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哀れな決闘者  作者: MAPELS_MOTTS


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第2話 出会い

道場への階段をのぼっていると、どこか暗い顔の青年とすれ違った。

不満、悔しさが見て取れる。


この男、恐らく入門を断られたんだ。

たったの8人しかいないと言うのに、師範は大体の人間の入門を断っている。


断られた理由を聞いてみた。


「なんて言われたのですか。」


「あ、貴方は...? いや、まあいいか...

僕は...心が清らかで強くはないようです。」


また「心」か...


私はそれになにも言わず、階段をのぼった。


くだらない...

そんなものが剣を強くするものか...!


階段をのぼると、師範が静かに木刀を構えて立っていた。


「入門、させてあげればいいじゃないですか。

どうせ貴方はお気に入りの7人以外にはなにも教えないのだから。することも増えませんよ。」


日頃の怒りからか、つい嫌味を言ってしまった。


「...ユウ...邪心が漏れておるぞ。」


小さく息を吐き、自身を落ち着かせる。


「......すみません。」


一言謝り、道着に着替えに行った。


コン! コン!


「くぅっ...!」


やはり勝てない。


私よりも後から入ってきた門下生すら、私を追い抜いて行く。


「手合わせ...ありがとう...ございました...」


師範のせいだ...!

私より後に入った門下生にすら、1対1で剣術を教えているのに...


私だけ...!


その日も素振りをして、稽古では負けに負け、鬱憤を募らせながら道場を後にした。


今日は暑かったので「冷や水」を買った。


深い井戸の冷たい水に、贅沢品の白砂糖をいれ、白玉の入ったもの。


器に口をつけてゴクゴクと飲むと、ぽんぽんと白玉が口に入ってくる。


甘くて冷たい水に、モチモチ食感の白玉が口に流れ込んで来て、非常に楽しい。


「んふふ~...」


「あっはは!そんなに美味しそうに食べてくれると、この商売もまだまだ続けたいって思ってくるよ。」


「うぐ...」


ちょっと恥ずかしい。

顔が赤くなった。


「ぷはっ...ごちそうさま。」


「毎度あり!」



さて、仕事に向かおう。


――――――――――――――――


居酒屋――


この居酒屋は、高級品も取り扱っている。


高級品を買うような金持ちには、特別サービスのことを静かに教えてあげるのだ。


そして今、私の手元の器には鰻の蒲焼きが乗っかっている。


店主は言うまでもないだろうと言った顔で私の顔を見てこれを渡してきた。


「お持たせしました。

こちら鰻の蒲焼きです。」


「ん、ありがとう。」


その人物は、整った顔立ちの青年だった。


か、かっこいい...!


心臓が激しく鼓動する。

顔が赤くなって身体が熱くなる。


「お客様...この店、実は特別なもてなしをしておりまして...」


「へぇ...そりゃいいね。ちょっと考えるよ。

でもそれより、君の事が気になるな。」


「えっ...!」


ドキッとした。

これがときめくという物か。


「いや...君、なんか悩んでるだろ。」


「えっ...あ...いや...」


「隠さなくていいよ。そんな顔してるのがわかる。」


「......」


「言わなくてもいい。

...ほら、これ、食べてみな。」


私が持ってきた鰻の蒲焼きを私に差し出してきた。


「い、良いのですか...?」


完全に欲に堕ち、断る事もなく、ゴクリと唾を飲んで最終確認をする。


すると彼は少し微笑み、さらに私に近付けた。


「あ...あっ...あむっ...」


子供の頃に食べたことが一度あったかと言うくらいの、覚えのない味。

肉厚で、濃い味付けの柔らかい鰻肉の味が、感動的な程の幸福感をもたらした。


涙が出そうな程だ。


「んん~...!」


美味しすぎる...!


「フフ...ほら、良い顔すると思った。」


「美味しいです...! ありがとうございます!貴方...お名前は...?」


「俺は祐介って名前だ。」


「ユウスケさん...わ、私もなんです!

私もユウって言うんです!

これは...う...運命...!?」


「あはは! 純粋だなぁ。まぁそうかもな?」


「あ、あの...!

今晩...その...貴方の家に...行かせてくれませんか...?」


「それは営業?」


「個人的な頼み...です...」


今日は仕事中、付き添いの注文もなかった。


店主に頼み込み、かなり早めに帰らせて貰うと、メモの場所に向かった。


まだ寝る時間には少し早いくらいの夜、薄暗い明かりの漏れる戸の前に立ち止まった。


「す、すみません。

ユウスケさん...おりますか?」


ガラ...


静かに戸が開いた。


整った顔と目が合った瞬間、胸が跳ねた。

顔が熱くなり、視線が泳いでしまう。


「ほら、入りな。」


言われるままに中へ入る。

狭いが清潔な部屋だった。

鏡や櫛がきちんと並べられ、髪結いの仕事場兼住居だとわかる。


「髪結いさんだったんですね。」


「あぁ。

病気でいなくなった親の仕事を継いだんだ。」


「...私も、両親はもういません。」


「...!」


ユウスケは少し驚いたように目を見開いたあと、静かに頷いた。


「そうか...君もか...」


しばらく部屋の話や、どうでもいい世間話をしたあと、自然と布団に入った。


最初はぎこちなかった手つきも、互いの温度を確かめるうちに熱を帯びていく。



――――――――――――――



激しく乱れた後、すこし汗の臭いと、生臭さの残る部屋で甘い時間を過ごしていた。

汗で艶めく彼の身体がなんとも魅力的だ。


「んふふ...カッコよかったよ。」


「フッ...なんだそれ、可愛いこと言うな。」


ユウスケさんが、微笑みながら私の額に張り付いた髪を払ってくれる。


「えへへ...」


その仕草は、仕事の客とはまるで違った。




そしてしばらくすると、話題は私の悩みの話になり、打ち明けた。


「師範さんが?」


「はい...私だけ...私にだけ、なにも教えてくれなくて...」


普段なら絶対に言わない愚痴が、彼の前だと止まらなかった。


「すごいな。女子が剣術を習うなんて珍しい。しかもあの道場か。

なかなか入門させてくれないって評判だぞ。」


「知ってるの?」


「噂くらいはな。師範はかなりの使い手らしい。そこの門下生ってだけで、周りから一目置かれるって。」


「でも...私はちゃんと教わって強くなりたい...心がどうのこうのって言われてなんにも教えてくれない! どうして...どうして私だけ...!」


声が大きくなってしまった。

人前で感情を爆発させたのは、本当に久しぶりだった。

すぐに我に返って、慌てて取り繕う。


「あっ...ごめんなさい...」


「謝らなくていい。」


ユウスケは優しく微笑んで私を見た。


「何かあるなら、俺にぶつけてほしい。」


その言葉が、予想以上に優しかった。

胸の奥が、熱く締め付けられる。


「優しいね...会ったばかりなのに。」


「誰だって、こんなに悩んでる子を放っておかないよ。

俺に力になれることがあったら言ってほしい。」


「...ありがとう。」


小さく呟いたあと、私は彼の胸に顔を埋めた。


「でも、今は...忘れさせてほしいな...?」


そう言いながら、彼の身体に手を這わせる。

ユウスケは小さく息を吐き、今度は優しく私を抱き寄せた。


「あはは! くすぐったいよ。

じゃあ好きなだけ忘れさせてあげようかな。」


お腹を指で優しくくすぐられる。


「んふっ...!

ねぇそれこそくすぐったいって!」


「ほらっ」


「あっ、そこダメ、あはは!

この、おかえしっ!」



じゃれ合うように触れ合い、お互いを高まらせると、ゆっくりと行為に入った。


どうしてほしいか、どこが良いかを優しく聞いてくれた。


触れ方一つ一つが丁寧で、私はただ、彼に必要とされている感覚に身を委ねていた。


幸せな時間は、夜が更けるまで続いた。



――――――――――――


朝――


若干の疲労と眠気の残るまま、目が覚めた。

ユウスケさんは仕事の準備をしていた。


起こさないでいてくれたんだ...


小さな親切に、更に想いを強めたが、彼の仕事の邪魔をするわけにも行かないので、名残惜しさを胸に、一旦家に戻った。



午後、私はいつものように道場へ向かう。


また、どうせなんも教えてくれないんだろう。

でも、私は強くなる、絶対、我流ででも、ここの門下生の雑魚共に勝ってやる...!


無表情のまま心の中でそう呟いていると、師範に声をかけられた。


「ユウ。」


「また、お叱りですか。

今度はどんな邪心が見えたのでしょうか。」


「...ユウ。私はお前を落とそうとしているのではない。お前の為を思って――」


「便利ですね。「お前の為だ」ってやつ。

それを言えばなんでも言い訳できて、さぞ楽なことでしょう。」


他の門下生が聞こえていたのか、こちらに近付いてくる。


「ユウ。師範に向かって失礼だぞ!

落ちこぼれのお前なんかが――」


「待て、やめるんだ。」


「し、師範...しかし...!」


私に言い寄る門下生を師範が止める。


「ユウ。少し付き合ってもらおう。」


「えっ...どこに...師範...?」


「与太郎。しばらく道場を任せるぞ。」


「し、師範...そんな急に...わかりました。」


師範にしばらく歩かされ、海の見える場所に連れてかれた。


「師範...ここはなんですか。」


「美しいと思わんか。心が澄んで行くだろう。」


相変わらずなにを言ってるんだかコイツは...


「まぁ...思います。」


「そこを泳ぐ魚、向こうの鳥も、みんな生きておる。 この光景を見て、お前はどう思う。」


知るか...それっぽいこと言いやがって...

私は剣術を教わりたいんだ!

お前と2人で海を見たい訳じゃない!


鬱陶しい...早く私に剣を教えろ...!


「......とても美しいです。」


「邪心が...漏れているぞ...

お前には響かなかったか...」


邪心...またそれか。

下らない、カッコつけやがって、テキトーなことを言うな!


「ユウ...「人に優しく、穏やかであれ。」それが、お前の両親が、お前の名前に込めた想いだ...」


「......師範。」


「ん...どうし...っ!」



私は、師範に飛びきりの、優しげな、無邪気な笑顔を向けて言った。


「私に邪心なんてありません。

私は、清らかです。この海や自然を見て、私はとても穏やかな心持ちになりました...!」


それは、明るく咲く花のような、尊い笑顔だった。


だが、師範にはそれが違う物に見えていた。


「ユウ...お前は...!」



師範は、本気でユウを強く優しい子に育ててあげたいと思っていた。


しかし今、師範は自身を嫌悪した。

天にいる友人であるこの娘の両親に、心から謝罪をした。


この、ユウのとびっきりの笑顔を見て、一瞬でも思ってしまったのだ。




おぞましい と。

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