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哀れな決闘者  作者: MAPELS_MOTTS


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第1話 日常

※暴力・残酷・性的な描写があります。苦手な方はご注意ください。

全13話完結済みです。


剣術の道場で、8人の弟子達が木刀を持ち、師範が見守る中で稽古をしている。


その中に、1人の少女の姿があった。


彼女の名は優《ゆう》


キリッとした目をして、髪を短く整えた大人しげな少女。


健康な男達に混じる紅一点の彼女は、小柄ながら道場の中で一際目立つ存在だった。





「やぁ! あっ...!」


相手に木刀を振ったところ、弾かれて手放してしまった。


「......」


また負けた。


木刀を拾い、形式通りの礼をする。


「手合わせ、ありがとうございました...」


勝てない...近所で一番強かった程度の私では太刀打ちできない。


これが、剣を生業として生きることを志す者達...


昔から取り繕うのが得意な私は、無表情のまま下がり、見学者側に移る。


しかし、心の中では強い感情が渦巻いていた。


悔しさ、悲しみ、羨望...


じゃない。そうではない。




怒りだ。




私の心は底知れぬ怒りに浸されていた。


稽古に勝った後、なにも言わずに礼をし、私を見たあの目...この私を侮辱している...!


何も考えもせず私を褒めてきた近所の連中...

お前らが弱いだけじゃないか...!


お陰で私はここに来てこんなに屈辱を受けている...!


そしてなによりも...


心が大事だなんだの言って、ロクに技術も教えてくれないクソみたいな師範...!


許せない。

全部...全部お前のせいだ...!


お前が剣術を教えてさえくれれば、私だってこんな雑魚共には絶対に負けないんだ!



稽古が終わり、皆が帰った後、私は一人、師範と話すために待った。


「ユウ、帰らないのか。」


「師範...剣を...私に剣を教えてください...!」


師範は心の内まで見通すような目で私を見て、しばらくすると、目を閉じた。


「ダメだ。何度も言っているのに、なにも変わっておらん。いいか、まずは邪念を捨て、優しき心を――」


「師範!私のどこに邪念があると言うのです!私は常に冷静で、人に優しく、清らかであります!」


「ユウ...私には見えるのだ。人の「気」が。

お前のは、暗く濁っている。」


「なにを...根拠に...!」


ハッタリだ...そんなものが見えるはずがない...! ふざけやがって...

この能無しのクズ! ゴミめ!


「また、どす黒く濁っておるわ。

さぁ、もう帰れ。まだ剣術を教えないのは、お前の為でもある。忘れるな、優しき心を。」


「わかりました師範...お話、聞いていただき、ありがとうございます...それと、私は平静です。別にどす黒くなんかなっておりません...」


私は怒りで一杯になったが、取り繕い、道場を後にした。




静かに背を向け、歩くユウのを見て、師範は天に向かって呟いた。


「...お前達の娘は...お前達のように穏やかな心の持ち主ではないようだ...私はどうすれば、あやつを変えてやれるであろうか...」



――――――――――――


私は男物の小袖に羽織りを着て、道場を後にすると、人通りの多いいつもと同じ道を歩いた。


イライラする。


使えない師範め...

私は本気で剣術を習いに行っているのに...!


何が私のためだ!?

ふざけるな...お前のせいで私が弱いままなのが、私のためになるものか!


怒りに叫びそうになるのを耐えながら進んでいると、出汁の良い匂いが漂って来た。


目的の屋台についたのだ。


「田楽、2本。」


「はいよ、いつもありがとよ。嬢ちゃん。」


ここで食べる豆腐田楽が、私の癒しだ。


「はむっ...!」


これを大口あけて一気にかぶりついて食べる。


口いっぱいに広がる甘い焼き味噌の味。

口の中を豆腐でいっぱいにするこの満足感...


「んふっ...んーっ...!」


たまらない...


店主が嬉しそうに私を見ているのに気付いた。


「んぐっ...ん...失礼。」


「なに言ってんだ、可愛い子がこんなにうまそうに食ってくれるなんて、この商売もやりがいがあるぜ。失礼もなにもねぇよ。」


しかし所詮2本の田楽。

癒しの時間はすぐに終わってしまう。


「ごちそうさま。」


「おう、また来てくれよ。」


田楽を食べ終えて屋台を離れるとき、ふと、誰かに見られているような気がした。


振り返っても、人通りの中に怪しい者は見当たらない。

気のせいか...?



田楽を食べて英気を養った後は仕事へ向かうのが私の日課。


さっき感じた視線の人物に追われていないか不安になって止まってみたり、遠回りしたりしていると、少し遅くなってしまった。


物静かな居酒屋。

ここが私の仕事場。


扉を通り、奥へ進むと、店主にどやされる。


「ユウ! 遅れやがってお前!

上客様を待たせんじゃねぇ!クビにするぞ!」


うるさいな...

私のお陰で稼げてる額も多いだろうに...!


「すみません...すぐにお相手しに向かいます。」


私は着替えを済ませると、すぐに「上客」の元へ向かった。


「お待たせしてしまい申し訳ございません。」


「おぉユウちゃん。

大丈夫大丈夫。さぁ連れてってくれよ。」


「ご案内致します。」


特別室へ案内し、客を床に下ろす。


「どう...でしょうか...」


「おぉ...良いねぇ。」


「ありがとうございます。」


客の手が私の肌を確かめるたびに、私は自分の存在が肯定されているように感じた。


静かな個室。

広間の笑い声が遠くに聞こえる中で、ただ求められる。


「なぁ...いいか?」


「ふふっ...わかりました。

思う存分、お使いください」


身を委ね、求められるままに応じた。

必要とされている感覚に、心が満たされて行く。


「ユウちゃん、そろそろ...!」


「はいっ...私もっ...!」


上客の相手をしているこの時だけ、私は誰かの役に立っている。


剣では勝てない私が、ここでは確かに満たされている。


「あっ...!」


きもちいい...


共に果てた後、私は火照った身体のまま息を整え、衣服を着た。


そして戻ると平然と配給係として働き、上客となってくれそうな人間を選んで静かに声をかける。


今日は更に多くの金を払ってくれた上客の家にまでついていき、サービスをすると、そのまま上客の家で寝た。


朝には起きて一旦帰宅。午後には道場へ出向く。


これが私の毎日だった。

全13話執筆済み/毎日更新予定です。

最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

感想等頂けると喜びます。

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