天才な先生
――翌朝。
フィリスと手を繋いで食堂に行くと、マユとクレアは既に朝食を食べていたので、俺たちも同じテーブルに着いた。
クレアは眉を寄せて、俺の顔をジトーっと半眼で見つめる。
「カイト様……、すっきりした顔してますね。フィリス様いいなぁ……」
フィリスは、頬を染めて俯いてしまった。俺は頭をかきながら、苦笑いで返す。
「クレア、今夜は一緒に寝ようね?」
クレアは「はい!」と元気に返事をした。次にマユをチラリと見ると、黙って食事をしている。
「あのー、マユ?」
俺が恐る恐る声をかけると、食事の手を止めた。
「別に怒ってないって。カイトがそういう奴だって理解してるつもり。その上で私はこれからもずっとカイトを愛しているし、一緒にいるつもり。だから普通にしてたらいいよ」
マユに笑顔はなく、目も合わせてくれない。怒ってないと言ってはいるが、機嫌は良くなさそうだ。こんな時は、俺のモテモテスキルに頑張ってもらおう。
「ありがとうマユ。俺も愛してるよ」
俺が微笑みかけると、マユは頬を染めて「ん」と軽く頷いた。
* * *
食事を終え、席を立った。やるべきことがあると、自然と気合が入る。
「今日はダンジョンに行く前に、訓練場に行こう」
俺がみんなに提案すると、フィリスが自然な感じで俺の腕を抱きながら、問いかけてきた。
「昨日言っていた、魔装術ってのを教えてくれるのよね?」
俺が「ああ」と頷くと、マユは「早く覚えられるように頑張るね」と反対側の腕に抱きつく。
出遅れたクレアは、マユとフィリスを交互に見てあたふたしている。俺の両腕は塞がっているけど、どうするのだろう? と思っていたら、正面から抱きついてきた。
「私も早く覚えられるように頑張ります!!」
三人の美少女に密着されて嬉しいが、これじゃ少し歩きにくいな……。俺は両手と正面に花の状態で宿を出た。
外に出ると、歩きにくそうにしている俺を察したのか、マユとフィリスが腕から離れる。すると首に抱きついていたクレアも離れて歩きだした。
歩きやすくはなったけど、少し惜しい気もするかな。
四人で訓練場へと移動する道すがら、ノエルが言っていたことをふと思い出した。みんなに伝えておこう。
「クレアとフィリスにも神聖魔法を習得して欲しい」
フィリスが不思議そうな顔をして俺に聞く。
「クレアは神聖魔法を使っているように見えたけど?」
「ああ、あれは正確には神聖魔法じゃなくて、エクスカリバーの力を使っているんだよ」
フィリスは、指先にバチバチと電撃を発生させてみせた。
「神聖魔法か……、私に覚えられるかなぁ? 私は雷属性の魔法が使えるけど、やっぱり神聖魔法を覚えたほうがいいの?」
クレアも不安そうな顔をしている。
「あの……、私は属性魔法も使えません」
「俺が手取り足取り教えるから、すぐに使えるようになるよ」
クレアの顔がだらしなく緩み、フィリスの顔も嬉しそうだ。
二人とも可愛いなぁ……。俺の頬も釣られて緩む。するとマユが「ゴホン」と咳払いをした。俺は、はっと我に返って説明を続ける。
「属性魔法は神聖魔法の劣化版で、女神が魔力の振動数を下げて、人間でも扱いやすいように調整した物なんだ」
「それに比べ、神聖魔法は神が行使する力そのもの。属性魔法を反射、吸収、無効化したり、属性魔法よりも強力に物理的事象を改変させらるのは、そのためなんだよ」
「繊細かつ精密な魔力操作が必要だから、人間が扱うのは難しくて、生まれつき高い適性がないと基本的には扱えないし、そもそも神聖魔法の波動を正確に感知することはできない」
「でも神器の放つ波動は神聖魔法のそれだから、神器に触れその力を行使していれば、おのずと感知できるようになるはず」
「神聖魔法さえ使えれば、全属性魔法を使えるのと実質同じだし、使いこなせれば属性魔法と同じMP消費でも倍以上の威力があるよ」
三人は俺の話を聞いて感心している。全部ノエルに教わったことなんだけど。
「ま、慌てることはないから、これからは神器の力の波動を感じようとしてね」
クレアとフィリスはコクリと頷いた。
話しながら歩いていると、冒険者ギルドに到着した。
訓練場へ移動して、人がいない場所に陣取った。
クレアとフィリスには神聖魔法の波動を感知できるように、神器を持って瞑想してもらった。
マユは魔法を体に纏わせて戦う魔装術と、魔力の波動を感知して相手の動きを把握する波動感知の練習を始めた。
精神世界でノエルに教わったことを、三人に説明しつつ実演しているとノエルが告げる。
「先生スキルがLV5になったよ」
三人には天才スキルが無いから、簡単には習得できないかもと思ったけど、このまま俺の先生スキルがレベルアップすれば、思ったより早く習得できるかもしれない。頑張れ俺の先生スキル。
「それとクレアとフィリスが、神聖魔法を習得できるようになったよ。神殿へ行って祝福の儀をしてもらおう」
まだ一時間くらいしか瞑想してないのに、もう習得できるんだ……。
「天才スキル持ちのカイトが先生スキルで指導しているから、成長率に大きく補正がかかってるね」
彼女たちにも、俺のスキルの恩恵があるのか。さすがチートスキルだ!
祝福の儀はすぐ終わるだろうし、早く覚えたほうが良いだろう。いったん練習を中断して中央神殿まで行ってくるか。
冒険者ギルドのポータルから中央神殿に移動し、シスターさんを呼び止め祝福の儀をして欲しいと伝えると、マユの時と同じ部屋に案内された。
少し待っていると、神官のおじいさんが部屋に入ってきた。俺はクレアとフィリスの肩に手をあてて、この二人に祝福の儀をして欲しいと伝えた。
神官のおじいさんは、それを聞いて心配そうな顔で問う。
「適性がないと神聖魔法は習得できません。習得できなくても費用は掛かりますが構いませんか?」
「俺、鑑定系のスキルを持っているんですけど、二人とも適性があるので習得できますよ!」
「そうでしたか」
俺は力強く返事をしつつ200万イェンを手渡した。おじいさんは表情を緩めると、手に持った杖をクレアとフィリスに向けて、何やら呪文を唱え始めた。
しばらく待っていると、ノエルの声が聞こえる。
「クレアとフィリスが神聖魔法LV1を習得したよ」
俺たちはおじいさんにお礼を言って、神殿を後にしてポータルで再び訓練場へと戻ってきた。
さて、無事に神聖魔法も習得できたことだし、みんなで魔装術の練習をやるとしようか。
スタークとは俺がタイマンでやるつもりだから、彼女たちが慌てて魔装術を習得する必要はない。でも強くなった方が、ダンジョンをより深い階層まで潜れるから、レベル上げの効率も上がる。
可愛い三人が俺の言うことを素直に聞いて、精神統一したり魔力を練っているのを見ると、異世界に転生できて良かったなぁ、と浸ってしまうのだった。




