第9話 唯一の味方
また1人、そしてまた1人と、ごろつきのような連中を挑発して決闘を挑み、殺して回った。
紙を仕込んで、私の強さを知らしめるのだ。
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ある日の夜、与太郎は師範に呼ばれた。
内容は、大方、予想がついていた。
師範は、死装束を身に纏い、一番弟子である彼を待っていた。
「...師範...行かれるのですね。」
「あぁ...もしものことがあれば...道場を頼む...ユウが原因で道場が潰れたと皆が、思わぬよう、閉めるならばしばらく続けてから、他の理由を探してくれ。」
「私も行きます。」
「いや...2人で行けば、あやつは逃走するだろう。そうなれば、他の者に殺されてしまうやもしれん。これは、私のケジメなのだ。」
「師範...なぜそこまでユウに手を差しのべるのです。」
「友である、あやつの両親に、頼まれたのだ。
ユウを、優しく、強い剣士にしてやってほしいと...私はなにも...できなかった。」
「師範の責ではございません。ユウは、精神が未熟で、強さを手に入れたらあぁなってしまう運命だったのです。」
「ユウは私の門下生だ...これは私の責任だ...
では与太郎、頼んだぞ。」
「師範......!」
「どうした。」
「どうか...ご武運を...!」
刀を腰につけ、道場の階段を下り、暗い夜の町へ、師範は歩んで行く。
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獲物...獲物...いないな...
今日はいつも以上に静かな夜だ。
頃合いの獲物すら歩いていない。
「ぐぷっ...!」
この具合の悪さ、ずっと続いている。
いつも間が悪い。
まるで誰かが私の殺戮を止めようとしているような...
いや...そんなはずはない、気のせいだ。
...今日は帰ろう。
振り返った時、遠くに白い服の人影がこっちに歩いてきていた。
幽霊かとも思ったが、人間のようだった。
近付くにつれ、その正体が明らかになって行く。
「師範......」
「ユウ...許してくれ...どうにもしてやれなかった...お前がこうなったのは、全て、私の責任だ。」
「あぁ、全部、全部あんたのせいだ。
もっと早くからこの力を持っていたら、どれだけ楽しかったことか...ふふっ...!」
そう、あんたのせいで、私は退屈だった。
負け続ける屈辱もずっと受けてきた。
シュッ...
師範は、静かに刀を抜いた。
シャキィィィン...!
対して私は、勢い良く刀を抜き、ブンブンと回転させてから、いつもの低い、異質な構えを取る。
師範も、それに対し、静かに刀を向けた。
「ユウ、刀を置けば、せめて痛みもなく、楽に終わらせてやる。」
「あんたを殺れば、いい宣伝材料になる。
なにも教えてくれなかったんだ。
せめてそれで私の役に立ってよね。」
「もはやもう語ることもない、ユウ、覚悟。」
「負けたこと、もう忘れたのかなぁ!?」
一気に切りかかる。
すばやい動きの一撃離脱を仕掛けた。
目まぐるしく動き、攻撃を続ける私に対し、最小限の動きで正確に防御してくる。
「ひゃっははははー!」
師範は邪悪な笑顔を見て、ユウが入門して間もない頃を思い出していた。
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「師範、稽古の時間...私はまだ見学ですか?」
「そうだ。ほら、見てみろ。あやつらの清き心を。人を助ける優しき心を、あやつらは皆持っている。」
門下生の男たちが、汗水流しながら必死に稽古をしている。
私はその男たちの内1人の服がはだけて、良い筋肉をした身体が一部露出しているのを見ていた。
ゴク...
生唾を飲んだユウを、師範は吹き出しそうになりながら見ていた。
「くっ...ふっ...煩悩まみれではないか。」
「ち、ちがっ...違いますっ...!」
顔を赤らめて否定するユウの頭に手を置き、優しく語りかけた。
「ユウ。それでよい。それでこそ人間らしいと言うもの。人生は1度きりだ。煩悩まみれで構わん、楽しく過ごせ。」
「師範...」
「ただひとつ。清き心でなくても、優しき心だけは忘れてはならん。悪しき心で他人を傷つけるような人間にだけは、なってくれるな。」
「もちろんです。師範。」
師範は、ユウがこの頃から、取り繕っているのはわかっていた。
だが、なにか「きっかけ」があれば、いずれ剣術を教えても良いくらいの優しき心になると思っていた。
あの頃はまだ、救える人間だった。
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「ユウ...お前は悪くない。お前の大切なものを奪った残酷な現実と、私の不甲斐なさが招いたことだ。」
「なにをごちゃごちゃと...
守ってばかりでは勝ち目はないよ。」
私の目まぐるしい早さの攻撃を師範は相変わらず受け続けるだけだった。
一撃も入らない。精巧な防御。
しかしあまり反撃はしてこない。
「守るだけで精一杯かなぁ!?
そうか!これが怖くて私に剣術を教えてくれなかったんだ!あはは!情けない!」
「情けない...本当に情けない...私は...
お前を救うことができん...」
「なにもしてくれないもんねぇ!
当たり前じゃ...」
師範の構えが、変わった。
静かな上段。
今まで見たことのない、殺気を孕んだ構え。
「お前を...
終わらせてやることしかできん...!」
ガァン!
「いっ...!」
攻撃を防いだ手がビリビリする。
一撃一撃に覚悟の乗った、強烈で正確な攻撃。
私はまともに防ぐことすらままならず、なんとか防いでは体勢を崩していた。
「はぁ...はぁっ...!」
体力がみるみる内に削られて行く。
キィン!
「ぐぁぁっ!」
私はもうヘトヘトになっていた。
ふらふらと体勢を立て直しては防御してまた体勢を崩し、息は限界で、心臓が破裂しそうなくらい激しく脈打っている。
「くっ...このぉぉぉぉォォ!!」
怒りに任せた斬撃は、いとも静かに弾き返された。
体力が底を尽き、ついに尻餅をつく。
師範は刀を私に向け、後は突くだけ。
「い、いや...助けて!」
1度引き、勢いをつけ、前へ突き出す。
「死にたくないよぉぉ!!」
師範の動きが、ピタッと止まった。
「やだっ...やだぁ...! ひぐっ...!
あれ...?」
「ユウ...っ...!」
ドスッ!
私は、その隙に師範を刺した。
「ぐっ...かはっ...!」
「......」
止まっていた...あれだけの覚悟がありながら、私を殺さなかったのか...?
いや、違う、そうか...!
私の殺気に恐れおののいたんだ!
「ひひっ...無様だね、師範...!」
「ユウ...私は...お前の...味方だ...
お前は1人などでは...」
ブシャッ!
刀を思い切り引き抜いた。
「うるさい。上辺だけの言葉はいらない。さようなら師範。私は貴方がずっと嫌いだった。
なにも教えてくれない癖に、お前の味方だの口だけ良いこと言って...」
紙を装束に仕込むと、私は背を向けた。
「私は貴方を越えた。私は、最強だ...!
これから私の噂は広まり、私は伝説となるだろう! 貴方のお陰だよ師範!くふふっ!
くははははっ! ありがとねェ!」
ユウは、刀を振って血を飛ばし、闇に消えて行った。
「...すまない...与太郎...
私は、ユウを殺せなかった...」
一瞬、彼女が見せた顔は、ただひたすら
「生きたい」と願う少女の顔だった。
師範は誰よりも、優しき心の持ち主だった。
故に土壇場であの哀しい少女を、殺すことができなかった。
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やった...やった...!
師範より強いことを証明した!
師範は私の殺気にビビって動きが止まってた!
「あっははは!」
清き心がなんとやら!
最後にはビビって負けるなんて、なんて無様なんだろう!
今日は、とても気分よく眠ることができた。
彼女は、最後に残っていた、唯一差しのべられた手を、切り捨てた。




