狩る者、狩られる者
「お前ら、この状況理解してる?」
嫌らしい笑みを受かべるウザークを俺は睨み返した。
「新人と女の子を狩るのに四人がかりとは卑怯だね」
「なんだ、理解が早いな。お前はその高そうな剣をいただいて殺す。女は楽しませてもらってから飼うか殺すか考える」
うわ……、典型的な悪人だ。俺はアイギスの盾によって絶対に怪我しないが、マユはそうじゃない。怖がっていないだろうか?
マユに視線を向けると険しい表情をしているが、絶望したり泣きそうになっているわけじゃない。この場を切り抜ける方法を模索しているのだろうか。二年も冒険者をしているだけはあるな。
「私が隙を作るから、カイトだけでも逃げて」
「マユ、落ち着いて聞いて。ウザークが新人狩りの常習犯だってことは最初から分かってた。俺がこいつらに勝てることもね。信じられないかもしれないけど、俺のスキルで絶対勝てるから任せてくれないかな?」
マユは目を見開くと、瞳をわずかに揺らした。
「……それで落ち着いているのね。どんな強力なスキルかは知らないけど、あっちの三人は弓を持っているよ。対処できるの?」
「俺のスキルで効かないから問題ない。俺があの三人を倒す」
「効かない……? 分かった。ならカイトに任せた」
マユは一瞬戸惑ったようだが、すぐに俺を信じてくれたみたいだ。
「私はウザークを止めるよ」
俺が「できそう?」と確認すると、マユは「冒険者の先輩としていいとこ見せないとね」とニッと笑って見せた。
俺とマユが作戦を立てていると、ウザークが怒鳴り声をあげる。
「何を小声でごちゃごちゃやってる? どっちが先に殺されるか相談でもしてるのか?」
俺たちはそれを無視して、背中合わせに立ち構える。
「マユ、気を付けてね!」
「カイトこそ!」
一言ずつ言葉を交わし、俺が通路を塞いで弓を構えている三人にダッシュで近づく。
三人は弓を引き絞り、矢を撃ってきた。すべてが俺に命中するも、アイギスの盾が発動して矢は弾かれる。
それを見て動揺したのか、腰が引けて反応できていない三人に順番に剣を振り下ろし、切り上げ、突いた。三人は血を流してあっけなく倒れた。
振り返るとウザークとマユが戦っている。
雑に剣を振るうウザークに対し、マユは無駄のない動きで杖を操り剣を捌いている、更にはウザークの隙を突いて杖を打ち付けていた。
マユもなかなかやるな。おっと、感心している場合じゃない。
切結んでいる二人の元に駆けつけた。
「マユ、後は俺がやるよ。光で照らしたまま見ていて」
マユは頷いて、バックステップでウザークから距離を取った。ウザークは驚いたのか声が裏返っている。
「はぁ? おまえ、三人に射抜かれて死んでないのか?」
「三人ならもう倒した」
ウザークは通路の方を見て、三人が倒れているのを確認する。
「嘘だろ? レベル1がなんでこんなに強いんだ?」
今のレベルは5だけどな。俺は慌てるウザークに地を蹴って斬りかかる。
そのままウザークと数合打ち合うが、マユの聖光のおかげか体は軽く力が溢れてくるし、ウザークの動きは鈍く感じる。形勢は俺の方が明らかに有利だ。
ウザークは、俺の袈裟切りを剣で受けながら許しを請う。
「ま、待ってくれ! 俺が悪かった! もうこんなことはやめる! 自首するから許してくれ!」
「いいよ」
俺は剣を下ろし構えをといた。
「バカが!!」
ウザークは剣を振り上げ、無防備な俺に正面から斬りかかる。
俺の首に剣が叩きつけられるも、アイギスの盾が発動。痛いがダメージは無い。
「剣が止められた?」
ウザークは顔を引きつらせて、動きが止まった。
「バカはお前だよ。何の策もなく、お前みたいな卑怯者の言うことを信じると思ったのか?」
無防備に固まっているウザークを斬りつけると、血を流してその場に倒れる。奴は縋るような目で「殺さないでくれ」と命乞いをはじめた。
ノエル、コレどうする?
「殺せば? ダンジョン内で死んだらじきに死体はダンジョンに吸収されて消えるし、強盗を返り討ちにしただけだから、カイトが罪に問われることはないよ」
うーむ、悪人とはいえ殺すには抵抗があるんだよね。
「なら、手間がかかって面倒だけど、捕らえて冒険者ギルドに突き出せば? ダンジョン入り口にいる門番まで連れていくと後は処理してくれるよ」
そうしよう。俺は地面に転がっているウザークに剣を向けて睨みつけた。
「手足を縛って痛めつけるために、ロープとか持ってるだろ? 出せ。あと、怪我を治すポーションも」
ウザークは出すのを渋ったので、剣の切っ先を顔の目の前に突き付けたら、物凄く嫌そうにマジックバッグから取り出した。
血を流して倒れている四人を後ろ手に縛り上げて、ポーションをかけると傷がふさがり歩ける程度には回復したようだ。
「怪しい行動したら殺すからね」
四人を先に歩かせて、俺とマユは彼らに続いて歩きダンジョンを出た。
入り口に立っている門番に経緯を説明すると、入り口横にある詰所から何人か出てきて、四人は連れていかれた。俺とマユはその詰所の中で事情聴取を受けた。
ギルドカードの提示を求められたり、何かと煩わしかったが、小一時間ほどでようやく解放された。やれやれだ。
パーティーメンバーも二人になってしまったので、一旦街に戻るか。
街への道をマユと話しながら歩いている。
「カイトって強いんだね」
「あいつらが弱すぎただけだよ。マユの方こそ杖捌きがカッコよかったよ」
「そうかなー、褒められることなんてないから照れる。カイトだって四人に囲まれても全く怯まないなんて凄いよ」
「最初から勝てるって分かってたから」
実際、ノエルに勝てると聞いてなきゃ怯んでたとは思う。
「それに、攻撃をどうやって防いでいたのか分からなかった。ウザークの剣が首に当たった時なんて、もうだめだと思ったよ」
「俺のスキルで防いだんだよ」
「そんなスキル聞いたことないよ。凄いスキルを持ってるんだね」
街へ帰る道のりで、マユに手放しで褒められて気分が上がるのだった。
* * *
街に着いた頃にはもう日が暮れかけていた。今日の収穫は小さなモンスターのコア三個だけだった。明日からは頑張らないと。
「マユ、お腹空いたよね? ご飯食べに行こう、いい店知らない?」
「いいよ、テンプーレ亭に行こ」
天ぷらか? いや、テンプレだろうな……。なんでもいいけど。
冒険者風の人々が行き交う大通りを、マユと二人で歩いている。
「あそこだよ」
マユが指差したのは、いかにもファンタジーな食堂といった雰囲気の店だった。料理のいい匂いが、ここまで漂ってくる。
店に入ると、客がたくさん入っていて賑やかだ。
開いているテーブル席について、マユおすすめの定食を二人分注文した。ほどなく運ばれてきたのは、パンに肉料理にサラダにスープだ。
テーブルに並べられた料理を食べながらマユと話す。
「マユは二年くらい冒険者やってるって言ってたよね?」
「二年といってもパーティーの後ろに付いていって、明かりで照らしていただけの役立たずだったけど……」
マユは苦笑いを浮かべて答えるので、俺はジーッと半眼でマユを見た。
「ゴメン、自分を下げるのが癖になってる。そういえば、カイトはどうして冒険者になりたいと思ったの?」
よくぞ聞いてくれました! 俺は胸を張って答える。
「俺Tueee&ハーレムを実現しいから!」
「強くなりたいのはともかく、ハーレムって……」
「うん! たくさんの可愛い女の子にモテモテになって、チヤホヤされたいんだ!」
「そんないい顔して言われてもね……」
「ダメかなぁ?」
「知らないよ。頑張ってとしか言えない……」
呆れられたようだが、その後も楽しく会話しながらの食事となった。
お腹も膨れて店を出ると、外はもう真っ暗だ。泊まる所を探さないといけないな……。
「マユ、宿屋もいい所を教えて欲しいなー」
「いいよ。付いてきて」
マユの案内で宿屋に行くと、イメージ通りの異世界宿屋だった。中に入ると受付カウンターには、恰幅のいいおばちゃんが立っていた。
「いらっしゃい! アンタたち、二人部屋かい?」
「いえ、一人部屋を二つで」
マユは首を横に振って、はっきりと答えた。
そりゃそうですよね……。少々残念だが、部屋の前でマユに声を掛けた。
「今日はありがと。明日もよろしくね!」
「うん、おやすみ」
マユは軽く手をあげて微笑んでくれた。
「うん」ってことは、明日も一緒にダンジョンに潜ってくれるんだよな。
ベッドに身を投げ出すと、今日の出来事が浮かんできた。
ウザークのせいで心が荒みそうだったけど、マユのおかげで癒された。
明日はもっと、マユと仲良くなれるといいな。そんな願いを抱きながら、眠りへと落ちていった。




