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哀れな決闘者  作者: MAPELS_MOTTS


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第8話 救えない物

道場から帰っている最中、ガラの悪い男が増えていることに気付いた。


周りの人間に聞き回っているようだ。


エサが自らやってきた。

相手してあげるから、夜までそうしててくれよ。


仕事で上客を相手するのは、情報を得られるから好都合だけど...


満たされない。


もう、誰と性行為をしても私の心は満たされなくなっていた。


それに最近、なんだかおかしい。


前までそんなことなかったのに、上客の身体がとても臭く感じる。


不快だ...なんか吐き気もあるのに、この臭さが更に吐き気を催してくる。


だが、これを耐えれば問題ない。

仕事が終わった後の夜中こそが、私の満たされる時間だ。


家に帰り、笠を深くかぶると、刀を腰につけて外へでた。


やはりあの男の部下だか仲間だかわからないが、辻斬りかなにかだと思って復讐を試みてるらしい。


辻斬りとは一緒にしないで欲しいな。

私は決闘者。

私がやるのは高貴な決闘なのだから。


あの男を殺した場所を見てみると、ごろつきみたいな奴らが立っている。


しかし3人か...


さすがの私も、3人を相手取れる保証はない。


別の場所を探すか...


カチカチと拍子木の音がする。


町の組合の者達が見回っているんだ。


面倒だな...この格好ではすぐに素性まではバレないが、声をかけられることは必至だろう。


気を付けねば...


別の路地で待ち伏せていたところ、なんとなく悪そうなヤツが通りかかった。


相手が刀を持っているのを確認し、すれ違おうとしたところを肩でわざとぶつかった。


「おい...喧嘩売ってんのかテメェ...」


「売られてるとわかっているのならすぐに切りかかってこいよ。凄むだけ凄んで喧嘩なんかできないのが丸わかりだよ。」


「へっ、捕まるのは御免だからな。」


「じゃあこうされたらどうかな?」


シャキン...


刀を向けると、相手の表情が変わった。


「オイ、本気かよ女。」


相手も身を守ろうと刀を抜いた。


「本気だよ。決闘と行こうじゃないか。

こんな華奢な女相手に、逃げないよね?」


「自殺してぇなら巻き込むんじゃねぇよ。

ぶっ殺してやるぜ女...!」


「さぁ、いざ勝負。」



――――――――――――――



一睨みしただけでロクに動けなくなっていた。

一瞬で殺してしまった。


つまらない。


せっかく剣術で最強になったというのに、これでは実力差がありすぎる。


しかも、こんな雑魚じゃ私の強さを知らしめる糧にはならないな...


まあいいや、まずは宣伝だ。


死体の服の隙間に紙を入れた。


――――――――――――


この者 決闘にて敗れたり


         真

――――――――――――



これでよし。


「真」

深い意味はなかった。

心と書いて「しん」と読む。

だから同じ読み方をした漢字を当てたのだ。


心、心と、うるさいだけでなにもしてくれない師範への皮肉のつもりだった。



しかも響きもカッコいい...


「フフッ...」


「つ、辻斬りだぁー!!」


「はっ!?」


バッ!


いけない...前もそうだったが、あまり死体の傍らに居座るべきではないな...


「辻斬りめ!覚悟!!」


「くっ!」


キィィン!


こっちにもいたのか...!


相手の刀を弾き、身体を蹴っ飛ばすと、逃走を図った。


「追え!逃がすな!」


「はぁっ、はぁっ!」


......


足を止めると、ぐねりと首から振り向き、相手を見た。


そんなに、私と戦いたいのか。

なら、やってやろうじゃないか。


不敵な笑みを向ける。


追い付いてきていた相手は3人。

こんな町の組合のヤツら3人程度、私ならやれるはずだ。


邪魔をするのなら...殺す...!


しかし、相手を見た時点で2人は腰を抜かし、1人も震えて動けなくなっていた。


「フフッ...文字通りの腰抜けどもめ。」


私は歩いてその場を離れていった。



尾行されていないか注意し、家に帰ると、1人で呟いた。


「さすが私。やっぱり最強だ。」


服を脱ぎ、布団に横になった。


前、あの人の家で裸で寝るときは、すごく温かかったのに。

今は1人。


ちゃんと布団をかけないと肌寒い。


あの人の...肌の温もりが恋しい...


「うぷっ!? おぇぇ...!!」


くっ...最近の私の身体はおかしい...

どうなってしまったんだ...




汚い嘔吐物を見て、ため息をつくと、片付け始めた。



――――――――――――――


朝――


眠い...だるい...


ずっと横になって休んだ。


しかし道場の時間になると、私は歩き出す。


何故だろう。

私はもう、師範よりも強いのに。

学ぶことなどないのに。


私は、あの場所になにを求めているのだろう。



道場につく。

私の名が刺繍された道着を着て、名前の掘られた私用の木刀を手に取る。


師範はまだ私の道着、木刀、そして、壁にかけてある名札を外していない。


訳がわからない。


私の強さに恐れをなしているのかもしれない。


復讐でもされれば、私を止められるヤツはいないしね。


「くふふ...」


「ユウ...」


「はい師範、なんでしょうか。」


「もう...やめるんだ...」


「なにをでしょう?」


「...一昨日の切り刻み殺し。昨日の真夜中の辻斬り逃走犯...お前なのだろう。」


「なにを根拠に言ってるのですか?

そもそも、私は刀など持っておりませんよ?」


「私は「刀」での犯行だとは言っていないぞ。」


「辻斬りなんて聞いたら、刀をイメージするでしょう。考えすぎですよ。」


「ユウ!」


師範は、強く私の肩をつかんだ。


「お前の味方は...ここにいる...!」


「っ!?」


胸に強く響いた。

心の内で気づいた。


私が来る意味もないと思いながら、ここに向かう理由。


孤独が苦しかったからだ。


考えていたんだ。


昨日苦しい時、ずっと...

誰か、助けて。


誰か。


そう言っていた。

けど思ったんだ。


私を助けてくれる人なんているのだろうかと。

私に寄り添ってくれる人って、誰なんだろう?

と。


そして、感じた。


この世界で、皆が生きている中、私だけが、暗い空間の中に1人でいるような...


深い、深い孤独感を。



「ユウ...もう...やめろ...!

お前は、剣を持ってはならない...

力などなくても、幸福になれる...!」


剣...いつから剣術に憧れたんだっけ...


そうだ、あの治安維持の組織の人...

名前は忘れたけど、あの人の話を聞いたんだ。


皆が尊敬してた。

最強だって。


私も強くなって、チヤホヤされたかった。

特別になりたかった。

皆に私を見て欲しかった。


今もなりたい。

最強だって認められて、皆に見て貰いたい。


だから私は、やっぱり剣術を捨てたくない。


この師範はダメだ。


味方だって? 口だけじゃないか。

なにも教えてくれない。


味方だとしても、こんな使えないただの1人を捨てるだけで、いずれ強くなり大衆から尊敬されるようになるなら――


コォン! カラン...



私は、この道場で今まで稽古をした思い出の詰まった、"切咲優《きりさき ゆう》"の名が刻まれた木刀を投げ捨てた。


背中に名前の刺繍された道着も、その場で脱いで投げ捨てた。


こんな物は、いらない。


入門した時の思い出が、空しく転がっている。

あの時の私は、期待と、希望に満ちていたな...



控え室に行き、服を着ると、道場を去った。



――――――――――


「待て! ユウ!」


「なんですか? 師範。

察したでしょう? もうやめるんです。

貴方はなにもしてくれない。」


「な...なんと...!」


ユウの「気」

師範が見たそれは、この世の者とは思えない程、歪な形をしていた。


深い、深い愛の形をしたものが、爛れきって「絶望」と化していた。


諦念、悲哀、疎外感、それが怒りと憎しみに混ざり合い、狂気と化していた。


こんなに心の壊れた人間を見たことがなかった。


こんなに「救い」を求めている人間を、

見たことがなかった。


救える者はいた。

なのに失ってしまったのだろう。


悟ってしまった。


彼女はもう、誰にも救えない。

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