㉚ 彼の正体
すると、独りになったはずの河合曾良が、ナニやらボソボソ喋り出したのである。
『はい、確かに数多くのポータル候補地を見つけました。いつでもゲート設置可能かと……そうですね。明日、芭蕉と別れて、そちらに合流し、詳しい報告を致します。』
こんな会話が成雪の耳に飛び込んで来たのだ。
しかも、ソレは……ヘブライ語だった!
こんな事もあろうかと、カグヤの手によって、彼にはあらゆる語学の知識も、インプットされていたのだ。まあ実はコレも、真田雪子のアドバイスによるものだったのだが……。
激しく動揺した成雪は、思わず、湯舟の水面を揺らしてしまった。
それを曾良は、敏感に察知した。
「誰だ!そこに居るのは!?」
今度は日本語だった。
知らぬフリもできまい。
そう覚悟した成雪は、湯に入ったまま、ゆっくりと彼に近づいた。
「なんか、今、外国の言葉が聞こえて来たような……。」
成雪はそう言って誤魔化す。
しかし曾良は、彼の顔を見るなり、血相を変えた。
「キサマは……真田雪村!何故こんなところに!?」
クローンのコピー元が、時空を超えた有名人だと、こんな時に極めて不都合なのである。
「あの〜、ええっと、ボクはそうじゃなくて、ですねえ……。」
「キサマなら、ヘブライ語が分かるはず。今の会話を聞いてしまったのだな?」
「ええ、まあ、でも、どういう意味なのかな?ポータルとか、ゲートとか?」
「……ならば、この場で死んでもらうしかないな。いや、キサマは、カナリ強いと聞いている。例え刺し違えてでも…。」
「いやあ、それは……遠慮したいなあ。」
「誰が、誰と刺し違えるですって?」
その時、突然凛とした女性の声がした。
(あれっ?ココは男湯だぞ?)
成雪は命の危険も忘れて、ついそんな事を思ってしまった。
湯舟の前の石畳に立っていたのは、真田雪子だった。
今日も冬物のセーラー服を着ている。イロイロな意味で、違和感アリアリである。
「キサマは、真田雪子!何故こんなところに?いや、まず、ココは男湯……。」
河合曾良は、最後までセリフを言わせてもらえなかった。
何故なら、雪子のチカラで、湯舟から空中に上げられてしまったからだ。彼は見えない手で、首の辺りを掴まれているようで、何だか苦しそうだった。
「アナタだって、本当は女性の爬虫類でしょうに。光学迷彩で変装しても、バレバレなんだから。アラハバキさん?」
彼女はそう言うと、曾良の光学迷彩を、強制解除した。
すると、そこに現れたのは紛れもなく、全身にヌラヌラとした鱗の生えた、ヒト型の爬虫類族だったのだ!




