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舞踏会への招待状

「一ノ宮グループ、創業記念特別晩餐会……? しかも、宛名に『灰原香澄様』って……あんた、一体どんな手を使ったのよ!」


 リビングを揺るがしたのは、静江の断末魔のような絶叫だった。その手には、重厚なクロコ型押しの紙に金箔押しが施された、一ノ宮家直筆の招待状が握られている。


 香澄は、居間の古びた柱に残る「背比べの傷」――幼い頃、父がナイフで刻んでくれた自分の成長の証――を愛おしそうに撫でていた手を止め、深いため息をついた。


「知らないわよ。宛名間違いじゃない? 迷惑千万だわ、私は忙しいんだから」


「バカ言わないで! これは一ノ宮の若様に近づく、一生に一度のプラチナチケットよ! あんたみたいな『泥つき大根』に届くなんて、何かの手違いに決まってるわ。でもいいわ、あんたは私たちの『付き人』として連れて行ってあげる。一ノ宮家に恥をかかせないよう、引き立て役としてね」


 姉のルミとサキが、獲物を見つけた猛獣のような歪な笑みを浮かべて香澄を包囲した。


「香澄、あんたにはこれがお似合いよ。特別に貸してあげるわ」


 差し出されたのは、数年前の売れ残りのような、時代遅れで過剰なフリルが波打つサーモンピンクのドレス。サイズも全く合っておらず、香澄の鍛え抜かれた肩幅では今にも弾け飛びそうだ。


 さらには「私たちが綺麗にしてあげる」と称して、舞台用の白粉おしろいかと思うほどの厚化粧を無理やり施された。眉は不自然につり上げられ、唇には毒々しいほどの赤。


「……できたわ! まるで、泥の中から這い出てきた不恰好な妖精ね!」


 姉たちの嘲笑が響く中、香澄は鏡の中に映る自分を見つめ、膝の上で拳を固く握りしめた。

 そこには、スパナを握って笑う「灰原香澄」の面影はどこにもない。厚い化粧の下で、自分の肌が呼吸を忘れているような、不快な圧迫感だけが支配している。


(……何よ、これ。全然、私じゃない。お父さんが『お前は素顔が一番だ』って笑ってくれたのに)


 香澄は、ドレスの裾に隠された自分の「手」を見つめた。

 爪の間には、どんなに洗っても落ちない、誇り高きオイルの染みが残っている。


「……いいわよ。行ってやるわよ、その晩餐会だか何だか。でもね、覚悟しなさいよ。私の『意地』は、こんなフリルじゃ隠しきれないんだから」


 香澄は心の中で、腰に忍ばせた(物理的な)「武器」を確かめるように、ドレスのポケットに手を突っ込んだ。そこには、あの日誠からもらった、あのふわふわの高級タオルが、まるでお守りのように収まっていた。

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