溜めすぎ
レベル上げない組である、俺、ノエル、レイナ、リーゼ、フォルはダンジョン入り口のある地下室から出てきた。
俺たちはレベルを上げない代わりに、技術面を磨くとノエルは言っていたが……。そう考えていると、フォルが指示をだした。
「それではカイト、あなたはノエルちゃんとレイナちゃん、それにリーゼちゃん三人を相手に模擬戦をしてください」
三人同時に相手かよ!? ……でも、まぁ、マユ達にレベル上げをしてもらっているんだ。俺だって頑張らないとな。
リーゼによると、魔王城内に鍛錬用の広場があるらしいので、そこに移動する。
鍛錬場には、フォルが女神の時に作った超強力な魔道具によって結界が張ってあるので、遠慮なく力を使えるそうだ。
だだっ広い鍛錬場に、フォルを除いた四人で入る。
「カイトは木剣で戦ってください。ノエルちゃんとレイナちゃんは、それぞれ自分の武器を使って、本気でカイトを叩きのめしてくださいね。リーゼちゃんはカイトに近寄れないので、遠距離技や魔法で狙い撃ちしてください」
フォルは戦えないけど、監督みたいな立ち位置なのね……。つい脱力してしまうが、ノエルたちは真剣な表情で頷く。
アイギスの盾のおかげで、彼女たちの攻撃では俺の体は傷つかない。でも、攻撃を受けたらかなり痛いだろうな。言ってる場合じゃないが。
そしてフォルが鍛錬場の外から「それでは始めてください」と合図をした。
俺はただの木剣だが、魔装術で魔力を上手に収束させると、彼女達の攻撃を受け止められる。
少しでも集中が乱れると、木剣ごとバッサリ斬られる。ノエルの攻撃はもちろんだが、レイナの攻撃もかなりの威力だ。アイギスの盾が無かったら、何度死んでいるか分からない。
それでも、ノエルとレイナは容赦なく斬りかかってくる。リーゼの遠距離攻撃も、嫌なタイミングで飛んでくるので油断ならない。
俺は三人の猛攻をかいくぐって、反撃を試みる。半端な攻撃は即座に返されるので、一瞬も気が抜けない。なかなかハードだが、精神が研ぎ澄まされていくのが分かる。
時間を忘れて模擬戦に打ち込んだのだった。
* * *
模擬戦を終え全身汗だくだ。さすがに疲れた。ふとリーゼと目が合った。彼女はサッと目を逸らして、そっぽを向いたまま口を開く。
「シャワーあるから、浴びてきたら? こっちよ」
リーゼが案内してくれるようなので付いていくと、シャワールームがあった。同じフロアには大きな風呂もあるみたいだ。
この城の設備にはちょっと興味があるが、とりあえずシャワーを浴びてきた。また暇なときに探検させてもらおう。
それにしても、この城って使用人がたくさんいる。そのおかげなのか清掃が行き届いていて隅々まで綺麗だ。リーゼ不在の間も、この城を手入れしていたんだろうな。
彼らは俺たちのことを気にする様子は全くなかった。魔王と女神がいるので、客人とでも思っているのだろう。
使用人が全員整った容姿の男なのは、俺的にはいまいちだ。
魔王不在でもきちんと仕事するなんて、給料とかどうなっているんだろ? もしかして、彼らも女神フォルトゥナの下僕で、強制労働みたいなものなんだろうか。そうだとしたらお気の毒……。
リーゼに案内されて、くつろげる部屋に来た。俺の屋敷のリビングより広くて豪華だ。
そこでリラックスしていると、マユ達も戻ってきた。手に入ったコアをレイナとリーゼに渡すと、彼女たちもシャワーを浴びに行った。
頑張って倒したみたいで、コアは大量だ。これなら、レイナとリーゼもしっかりとレベルが上がるだろう。
しばらくまったりとしていると、夕食の準備ができたと使用人の方々が知らせに来たので、用意してくれた豪華な夕食をいただいた。
普段レイナが作ってくれる料理は最高だが、たまにはこういうのもいい。魔王城も快適に過ごせるので、修行の間はここで生活するか。
これから鍛錬やレベル上げが続く。明日に備えて早めに寝るとしよう。日課もしないといけないし。
リーゼを除く全員が俺と同じ寝室で、日課をこなしてから休むことになった。リーゼは一人で可愛そうだが、これも魂のハーネス発現のためだ。
……やっぱり気になるので声を掛けるか。
「ゴメン、寂しいよな?」
リーゼは両手を腰に当て、胸を張って応える。
「別に寂しくないし! 私がいないとあんたが寂しいだけでしょ?」
ツンを出しているというよりは、俺が心苦しくないように、気を使っているように思えた。
魂のハーネスが発現したら、きちんと埋め合わせをしよう。
* * *
魔王城に来て鍛錬を開始して、三日目の朝。
鍛錬場に集合して、さて始めるかというところで、リーゼが突然雄叫びを上げた。
「はぁ、はぁ、もう無理!! ムラムラして死にそう!!」
リーゼの目は血走っていて、正気とは思えない。
「今すぐっ! この疼きを止めてよー!!」
リーゼは叫びながら飛びついてくるが、結界がそれを阻む。
「じゃま、するなぁぁぁー」!!
リーゼは神剣エターナルシャインを取り出して魔装術を発動し、魔力を全開放して結界に叩きつけた。
マユが俺に施してくれたリーゼだけが俺に近寄れない結界は、その一撃でものの見事に砕けてしまった。同時に魂のハーネスが、リーゼとの間にも発現したのが感じられた。
禁欲生活三日目だもんな。俺のモテモテスキルに晒されながら、よく我慢したほうかもしれない。
「リーゼ、頑張ったね。魂のハ……、ふゴッ!!」
結界か消えたことで俺に触れるようになったリーゼは、俺に飛びついて勢いそのまま地面に押し倒す。そして、その場で俺に馬乗りになって、三日間を取り戻すかのように激しく燃え上がったのだった。
その様子は飢えた獣のようで、俺はなす術もなくリーゼに搾り取られた。やっぱり溜めすぎは良くないね……。
* * *
――その夜。
寝室に全員集合し、ゆるい雰囲気で雑談をしていた。
「でもさ、リーゼって神剣エターナルシャインに魂が結びついていたんだろ? だったらレイナの時の屋敷みたいに、俺のアイテムボックスに神剣エターナルシャインを収納すれば、執着の矛先が俺に切り替わって、簡単に魂のハーネスが発現したんじゃないのか?」
ノエルは「そうね」と何食わぬ顔で返した。分かっていてリーゼに禁欲させたんかいっ! と思いながら、ノエルをジト目で見つめた。
するとノエルは、眉を少し寄せて唇を尖らせた。
「だって、最近のカイトって、リーゼと前世の話題で盛り上がってることが多いから、ちょっと意地悪しようと思って」
「そんなこと無い……ことも無いか。ごめん」
同じ日本の話でも、ノエルは20年くらい前の話題なので、俺とは微妙に合わないことも多かった。リーゼとは同じ時期にこっちに来たので、何かと話題が合うんだよね。
ところが、今度はアイリが頬を膨らませる。
「ノエルはまだいいよ。私たちなんて、そもそもカイトの元の世界のことなんて分からないし」
「そうだよ」「そうですー!」「そうよ」
マユとクレアとフィリスが声を合わせて頷く。レイナまで無言で頷いていた。
モテモテスキルのおかげで、彼女達はいつも俺にデレデレなので忘れがちだけど、俺に不満を見せないようにしているだけで、不満が無いわけじゃないんだ。
「今後は気を付けるよ」
みんなで楽しく暮らせるように、もう少し一人一人に配慮しようと思うのだった。




