開かずの扉
ほどよい緊張感を保って練習しているともう昼だ。
お腹も空いてきたので、昼食をとるためにテンプーレ亭に向かった。ここは夜の営業だけじゃなくて、ランチもおいしいのだ。
日替わりランチを食べお腹を満たした後は、ダンジョンに潜ってレベル上げに励むことにした。
冒険者ギルドのポータルから、ダンジョン三十階層へと転移した。
今日の目標は三十五階層だ。
次々と出現するモンスターを、片っ端から蹴散らしてどんどん潜っていく。魔装術を習得した効果は絶大で、三十一階層より深い階層でも戦力不足は全く感じない。
初めて来た階層なのに、モンスターが弱く感じる。俺一人でもモンスターを全部蹴散らせるほどだった。
三十四階層に到達した。
ここに登場するのはフォンセアーマー。黒い甲冑のモンスターで、重たそうな見た目に反して素早く走り、大きな斧を自在に振り回し攻撃仕掛けてくる。
以前なら躱すのが難しかったであろうそれらの攻撃を、目で追うことなくかいくぐる。
そして魔力を神聖魔法に変換し出力させて剣に纏わせ斬りつけると、温めたナイフでアイスケーキを切り分けるように容易く刃が通った。
以前エクスカリバーで岩壁を斬ったのと似た手ごたえだ。
この階層なら、複数のモンスターに囲まれても危機感を全く感じない。神聖魔法によって光を帯びた剣を振るい、フォンセアーマーを切り裂きながら突き進んだ。
三十五階層に到達すると「隠し部屋に案内するね」とノエルの声が聞こえてきた。
案内に従い進んでいくと、あまりにも目立つ大きな扉があった。
これのどこが隠し部屋なの?
「通称ティバン三十五階層の開かずの扉。この扉は神器が二個無ければ絶対に開かない。過去に幾人ものAランク冒険者や、ダンジョン研究学者が、破壊しようとしたり調べたりしたけど開かなかったんだよ」
へー、普通には入れないから、隠し部屋なのね。
「クレアとフィリスに神器を扉に当てるように言って」
俺がノエルの指示を二人にそのまま伝えると、二人は神器をそっと扉に当てた。
二つの神器から、まばゆい光が溢れると、扉は重厚な音をたてながら開いた。
扉の奥へと進むと、禍々しい波動を放つモンスターがいた。
「テネーブホッグ。レベルは87だよ。カイト一人で倒してごらん」
ノエルに言われるまでもなくそのつもりだった。道中のモンスターは、手ごたえがなさすぎだったからな。
巨大なハリネズミ型モンスターのテネーブホッグ。赤黒く長いとげが全身を覆っている。あんなのに刺されたら、アイギスの盾があっても痛そうだ。
俺たちの姿を確認すると、テネーブホッグが咆哮を上げる。
ビリビリと肌を刺すプレッシャーからは、こいつがこの階層の雑魚たちよりも、ずっと格上の強敵であることがわかる。修行の成果を試すにはちょうどいい相手だろう。
「自分の力を試したいから、みんなは下がってて」
三人にそう言って前に出ると、テネーブホッグは丸まりウニのようになって転がりながら突進してきた。
テネーブホッグを覆っている長いとげが、ダンジョン内の床や壁を激しく削り取りながら、かなりのスピードで動き回る。
躱しながら剣を振って、とげを一度に数本切り落とすもすぐに再生してしまった。
なんて再生速度だ。丸裸にするのは無理そうだな。だけど、あれをかき分けて、直接胴体を斬り付けるのは難しいだろう。
ここは魔法を試してみよう。精神世界での修行で神聖魔法もLV10になったことだし、威力を確認しておくか。
俺を粉砕しようと、縦横無尽に暴れる巨大なトゲトゲを躱しつつ言霊を唱えた。
「グロージャベリン」
突き出した俺の手のひらから、光の槍が顕現して撃ちだされたそれは、神器から放たれる閃光とよく似ている。
命中した光の槍は、簡単にテネーブホッグを貫通し一撃でコアに変わった。我ながらかなりの威力ではなかろうか。
離れて見ていた三人は、驚いたのかぽかんと立ち尽くしている。
「楽勝だったよ!」
俺がピースサインを送ると、三人は駆け寄ってきた。フィリスの声は、まるで俺に抗議でもしているかのようだ。
「あんな強そうなモンスターを一撃って……、どこの世界に宿で気絶してるだけで強くなる奴がいるのよ!?」
「ただ気絶していただけじゃなくて、精神世界で修行してたんだって」
クレアは嬉しそうに目を輝かせている。
「さすがカイト様です! 素敵です!」
「うん、ありがと」
マユは目をパチパチとまばたかせながら、息を吐いた。
「カイトの異常さには慣れたつもりでも、いつも驚かされる……」
「惚れ直したでしょ?」
「惚れ直すも何も、私は元からカイトにベタ惚れなんだから」
マユは頬を染めて上目遣い。その可愛すぎる表情に、俺は思わずマユをギュッと抱きしめてしまった。
すると、クレアが両手を広げて声を上げる。
「カイト様! 私にもギュッてして欲しいです!!」
クレアを抱きしめると、フィリスは「私も……」とつぶやいた後、訴えるような目で俺を見ている。
可愛い恋人たちのおねだりに幸せをかみしめつつ、順に抱きしめるのだった。




