素晴らしい成長
三人の恋人たちと、テーブルを囲んで朝食をとっている。
マユ、クレア、フィリスの顔を順番に見る。みんな、最高に可愛いなぁ。ずっと見ていられる……。
三人もの美少女が俺の恋人なんだと実感して、自然と頬が緩んでしまう。
「カイト、今日は何するの?」
マユに声を掛けられて我に返った。
「えっ、なんも考えてない……何しようか?」
お金は十分あるし、強敵と戦う予定もないのでレベル上げもしなくてもいい。こうなったら朝っぱらから……。
よからぬことを考えていると、ノエルの声が聞こえてきた。
「ヨクア村に戻って、アイリを堕としてきたら?」
……そうだな。アイリは元気にしているだろうか? 今ならオウデルさんにも勝てるかもしれないし、帰ってみるか。
「今日はヨクア村に行きたい。この世界に来て、最初にお世話になった人が住んでいるんだけど、会いに行っていいかな?」
マユは食事の手を止め、半眼で俺の目を見た。
「最初にお世話になった人ね……、また女でしょ?」
彼女の声のトーンは低くて、思わず俺の背筋が伸びた。
「うっ、マユは鋭いね。よく俺のことを分かってくれてる。森で迷子になってた俺を助けてくれた、オウデルさんとその娘のアイリっていう子なんだけど、久しぶりに会いに行こうかなと思って」
「カイトの顔に書いてあるよ。その子も堕とすつもりなの?」
「うーん、堕とせるかはわからないけど、この世界に来て初めて惚れた子なんだ。あと、ハーレムの夢を語ったのも、その子が初めてだよ」
それを聞いた三人は、なにも言わずに湿った視線を俺に送っている。やはり怒らせてしまっただろうか。
俺は沈黙に耐えられなくなり、おずおずと「駄目かな……?」と伺いを立てた。
すると一拍おいて、マユが口を開いた。
「カイトの好きなようにして。いつも言っているでしょ?」
マユは深くため息をついて続ける。
「最近の稼ぎでかなりお金に余裕ができたから、私もちょっと地元に帰って寄付してくるよ。嫌になって飛び出した村とはいえ、一応生まれ育った村だから。三日後には私もヨクア村に行くからそれまでに上手にやってよね」
フィリスも呆れたのか、肩をすくめて小さく首を振った。
「なら私は、カークヨムルド王国のサハン山にある、ハームジの街まで行ってくるね。会いたい人がいるんだ」
俺が「もしかして男?」と尋ねると、フィリスの唇が楽し気に弧を描く。
「そうね。嫉妬しちゃう?」
「ああ、嫉妬する。っていうか、前話していたランドルさん達だよね? 元気にしてるといいね」
「ふふ、そういうこと。実の兄様よりも、本当のお兄さん、お姉さんだと思っているからずっと気になってたんだ」
二人の話を聞いて、クレアは嬉しそうにほくそ笑んでいる。
「それなら、私はカイト様と二人きりで、ヨクア村へとお供致します」
クレアは前のめりになるが、彼女の手をマユが素早く捕まえた。
「クレア、私と一緒に来て」
「えー、何でですかー!?」
「私たちが一緒に行くと、カイトが女の子を口説くのに邪魔でしょ?」
その後、クレアは不満そうにぶつぶつ言っていたが、結局はマユに諭されたようだ。
みんな俺がアイリを口説きやすいように、気を使って別行動をしてくれるのか。
前の世界の感覚では、絶対にありえない状況だよな。異世界が凄いのか、チートスキルが凄いのか……。
別行動ということで多少心配はあるが、魔装術と高速移動術があるから、どこに行くのも大して時間はかからないだろうし、三人とも強いから問題ないだろう。
いざというときは、ノエルが教えてくれるだろうし。
「じゃあ、三日後ヨクア村で集合ってことで」
「ん、了解」「承知しました!」「了解!」
* * *
アーリキタの街を出て一人で街道を歩いている。久々の単独行動には物足りなさを感じる。あの三人は俺の一部になってたんだな……。
ヨクア村に入り、オウデルさんの丸太小屋を目指して歩いていくと、家の前にオウデルさんがいた。
「オウデルさん! お久しぶりです!」
「カイトよ。見違えたな?」
「分かるんですか?」
「もちろんじゃ。強者の風格が出ておるぞ。魔装術まで身に着けたようじゃな?」
「さすがオウデルさん。そんなことまで分かるんですね」
「久しぶりにやってみんか?」
「はい! 望むところです」
今や俺のレベルはオウデルさんより高い。そのうえノエルにみっちり仕込まれて、技量だってかなり成長しているはず。負ける要素なんてないよね?
「まー、やってみればわかるよ」
ノエルはなんとも含みを持った回答だ。そこは「楽勝に決まってるでしょ?」とか言って欲しかったな。
家の横にある空き地で、オウデルさんと木剣を持って向かい合う。魔装術は無しだ。
「いきます!」
力強く踏み込んで間合いを詰め、木剣を振り下ろす。俺の速さに反応できていないのか、オウデルさんは全く動かない、勝ったな。
ところが、オウデルさんはスッと身を躱したかと思うと、俺の頭を木剣でぶっ叩いた。
くそ、油断したか。アイギスの盾がなかったらケガしていただろう。
「どうした、カイトよ。こんなもんではないじゃろ?」
「もちろん!!」
しかし、その後も俺の木剣はオウデルさんに届くことはなかった。気が付くと俺は息を切らして汗だくになっていた。これじゃ、村を出る前と全く変わらない。
オウデルさんは、涼しい顔で笑っている。
「名のある師に指導されたみたいじゃの? 素晴らしい成長じゃ。だが、その程度ではアイリはやれんな」
「く……。まだまだ!」
「カイトよ、魔装術を使っても構わんぞ。わしも魔装術で受けて立とう」
「……いきます」
ここは村の中だ。俺が全力で魔装術を使用して暴れたら壊滅してしまう。だが生半可ではオウデルさんに通用しないはず。
なにも殺し合うわけじゃない、一本取るだけだ。攻撃力は抑えて、スピードの向上に全魔力を注ぎ込む!!
全開の魔装術によって、俺の体が光に覆われる。溢れ出す力の奔流が天へと昇り、俺を中心に光の柱が出来上がった。
この一撃に全てをかける! 全速力でオウデルさんに迫り、全身全霊の力を込めて木剣を振るう。
「はあぁぁぁ、いっけぇー!!」
「ほぇぇ、カイト? ちょっと待っ……」
俺の振るった木剣はオウデルさんの胴に直撃し、へし折れてしまった。オウデルさんなら、この攻撃すら容易く躱すんだろうと思っていたからびっくりだ。
「あのねぇ、カイトの魔力値はオウデルさんよりずっと高いし、魔装術だってオウデルさんは風属性魔法だよ。神聖魔法の魔装術のカイトのほうが、ずっと強いに決まってるでしょ」
ノエルの呆れた声が聞こえる。
うずくまってプルプル震えているオウデルさんに、セイグリッドヒールを掛けた。
起き上がって、額の汗を拭うオウデルさん。
「イヤ、もうわし死んだかと思ったぞ。まるで二十年前の勇者みたいじゃった」
「今の俺って、勇者並みの強さなんですか?」
「物の例えじゃよ。勇者の強さはまた別次元じゃった。しかし、本当に強くなったのう。まさかここまでとは思わなかったぞ。わしの負けじゃ」
オウデルさんは立ち上がり、折れた木剣を見て苦笑いを浮かべていた。
家の中にいたアイリが出てきた。
「父さん、なんか大きな音がしたけどどうしたの……。あ、カイト! 帰ってきたんだね!!」
「ただいま、アイリ」
「おかえりなさい。元気だった? 怪我とかしなかった?」
「大丈夫だよ。それより、俺、オウデルさんに勝ったんだ」
「え!? 本当? すごいじゃない! それで、その……、私と結婚する気なの?」
「まずは恋人からで頼むよ。アイリと恋人っぽいこと色々したいなー」
「カイトのスケベなところは変わってないんだね」
アイリは半眼でそう言うと、オウデルさんに向いた。
「父さん、私がカイトと付き合ってもいいよね?」
「好きにするがよい。わしは元々アイリの旦那はカイトがいいと思っておったんじゃ」
アイリは俺の腕に抱きついた。
「カイト、よろしくね!」
素の剣技ではまだオウデルさんに敵わなかったけど、アイリとの仲を認めてもらえて良かった。
いずれ素の剣技でも勝てるようになりたい。だけど今は、アイリと恋人になれた喜びで、俺の頭はいっぱいだった。




