ナーフされすぎ
みんながリビングに揃ったところで、ノエルとフォルが貪食の蛇について説明した。みんな特に動揺するでもなく、落ち着いて話を聞いていた。
あれ? 焦ったのって俺だけかよ……。
あらかた説明が終わると、リーゼが挙手して口を開く。
「私はその魂のハーネスってのがないんだけど?」
そういえば、リーゼとは魂のハーネスが発現していなかったよな。彼女ともつながれば、その分戦力が上がるはず。
俺が知っている範囲で、魂のハーネスの仕様をリーゼに説明した。
「ふーん、便利そうね。でも溜め込んだ強い想いをぶちまけるって、具体的にどうやったら発現できるんだろ?」
「そうだなー、例えば、魂のハーネスが発現するまで、禁欲するってのはどう?」
「別に私は平気だけど、あんたが辛いんじゃない?」
リーゼは腕を組んでそっぽを向く。べったりとデレているくせに、ちょいちょいツンを出そうとするのが可愛いから、ちょっと意地悪してしまおう。
「リーゼに触れなくなるのは俺も辛いけど、魂のハーネスを発現させるためだ。我慢するよ。マユ、お願いできるかな?」
するとリーゼは「そんなっ、ちょっと待ちなさい!!」と立ち上がる。お、慌ててる。可愛いなー。
マユは、聖杖ケルラウスを取り出して「もちろん! 任せて!」と力強く応える。そして、聖女の魔法を使って俺の周りに特別な結界を張り、リーゼのみ俺に触れないようにした。
「ちょっと待ってってば!!」
リーゼは焦りを露わにして、俺に近づこうとする。しかし、張られた結界に阻まれて、俺に近寄れなかった。リーゼは涙目で結界を手で叩く。
「うう、これじゃ触るどころか近寄れないじゃない……」
「ごめん、これも魂のハーネスが発現するのに必要なんだ。発現したら埋め合わせするから」
「私は平気だし! あんたの方が先に、我慢できなくなるに決まってるんだから!!」
強がる様子も可愛いのだが、俺のモテモテスキルの影響下にあるリーゼは、情欲の衝動に耐えられないだろう。なんたって、本来男嫌いのはずのノエルでさえ耐えられないんだから。
多分、数日で耐え切れなくなって暴れるだろう。その時に魂のハーネスは発現するはずだ。
あとは……。
「フォルはどうしようか?」
ノエルに助言を求めると、彼女はかぶりを振った。
「フォルの魂は、地球の神の呪いによって雁字搦めになっているから、魂のハーネスは発現しないわ。それと、フォルはどれだけモンスターを倒してもレベルは上がらない。さっき自分でも言っていたけど、戦力として全く期待できないからそのつもりで」
やっぱりか。一応解呪の方法を聞いてみたが、解呪は3凸以上の神の力が無ければできないらしい。
最強の敵って、なんで味方になった途端ナーフされるんだろうな? 一般人より弱くなるとか、ナーフされすぎだろ。
そんなことを思いながらフォルに視線を向けると、彼女は膨れっ面で俺を抓った。
「カイト、また何か失礼なことを考えていましたね?」
「いや、別に……」
「まぁいいでしょう。それでは、いつ封印が解けるのかを正確に把握するため、貪食の蛇を見に行きましょう」
フォルの言う通り、一度その貪食の蛇とやらを見ておくのもいいだろう。
ラプラスの記録の情報を元に、貪食の蛇が封印されているという最果ての地に、レイナの能力を使って全員で転移した。
転移した先は、氷に覆われた極寒の地だった。
眼前には、氷漬けにされた超巨大蛇が横たわっている。封印されているというのに、重い波動が漏れ出ていた。
「ではノエルちゃん、頼みましたよ」
なんとなく偉そうにフォルがノエルに指示すると、ノエルは目を閉じて集中し始めた。しばらく待っていると目を開ける。
「封印の緩みを加味して、物知りさんの権能で再計算したのだけれど、封印が解けるのは、24日後よ」
げ、思っていたのより短い。思わず「それだけしかないの!?」と溢してしまった。ところがノエルは冷静だ。
「それまでに可能な限り強くなりましょう。物知りさんの権能を最大限に使って、勝てる方法を模索するわ。これ以上ここにいても仕方ないから、家に帰りましょう」
俺たちは、レイナの転移で屋敷に戻った。
* * *
リビングに戻ると、レイナがお茶を入れてくれたので、みんなで一息入れる。
魂のハーネス経由で、俺に力を集めるとしても、相手はレベル2000だ。勝つためにはフォルを除いた全員がレベルを上げる必要がある。
「レベル上げしようにも、みんなレベル300超えているし、なかなか上がらないだろうな……」
俺の呟きをリーゼが拾った。
「レベル上げするんなら、魔王城にあるレベル上げ用のダンジョンを使えばいいんじゃない? ラフィードのダンジョンなんだけど、一階層しかないかわりに他よりレベルが高いモンスターが出るように調整してあるって言っていたけど」
そんなダンジョンがあったのか。そういや、リーゼって俺と戦った時かなり強かったっけ。
俺はディアージェス二人を、ベイルスティングで喰ったからレベルが大きく上がったけど、その俺と互角くらいだったもんなぁ。
ノエルはそのダンジョンについて、何か知っている素振りでリーゼに続く。
「ラフィードと戦った時、そんなことを言っていたわね。でも、レベル350では物足りないわ。ディアージェスたちが管理していたダンジョンを一つに統合して、より強力なモンスターを生み出せるようにしましょう」
へー、そんなことできるのか。今からノエルとフォルは作業をするらしいので、今日は解散となった。
俺は何をするのか興味があったので、ノエルの部屋に付いていって、二人の作業を見学することにした。
ノエルは物知りさんの権能で、青い半透明のウインドウを空中に表示させて、フォルの指示で何やら操作している。まるでパソコンで作業しているみたいだ。
ノエルはキーボードで入力するような手の動きをしながら、時折フォルに声を掛けている。
「この操作は管理者権限が必要ですって出て、操作できないけど」
「私の波動で解除できるはずです」
フォルが、管理者のロックを解除する手順を指示して、青い半透明のウインドウにぺたりと手を置く。
「あ、ロックが解除された。あとはここをこうして……」
「はい、そうです。それから……」
ノエルとフォルが協力して作業を進めているのを見て、一時は殺し合った仲なのに、なんか仲良さそうにすら見えるなぁ、と眺めていたのだった。
* * *
翌日、みんながリビングに集まると、ノエルが説明を始めた。
「レベル上げ用のダンジョンが完成したわ。一階層で一つの大部屋しかないかわりに、レベル400程度のモンスターが、倒すたびに出現するように設定したから」
思っていたより、モンスターのレベルは低いな。俺のレベルは455で、ノエルは412だから、俺とノエルのレベルはほとんど上がらないだろう。
他の子のレベルは300前半くらいなので、頑張れば400をやや超えるくらいまでは上げられるだろうか。
「レベル400ってことは、俺とノエルはレベル上げの効率は悪そうだな?」
「そうね。ダンジョン四つのリソースを統合しても、レベル400が精一杯だったから、私とカイトは技術面を磨くことに専念しましょう。マユ、クレア、フィリス、アイリは頑張ってレベルを上げてね」
ノエルに言われた四人は、力強く頷いた。
レイナとリーゼはモンスターを倒してもレベルが上がらない。彼女達はコアを吸収することでレベルが上がるので、マユ達が倒したモンスターのコアを吸収してもらえば、レイナとリーゼのレベルも上げられるだろう。
それじゃ、とりあえず完成したダンジョンに行ってみるか。
レイナの能力を使って、全員で魔王城に移動した。
魔王城には多くの人がいて、彼らはリーゼを見ると「リーゼロッテ様、お帰りなさいませ!」と一斉に頭を下げた。
ここの皆さんは、まだ魔王ごっこを継続しているみたいだが、説明するのも面倒なので黙っておいた。
この城の地下にダンジョンの入口があるらしいので、リーゼの案内で地下室についていく。そこには空間が歪んで風景が揺らめいている、ダンジョンの入口があった。
みんなでダンジョンに侵入すると、巨大な蛇のモンスターがいた。貪食の蛇よりは小さいものの、東京ドームに収まるかどうかくらいの大きさだとは思う。
「ここのモンスターも蛇なんだね?」
「ラプラスの記録から得た情報で、貪食の蛇を模したモンスターが出現するようにしたのよ。強さは本物の5分の1だけど」
たとえ貪食の蛇を模していようが、レベル400程度のモンスターだ。今の俺から見ればさほど強い相手ではない。
「試しに俺にやらせて」
剣を取り出して、蛇に飛び掛かる。鱗は硬いが、神剣ベイルスティングに魔力を集中させると刃は通るな。
魔力全開で剣を握り締め、ディヴァインバーストを放つと、一撃で粉砕できた。
まぁ、レベル400ならこんなもんか。「ふぅ」と一息つくと、クレアが思いっきり飛びついてきた。
「カイト様! 凄いですー!」
「本番はアレの5倍強いらしいから、ああはいかないだろうけど」
あの鱗が5倍硬いとなると、俺一人の力で貫通できる自信はない。今よりも、もっと強くならないと。
そうこうしているうちに、蛇がリポップした。フィリスが神槍を出して魔装術を発動する。
「あとは、私たちがこいつを倒し続ければいいのよね?」
マユ、クレア、アイリもそれぞれ神器を出して、やる気のようだ。
「うん、無理しなくていいから、程々で頑張ってね」
その場は四人に任せて、レベル上げない組はダンジョンから出ることにした。




