助けてください
神界での戦いから、一週間ほどが経った。
目標を達成してしまったせいか、俺は毎日をダラダラまったり過ごしていた。可愛い恋人たちは、それぞれ次の目標が出来たようで、日々何かしら頑張っているようだ。
このままでは、俺だけダメ人間になりそうで怖い。
そういえばフォルトゥナって、今どうしているんだろ? 多分人間界に送られているはずだけど……。
力は封印されているって話だから、悪さはできないだろうけど気になるな。
集中してフォルトゥナの波動を探る。
…………いた。
女神の時と比べると、蚊ほどの大きさしかないが、これは間違いなくフォルトゥナの波動だ。ん? 割と近くにいるな……。アーリキタの街にいるのか。
元女神がどんな目にあっているか気になるし、ちょっと行ってみるか。
俺が屋敷の玄関から出ようとすると、マユに声を掛けられた。
「あれ? どこか行くの?」
「ああ、ちょっとアーリキタの街まで行ってくる。すぐ帰ってくるよ」
するとレイナが、瞬間移動で俺の真横に現れる。
「カイト様。私がどこでもお送り致します」
「いや、いいよ。今日は一人でのんびり街を回りたいんだ。ありがとう」
あからさまに残念そうな顔をするレイナ。ゆっくり話していると、みんなが集まってきそうだからさっさと出発しよう。
マユとレイナに見送られて屋敷を出た俺は、アーリキタの街までゆるい速度で飛んだ。
アーリキタに来てさらにフォルトゥナの波動をたどって移動すると、奴隷商の館の前に来た。
うーむ、この中からフォルトゥナの波動が感じられるのだが……。まさか奴隷になってたりして。
中に入ると、いつものスーツの男が出てきて俺の対応をする。俺の顔を見て一瞬動揺したようだったが、すぐに何事もないような顔に戻った。この人もプロだね……。
「あのー、ここに金髪金眼の超絶美人っている?」
スーツの男は、もみ手をしながら俺の問いに答える。
「さすがカイト様、お耳が早い。昨日仕入れたばかりの奴隷が金髪金眼の超絶美人でございます」
「ちょっと見せてくれる?」
「ええ、もちろんですとも。こちらへどうぞ」
スーツの男に付いていくと、とある部屋に案内された。そこには魔力障壁の中に下着姿で閉じ込められているフォルトゥナがいた。
「こちら、入荷したばかりの商品でございます。お値段は三億イェンとなりますが、このような上玉、二度と手に入るかどうか……いかがでしょうか?」
三億イェンか、高いな。元女神だってことを考えれば安い気もするが。とりあえず俺は障壁越しに声を掛けることにした。
「ちょっとこの子と二人きりで話をしたいんだけど、いいかな?」
「承知いたしました」
軽く会釈をしてスーツの男は部屋から出て行った。俺は魔力障壁に閉じ込められている金髪金眼の美女に話しかけた。
「元女神様が何やってるの? こんなところで」
「見たら分かるでしょう! 私はあの地球のクソッタレ女神に人間にされて、どこかの村に放り出されたのです。そこで人攫いに遭ってここに売られたのですよ!!」
「へー、大変だったね」
「カイト! 助けてください!」
「えー、なんで俺がお前を助けなきゃいけないんだ?」
「このまま人間の慰み者になるのは嫌です!」
「それも今まで散々好き勝手やってきたことの報いだろ?」
すると、フォルトナは両手のひらを胸の前でパンと合わせて、ニッコリ笑う。
「そういえば、ノエルちゃんとは上手くやっていますか?」
「はぁ? もちろん上手くやっているけど、それがどうかしたのか?」
「ノエルちゃんはこの世界に転生してから、魔王軍の活動に便乗して略奪や強姦するような男ばかりを見てきたので、極度の男嫌いになったわけなのですが、あなたと仲良くしているのですよね?」
「……だから、そう言っているだろ」
「ノエルちゃんを堕とせたのは、私があなたの体に組み込んだ、超絶モテモテ体質のおかげなのですよ。それが無ければ、あなたはノエルちゃんに一太刀の元に斬り捨てられていたでしょう。今でも、あなた以外の男には一片の興味もないどころか、毛嫌いしている筈です」
「……まぁ、そうだろうな。ノエルの口から聞いて大体知ってるよ」
すると、フォルトゥナは窘めるような口調だ。
「そこは『そうだろうな』じゃなくて『ありがとうございます』でしょう?」
「そもそもノエルが男嫌いになったのは、お前が魔王を召喚して、この世界をかき回したからだろうが!」
フォルトゥナは「うぐっ」と一瞬言葉を失った後「ふぅ」と軽く息を吐くと、真面目な顔つきで俺の目を見る。
「いいですか? カイト。あなたに強大な力を与えたのは誰ですか?」
俺が一拍置いて「女神フォルトゥナ」と答えると、フォルトゥナは微笑みながらコクコクと頷く。
「では、あなたがハーレムの夢を叶えられたのは、誰のおかげですか?」
どう答えたものかと言葉に詰まりながらも、目の前にいるこの駄女神が、俺に力を授けてくれたおかげというのは事実なので、しかたなく「まぁ、一応、女神フォルトゥナ」と答えた。
するとフォルトゥナは、得意げな顔で俺に問う。
「ならば今ここで、私に恩を少しでも返そうとは思わないのですか?」
フォルトゥナのしたり顔がイラついたので、俺は「思わない!」と即答してやった。するとフォルトゥナは余裕の笑みから一転、涙目となって俺に縋る。
「なぜですか!? 薄情者!」
「だってお前、ノエルを殺すとか言って脅してきたし、ついこの間も俺たちを殺す気だっただろ?」
「あれは……。神たるもの、勇者に試練を与えるのは当然なのです!」
フォルトゥナは、目を泳がせながらそう答える。
「何が試練だ? いい暇つぶしになりました。とかって言ってたじゃないか! そういえば、力を授けてくれたのと同時に、全ステータス0になる凶悪デバフもくれたよな? 単純に転生者で遊んでいただけだろ? この駄女神!」
「何という物言いですか? 私は女神ですよ!? 不敬ではありませんか! 神罰が下りますよ?」
「いや、もう神じゃなよね? それにこの世界は今、地球の神が管理しているんだろ? お前を見捨てたところで、神罰なんか下るわけない」
「うぅぅ……。そんなこと言わないで、助けてください! お願いします!」
胸の谷間を強調するようなポーズで懇願する元女神。確かにずば抜けた美貌なのは認めるし、スタイルも怖いくらいに整っている。見ていると吸い込まれそうな、不思議な魅力がある。でもなぁ……。
* * *
「ありがとうございました」
深々と頭を下げるスーツの男。結局、元駄女神奴隷を買ってしまった。お金には余裕があるとはいえ、三億イェンか……。衝動買いにしては高いな。またダンジョン潜って稼がないと。
奴隷商がサービスでくれたワンピースを着て、嬉しそうに元駄女神奴隷が俺の手を引っ張る。
「さあカイト。このような場所に用は無いはず。早く行きましょう。あ、それと、私のことは親しみを込めて、フォルと呼んでいいですからね!」
「フォル、俺はまだお前の事、許してないからな?」
元駄女神は片手を口元に持っていき、ニタニタと笑いながら俺を見る。
「許していない? あー、お仕置きとか言って、美しい私にいやらしいことをする気なのですね。仕方ありませんねぇ、少しくらいならいいですよ」
フォルは自分の大きな胸を両手で寄せて、挑発するようなポーズをする。俺は怒る気も失せて、息を吐きながら視線を落とした。
「はぁ、やっぱり返品してこようかな……」
「わぁぁぁ、冗談です! 冗談!」
フォルは慌てて寄ってくると、俺の腕を両手でつかんだ。
「あのですね、カイト。あなたになら何をされても構いませんよ? ……あなたを見ていると何か不思議な気持ちになります。胸の奥が熱くなるような、締め付けられるような……」
「……元女神にもモテモテスキルが効くんだな」
「この気持ちがモテモテスキルの影響? なるほど、悪くはないですね……。あなたに触れていると、とても気持ちが昂るのが分かります。何千年と神をやってきた中で、このような気分になったことはありません」
そう言って頬を染めるフォルに、俺はドキッとして視線を逸らした。するとフォルはすかさずからかうような顔で言う。
「何を照れているのですか? さては私に惚れましたね?」
「はぁ? 惚れてねーし! 別に恋人は沢山いるから、お前みたいな元駄女神奴隷なんかに惚れねーし!」
なぜが向きになって反論する俺。それを半眼で見つめるフォル。
「何もそこまで向きにならなくても。それよりもお腹が空いたので、美味しいものでも食べさせてください」
「ぐぐぐ……」
「さあさあ、早くあなたの屋敷に連れて行ってください」
女神フォルトゥナ。
ついこの間、命のやり取りをした宿敵のはずだが、目の前にいるのは、ただの無邪気な美少女だ。
俺は毒気を抜かれて、息を吐く。フォルをお姫様抱っこして、屋敷まで飛んだ。




