第三話 観察者と復讐者
国境近くから遠く離れた、広大な砂漠。
その砂漠の砂の絨毯に不自然な穴が一つ存在していた。
穴の直径は巨大で、龍さえも余裕で入れるだろう。
地面に対して水平で、そのまま地下へと続いていた。
穴の中を進んでいくと、無限に広がる洞窟があった。
薄暗く、ほとんど何も見えないこの場所に、一人の男と“何か”が立っていた。
「ったく、こいつもまた失敗作かもしんねぇな……一般の男相手に、あの戦い方は無いわ」
男が足下の池を見つめていった。
池には本来映るべきではない物が映っていた。
国境近くの草原だ。少年が複数の男と戦っているのを、客観的に映している。
「ふん、辛抱強いな。6千年も待ったのだ。もうこの小僧で十分だろう」
男の後ろの“何か”が不機嫌そうな声を漏らす。
“何か”は巨大だった。その薄暗い巨体の輪郭から、“何か”がただの生き物ではない事は安易に想像出来た。
“何か”は話し続けた。
「確認のために言うが、別に化け物の力をお前に転写しても、お前の既に持っていた力に足されるだけだ。別に上書きされる訳ではないぞ?」
“何か”の声はどこか迫力を感じさせる低い男の声だった。
反対に男の声はどこにでもいそうな若い男の声だ。
男が薄笑いを含んだ声で言った。
「わかってるけどよぉ。だってコピー出来るのは一度きりだぜ? 今回のを自分にペーストしたら、次は無い。だからこいつの次の勝負で決めるわ」
「ほう………で、その次の勝負とは?」
「何て事はねぇ。この小僧の復讐相手だよ」
男が“何か”の目を見つめて言った。
「アマテラスだ」
そして、その五年前。
『姿を見せろ! トリガーロック! この街を守りたいなら、外へでて私を止めてみよ!』
孤児院の外から声が聞こえた。
鳥呀は取り憑かれたように部屋を飛び出した。
その腕を少女--ユリが掴む。
「待って! 外に出たら、あの炎にあたって死んじゃう!」
「俺は化け物だよ! そう簡単には死なない!」
鳥呀はその手を振り払うと、しっかりとした目でユリを見た。
「それに……この炎を降り注いでいる奴は、俺が欲しいんだ。俺さえ手に入れば、きっと攻撃は終わるんだ」
11歳の少年はそう確信していた。
ここ、エイスプラザの街を攻撃している奴は、鳥呀と戦いたいのだ。
戦って、止めてみせろと挑発しているのだ。
街が自分が原因で被害を受けているのに、自分だけ逃げている訳にはいかない。
「待って!」
後ろでユリが叫ぶが、鳥呀は構わず走った。
扉を開け、廊下を走り、階段をジャンプする。
「避難しなさい! 全員、ベッドの下へ! 原因は分かりませんが、すぐに終わるはずです!」
孤児院の先生が階段の踊り場に立って孤児達を誘導していた。
鳥呀は先生の脇をするりと抜け、全速力で走る。
終わらせないと。
はやく終わらせないと。
もし自分が逃げたらどうなるか、鳥呀は考えた。
外にいる奴は、鳥呀が欲しい。
鳥呀は姿を見せない限り、エイスプラザは壊滅。
人々は姿を見せなかった鳥呀を責め、ますます鳥呀は孤独になる。
それに鳥呀はこうも思っていた。
自分は化け物だ。
この力を利用して、相手を退ける。すると街は救われる。
そうすれば、人々の鳥呀に対する考えも、少しは変わってくるんじゃないか、と。
これはもしや、神様が鳥呀に与えた最初で最後のチャンスかもしれない。
孤児院を出ると、そこは熱気で包まれいた。
向かいの建物は全焼し、石畳がめくりあがっていた。
鳥呀は空を見上げると、大声で叫んだ。
「俺だよ! 俺が、トリガーロックだよ! ここにいるぞ!」
攻撃が、一瞬止まった。
鳥呀はそこで記憶をぶり返すのを止めた。
この話はまだ完結していない。
今からアマテラスを殺し、復讐を果たしたとき、初めて鳥呀は救われる。
わずかに。わずかにだけれど。
全速力で走った。
気配から見て、紗香は追って来ていないだろう。
地面がもの凄い勢いで後ろへ吹っ飛ぶ。
ダダダダダという足音が、暗くなり始めた空の下で目立つ。
そして鳥呀は見た。
地平線の彼方に、テントが建ち並ぶ場所を。
「アマテラスはどこだァッ!」
鳥呀の怒鳴り声を聞いて、100個近く建てられていたテントから男達が顔を出した。
テントは等間隔に並べられており、幾人かの男は焚き火を燃やしていた。
「おいおい、いきなり現れて、人のボスを呼び捨てで呼んで、何様なんだよ坊ちゃん。おまけに--」
男の一人が鳥呀の服をまじまじを見つめる。
「ラーロンドのギルドからじゃねぇか」
「これはギルドの任務と関係ない。本来ならお前ら全員を殺してる所だったが、今は興味ない。お前らのボスに会わせろ」
鳥呀は怒りを込めた視線で男を見た。
男はやっと鳥呀が誰か気付いたようだ。
「おいお前ら! ゲストだぜ! なんと、俺たちのボスを一度倒した、あのトリガーロックだ!」
男が後ろを振り返って叫んだ。
テントから男達が飛び出し、何だ何だと騒ぎ始める。
「誰かボスを呼んで来てやれ。このトリガーロックが、ボスと会いたいってよ!」
別の男がにやにやしながら言う。
数人の男が奥の方のテントに向かって駆け出した。
鳥呀の周りでは何十人かの男が集まっていた。
物珍しそうに鳥呀をじろじろ見つめる。
そして、数人の男に連れられ、アマテラスが人垣をかきわけて鳥呀の前に現れた。
「ほう。これはこれは、久しぶりじゃないか。いやはや、何年ぶりかね」
脳が痺れる。
腕が震える。
あの時と同じ格好で、アマテラスが立っていた。目の前に。微笑を浮かべて。
白のローブを羽織、紳士的な髭を指でいじるその姿は、5年前と一緒だった。
腰には刀をさしている。
透き通るような銀色の毛が、肩にかかっていた。
「俺の、俺の故郷をめちゃくちゃにしやがって!」
鳥呀は叫ぶ。
怒りを引きちぎるように。
「アマテラス、お前に決闘を申し込む! 今度こそ、確実に息の根を止めてみせるぞ!」
鳥呀は怒りで震えながら怒鳴る。
男達が歓声を上げた。
その歓声に応えるように、アマテラスが右手を挙げた。
「いいだろう」
アマテラスの口から、そんな言葉がこぼれ出た。
次から俺の苦手なアクションシーンです………とりあえずなんとかやってみます!




