この復讐劇は今、やっと始まったばかりのだったのだ。




