第5話 喪失
私は、居酒屋の仕事を終えた後、今日は自宅に帰った。
ユウスケさんは朝早くから仕事なのに、いつも明け方まで付き合わせてしまっていたことに気付いた。
結婚して同棲した後は髪結いの仕事中すらずっと一緒なんだから、今だけ、好きを抑えよう。
と決めたはずなのに、結局寂しくなってずっと自分の身体を弄くっていた。
「会いたい...抱いて欲しいよ...ユウスケさん...」
早く結婚したいな...
結婚することは決まってるのだから我慢しなきゃいけないのに...
今すぐ会いに行きたい...!
しばらくして――
もう行っていいかな...?
まだ明け方で外は暗いが、ユウスケさんなら起きているはずだ。
私は引っ越し準備として家の物を少し持ってユウスケさんの家へ向かった。
――――――――――――
コンコン。
「ユウスケさん。起きてる?」
返事がない。
まだ寝てるのかな...
あれ...?
ガラ...
開いてしまった。
心張り棒がされてない。
「仕事用の高い物があるでしょうに...
注意してあげなきゃ。」
勝手に入ってしまったが、ユウスケさんなら怒らないだろう。
だって私はもう、彼のお嫁さんなんだから。
「ユウスケ...さん...?」
寝室を覗いたが、彼がいない。
正面ではない外への戸が開いている。
ここから出たのかな...
外へ出て彼を探した。
「ユウスケさんー?」
おかしい。
あまりに無用心すぎる。
あの賢明な彼がこんな無用心なはずがない。
しかし家中探しても、周辺を探してもどこにもいない。
その内帰ってくるかな...?
良く見ると、裏口から足跡が続いている。
ここから出たのは間違いない...
でも途中から足跡の付かない地面になってるから探しようがない。
ん...?
足跡は不規則で、明らかに普通に歩いた時の歩幅ではない。
何かからあわてて逃げた...?
「あっ...あぁぁっ!?」
焦っていて気付かなかった。
家の中には、土足で踏み込まれた跡がうっすらといくつも残っている。
中も良く見ると荒れている。
ユウスケさんはこんなにゴチャついたまま放っておく人じゃない!
「ユウスケさん! ユウスケさぁぁん!!」
「うるせぇぞ! 黙れ!」
「こ、この家の人っ! 知りませんか!?」
「あぁ...? この家か...昨日な、結構な人数が押し入ってたな...名主さんには伝えたが...
しばらくしたらいなくなってた。」
「家の持ち主はどうなったの!!」
「う、うるせぇ! 何時だと思ってんだ...!
知らねぇよ...!俺が見たのは黄色い羽織の大男が何人も連れてそこに押し入ってたのだけだ。」
「黄色い羽織の...大男...?」
覚えがある。
自慢話で海外から薬を持ってくるみたいなことを言ってたあの嫌な上客...!
「なんだ、しってんのか?」
「そいつが...海外から...薬を持ってくるみたいなことを言って――」
「おいっ...!!」
「えっ...?」
「お前そんな話ここでするな...!
もし関係者に聞かれたら消されるぞ...!」
「だ、だってアイツが自分から...じゃあなんで私は狙われなくてユウスケさんだけ...!」
「知るかっ...! 俺は帰るぞ、もうお前とは関わりたくない...!」
嘘だ。
嘘だ...
昼には帰ってくるに決まってる。
私はユウスケさんの匂いのする布団に潜り、しばらく待った。
涙が溢れる。
でも、まだ信じてる。
彼が戻ってくると。
居酒屋の仕事も無断で欠勤し、一日中彼の家で待った。
でも彼は帰って来なかった。
「結婚するって...言ったじゃん...一緒に過ごすって...髪結いの仕事を私が手伝って...いつも一緒で...子供も作って...」
なにも食べずにひたすら待った。
本当に帰って来ないのだろうか。
次の日も、ひたすら彼を待った。
そしてまた夜になる。
まだ、待っていた。
最愛の彼を。
婚約し、夫となる者の帰りを。
ひたすら、待った。
帰って 来なかった。
察してしまった。
彼はもう帰って来ない。
「あは...あはは...」
笑っている。
でも涙が溢れている。
自分の感情がわからない。
彼と結婚して幸せになるんだ。
お嫁さんになるんだ。美男美女の夫婦として周りからちやほやされて、2人で評判の良い髪結いになって...
いやだ...いやだ...!
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
力の限り叫んだ。
否定した。現実を。
なにも起こらなかった。
そして、気付いてしまった。
「あっ......そっか.........」
「私が、あの事を彼に話したからだ。」




